主人は冷たい土の中に 歌詞の意味・和訳

フォスター歌曲/主人は眠る、冷たい、冷たい土の中に

『主人は冷たい土の中に』は、19世紀アメリカの音楽家スティーブン・フォスターにより1852年に作曲されたアメリカ歌曲。

『主は冷たい土の中に』、『主人は冷たい土の下に』などとも表記される。英語の原題は、『Massa's in de Cold Ground』。

綿花畑などのプランテーションでの黒人達の悲哀を歌ったプランテーション・ソングの一つ。農園を仕切っていた年老いた園主(主人)が亡くなり、そこで働いていた黒人達が、優しかった主人を偲んで嘆き悲しむという内容。

ちなみに、同じくプランテーションソングの「故郷の人々(スワニー河)」は、故郷を遠く離れ、アメリカのプランテーションで強制労働させられる黒人達の郷愁の想いをうたった曲。

また、ケンタッキーフライドチキンのCMで有名な「懐かしきケンタッキーの我が家」も黒人霊歌の一つ。

ちなみに、「吹けそよそよ吹け 春風よ」が歌い出しの日本の唱歌『春風(はるかぜ)』は、『主人は冷たい土の中に』のメロディに日本語の歌詞がつけられた歌曲。歌詞の内容は、原曲とはまったく関係がない。

エボニクス(Ebonics/黒人英語)について

この『主人は冷たい土の中に』を含め、初期の頃のフォスター歌曲に共通して見られる特徴として「黒人英語」の歌詞の多用があげられる。

黒人英語もいろいろ法則があるようだが、一例を示すと、thやvの音が発音できない(the→de)、促音が加わる(heaven→hebben)、単語の一部が省略して発音される(morning-mornin')などがある。

これら黒人英語は、黒人が正式な教育を受けていなかったことやリズム感を重視した彼らの歌い方に起因するといわれる。

【YouTube】Massa’s in de Cold Ground

歌詞の意味・和訳(意訳)

1.
Round de meadows am a ringing
De darkey's mournful song
While de mocking bird am singing
Happy as de day am long

草原に響き渡る黒人達の悲しみの歌
過ぎ去りし日の幸せをマネツグミが歌う

Where de ivy am a creeping
O'er de grassy mound
Dare old massa am sleeping
Sleeping in de cold, cold graound

ツタが這う草深い土手に
主人は眠る
冷たい、冷たい土の中に

<chorus>
Down in de cornfield
Hear dat mournful sound
All de darkeys am a weeping
Massa's in de cold, cold gound

トウモロコシ畑では
悲しみの歌が聞こえる
黒人たちも皆泣いている
主人は眠る
冷たい、冷たい土の中に

2.
When de autumn leaves were falling
When de days were cold
'Twas hard to hear old massa calling
Cayse he was so weak and old

秋の落葉 そして
寒い日々がやって来る頃は
主人の呼ぶ声が聞き取りづらい
彼はもう年老いて弱っていたから

Now do orange tree am blooming
On de sandy shore
Now de summer days am comming
Massa nebber calls no more

オレンジの木が茂り
砂浜に夏がやって来ても
主人の呼び声はもうしない

<chorus>
Down in de cornfield
Hear dat mournful sound
All de darkeys am a weeping
Massa's in de cold, cold gound

トウモロコシ畑では
悲しみの歌が聞こえる
黒人たちも皆泣いている
主人は眠る
冷たい、冷たい土の中に

3.
Massa made de darkeys love him
Cayse he was so kind
Now, dey sadly weep above him
Mournin cayse he leave dem behind

主人は愛されていた
彼はとても優しかったから
残された彼らは
ただ嘆き悲しむばかり

I can not work before tomorrow
Cayse de teardrop flow
I try to drive away my sorrow
Pickin' on de old banjo

働けないほどに涙は止まらない
古いバンジョーでもつまびいてみようか
悲しみを振り払うために

<chorus>
Down in de cornfield
Hear dat mournful sound
All de darkeys am a weeping
Massa's in de cold, cold gound

トウモロコシ畑では
悲しみの歌が聞こえる
黒人たちも皆泣いている
主人は眠る
冷たい、冷たい土の中に

日本語歌詞 その1

『Massa's in de Cold Ground』日本語歌詞については、作詞:武井君子による次のような歌詞が知られている。『静かにねむれ』と題される場合もある。

1.
青く晴れた空 白い雲
そよ風優しく 昔を語る
思い出す あの笑顔
眠れよ静かに 静かに眠れ

2.
呼んでも還らぬ 遠い日よ
春夏秋冬 月日は巡る
思い出す あの笑顔
眠れよ静かに 静かに眠れ

原曲の根底に流れる哀愁のエッセンスをうまく取り入れつつ、現代の音楽の授業でも歌えるようなシンプルで普遍的な表現となるよう綺麗にまとめられている。

教育芸術社の音楽教科書に掲載されていたようなので、小学校か中学校の音楽の授業で歌った記憶のある方も少なくないだろう。

日本語歌詞 その2

フォスター作曲『故郷の人々(スワニー河)』訳詞を手がけた作詞家・勝承夫(かつ よしお/1902-1981)による次のような日本語歌詞も発表されている。

1.
思い出さそうよ 吹く風も
帰らぬ主(あるじ)の あと追うように
今もなお 目に浮かぶ
姿よ眠れよ 大地は静か

2.
小鳥はさえずり 野はみのり
寂しく春秋 いつしか過ぎて
今もなお 目に浮かぶ
姿よ夕べに はるかにしのぶ

「帰らぬ主(あるじ)の あと追うように」という意味深なフレーズが印象的。

日本語歌詞 その3

ドイツ童謡『山の音楽家』訳詞を手がけた作詞家・水田詩仙(みずたしせん/本名:黒沢隆朝)による次のような日本語歌詞も存在する。

1.
小鳥はさえずる 春の空に
悲しき歌声 そぞろにひびく

若草しげれる この丘に
冷たく眠れる 君を慕いて

あわれ この歌声に
帰り来ませ いざ 眠れる君よ

2.
木々のもみじ葉は 寒く散れど
やさしきその声 今は聞こえず

オレンジは香り 夏たちて
年月めぐれど 君は帰らず

あわれ この歌声に
帰り来ませ いざ 眠れる君よ

「小鳥」「若草」「もみじ葉」「オレンジ」など、原曲の歌詞の流れにある程度忠実に日本語歌詞があてはめられている。

「帰り来ませ」という歌詞については、原曲のニュアンスにはない一歩踏み出た表現なので、評価が分かれる可能性があるように感じられる。

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