夏の思い出 歌詞の意味

水芭蕉の花が 咲いている 夢見て咲いている 水のほとり

「夏がくれば 思い出す はるかな尾瀬 遠い空」の歌い出しで親しまれる『夏の思い出』(なつのおもいで)は、1949年発表の日本の歌曲。

中学校の音楽教科書にもよく掲載され、女声合唱や混声合唱などの合唱曲としても編曲されている。

尾瀬ヶ原の湿原と至仏山

写真:尾瀬ヶ原の湿原と至仏山(出典:Wikipedia)

作曲は、『ちいさい秋みつけた』、『めだかの学校』などを手掛けた中田 喜直(なかだ よしなお/1923-2000)。父は『早春賦』を作曲した中田章。

作詞は、新潟県上越市生まれの詩人・江間 章子(えま しょうこ/1913-2005)。2歳頃に母親の実家である岩手県北西部の八幡平市(はちまんたいし)に移住し10年間過ごした。

【YouTube】中田喜直 夏の思い出

歌詞の意味

『夏の思い出』の歌詞について次のとおり引用しながら、いくつか語句の意味を簡単に解説してみたい。

夏がくれば 思い出す
はるかな尾瀬(おぜ) 遠い空
霧のなかに うかびくる
やさしい影 野の小径(こみち)

水芭蕉(みずばしょう)の花が 咲いている
夢見て咲いている水のほとり
石楠花(しゃくなげ)色に たそがれる
はるかな尾瀬 遠い空

夏がくれば 思い出す
はるかな尾瀬 野の旅よ
花のなかに そよそよと
ゆれゆれる 浮き島よ

水芭蕉の花が 匂っている
夢みて匂っている水のほとり
まなこつぶれば なつかしい
はるかな尾瀬 遠い空

尾瀬(おぜ)とは、福島県・新潟県・群馬県の3県にまたがる地域。中心となる尾瀬ヶ原は日本を代表する高地の湿原帯となっている。

自然の宝庫である尾瀬には、ミズバショウ(水芭蕉)やミズゴケなど湿原特有の貴重な植物群落が見られる(写真の出典:Wikipedia)。

尾瀬のミズバショウ(水芭蕉)

ちなみに、尾瀬のミズバショウ(水芭蕉)が咲くのは実際には春先(5月末ごろ)。これは、作詞者の江間章子が幼少期を過ごした岩手県北西部が、夏でも水芭蕉を見ることのできる地域だったという事情があるようだ。

なお、歳時記に掲載された俳句の季語では、ミズバショウは夏の季語となっている。

しゃくなげ色とは?

シャクナゲの花

写真:アズマシャクナゲ(福島県会津地方/出典:Wikipedia)

『夏の思い出』の歌詞では、花の名前としてミズバショウの他にも「シャクナゲ」が登場する。

石楠花(しゃくなげ)色に たそがれる
はるかな尾瀬 遠い空

<引用:『夏の思い出』一番の歌詞より>

シャクナゲ (石楠花、石南花) は、ツツジ科ツツジ属の低木で、花の色は白や赤が多く、黄色なども見られる。

数多くの品種があるが、『夏の思い出』の歌詞で歌われている「シャクナゲ」については、東北地方から中部地方までの山地・亜高山帯に分布するアズマシャクナゲではないかと推測される。

アズマシャクナゲは紅紫色の花なので、『夏の思い出』の歌詞にある「石楠花(しゃくなげ)色に たそがれる」とは、夕焼けの赤い色か、その夕焼けが消えかかる「黄昏(たそがれ)」時の空の色を表していると考えられる。

浮き島とは?

尾瀬の浮き島

写真:尾瀬の浮き島(出典:ブログ「山と俺と」)

『夏の思い出』二番の歌詞に登場する「浮き島」について簡単に補足したい。

花のなかに そよそよと ゆれゆれる 浮き島よ

<引用:『夏の思い出』二番の歌詞より>

浮島(うきしま)とは、湖や沼などに島のように浮かんでいる塊で、泥炭や植物の枯死体などから成る。

尾瀬ヶ原の他にも、山形県西村山郡朝日町にある大沼の浮島が有名。

モーツァルト『ピアノ・ソナタ第11番』とそっくり?

余談だが、中田喜直が作曲した『夏の思い出』は、第3楽章の「トルコ行進曲」で有名なモーツァルトのピアノ・ソナタ第11番 第1楽章とメロディがよく似ていることでも知られている。比較しながら聴いてみると面白いかもしれない。

【YouTube】モーツァルト ピアノ・ソナタ 第11番 第1楽章

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