夏は来ぬ 歌詞の意味

卯の花の匂う垣根に ホトトギス早も来鳴きて

『夏は来ぬ』(なつはきぬ)は、作詞:佐佐木信綱、作曲:小山作之助により1896年に発表された日本の歌曲。

「来ぬ」とは、「来る」の連用形「き」に、完了の助動詞「ぬ」の終止形が加わった形で、曲名全体では「夏が来た」という意味になる。その他の歌詞の意味については後述する。

卯の花(ウツギの花)

写真:卯の花(ウツギの花)出典:Wikipedia

歌詞では、卯の花(ウツギの花)やホトトギス、五月雨(さみだれ)に田植えの早乙女(さおとめ)など、5月の初夏を象徴する季語や動植物がふんだんに織り込まれている。

「夏が来れば思い出す」が歌い出しの『夏の思い出』と並ぶ、日本の夏を象徴する季節の歌として愛唱されており、2007年には「日本の歌百選」に選出された。

その他の有名な日本の夏の歌については、こちらのページ「夏の童謡・唱歌・日本のうた」で一覧にまとめている。

試聴:『夏は来ぬ』

歌詞:『夏は来ぬ』

卯の花の 匂う垣根に
時鳥(ホトトギス) 早も来鳴きて
忍音(しのびね)もらす 夏は来ぬ

さみだれの そそぐ山田に
早乙女が 裳裾(もすそ)ぬらして
玉苗(たまなえ)植うる 夏は来ぬ

橘(タチバナ)の 薫る軒端(のきば)の
窓近く 蛍飛びかい
おこたり諌(いさ)むる 夏は来ぬ

楝(おうち)ちる 川べの宿の
門(かど)遠く 水鶏(クイナ)声して
夕月すずしき 夏は来ぬ

五月(さつき)やみ 蛍飛びかい
水鶏(クイナ)鳴き 卯の花咲きて
早苗(さなえ)植えわたす 夏は来ぬ

歌詞の意味は?

『夏は来ぬ』の歌詞を見てみると、古典文学者により作詞された19世紀の古い歌曲ということもあってか、普段聞きなれない若干堅めの表現が多用されている。曲への理解を助けるため、分かりにくい単語・歌詞について簡単に補足してみたい。

1番の歌詞:ホトトギスと卯の花

1番の歌詞で冒頭に登場する「卯の花(うのはな)」。これは初夏に白い花を咲かせるウツギの花を指す。旧暦の4月(卯月)頃に咲くことから「卯月の花」=「卯の花」と呼ばれた。

「早も来鳴きて」とは、「早くも来て鳴いている」の意味。

「忍音(しのびね)」とは、その年に初めて聞かれるホトトギスの鳴き声を指し、『古今和歌集』や『枕草子』などの古典文学作品にも登場する古語の一つ。

2番の歌詞:山村の田植え

『夏は来ぬ』2番の歌詞では、山村での田植えの様子が描写されている。さみだれ(五月雨)とは、旧暦の5月頃に降る雨を意味する。五月(さつき/皐月)は田植えの月として「早苗月(さなえつき)」とも呼ばれた。

「早乙女(さおとめ)」とは田植えをする女性、裳裾(もすそ)とは衣服のすそ、「玉苗(たまなえ)」は、「早苗(さなえ)」と同様、苗代(なわしろ、なえしろ)から田へ移し植えられる苗を意味している。

3番の歌詞:「蛍雪の功」

3番の歌詞では、まずミカン科の柑橘類の一種であるタチバナ(橘)が描かれる。『古今和歌集』でも取り上げられ、「五月待つ 花橘の 香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする」(よみ人しらず)などと詠まれた。

歌詞の後半で「蛍飛びかい  おこたり諌(いさ)むる」とあるが、これは中国の故事「蛍雪の功(けいせつのこう)」からヒントを得た表現であろう。

『夏は来ぬ』の歌詞においては、「蛍雪の功」の故事をふまえ、夏の夜も怠らず勉学に励めと、まるで飛び交う蛍に諌められているかのような表現となっている。

蛍雪の功」に関連する歌としては、卒業ソング『蛍の光』や『仰げば尊し』が有名。

4番の歌詞:農村の夕暮れ

冒頭の「楝(おうち)」とは、夏に花をつける落葉樹のセンダン(栴檀)を意味する。水鶏(クイナ)は、古典文学にたびたび登場するヒクイナ(下写真)を指していると思われる。

ヒクイナの鳴き声は戸を叩くようにも聞こえることから、古典文学では「くいな」、「たたく」、「門」、「扉」などの単語と関連付けられて用いられてきた。

一例を挙げると、次のような古文や俳句が詠われている。

くひなのうちたたきたるは、誰が門さしてとあはれにおぼゆ。

<紫式部 『源氏物語・明石』>

此宿は水鶏も知らぬ扉かな

<松尾芭蕉>

5番の歌詞:総まとめ

『夏は来ぬ』最後の節では、1番から4番までの歌詞で登場した既出の単語をまとめて再登場させ、歌全体を締めくくるような構成がとられている。

初夏に関連する季語をズラっと並べて、様々な風物詩を通して夏の訪れを豊かに表現している。

「五月(さつき)やみ」とは、「五月闇(さつきやみ)」、つまり陰暦5月の梅雨が降るころの夜の暗さや暗やみのこと。

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