鳴かぬなら… 誰が詠んだ? ホトトギスの川柳

織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の三人と鳴かないホトトギス

鳴かないホトトギスについて、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の三人がどう対処するかという「鳴かぬなら…」の川柳は、一体いつ誰が詠んだ句なのだろうか?

現在までに判明している歴史資料とその該当部分の記述について、古い順に簡単にまとめてみた。

鳴かぬなら… 誰が詠んだ? ホトトギスの川柳

ご紹介する文献の中で、ホトトギスについて「郭公」、「時鳥」などの別名・異名が用いられているが、これらについてはこちらのページ「ホトトギスの別名 異名 漢字 意味・由来」で解説しているので適宜参照されたい。

また、「テッペンカケタカ」や「トッキョキョカキョク(特許許可局)」など、ホトトギスの鳴き声に人間の言葉を当てはめる有名な「聞きなし」の意味・由来についてはこちらで一覧にまとめている。

耳嚢(みみぶくろ)

「鳴かぬなら…」の原形と思われる川柳は、江戸中期に書かれた雑話集『耳嚢(みみぶくろ)』に収録されている。

『耳嚢(耳袋)』は、旗本・南町奉行の根岸鎮衛が、佐渡奉行時代(1784-87)頃から晩年(1814年)までの約30年にわたって、様々な怪談・奇談・噂話を書きためた全10巻の雑話集。

何度も書き写されて何種類も写本が出回っているため、出典によって部分的に文章表現が異なり、漢字・かな表記にゆれが見られる。

さっそく、「鳴かぬなら…」の該当部分を引用して確認してみよう。

いまだ郭公を聞かずとの
物語いでけるに、信長、
鳴ずんば殺してしまえ時鳥
と、ありしに秀吉、
なかずともなかせて聞こう時鳥
と、有りしに、
なかぬならなく時聞こう時鳥
と遊はされしは神君の由。

<引用:『耳嚢(耳袋)』八の巻「東洋文庫208 耳袋2」平凡社>

現在よく知られている「鳴かぬなら…」の川柳とは若干異なっているが、信長・秀吉・家康のそれぞれの個性はしっかりと表現されているように感じられる。

「鳴ずんば」とは、「鳴かないのならば」の意味。

郭公、時鳥は、ホトトギスの別名・異名

神君(しんくん)とは「神格化された君主」、江戸時代では「徳川家康」を意味することが多い。

現代版に近い甲子夜話

上述の『耳嚢(耳袋)』八の巻が完成したのは1805年頃だが、そこから20年前後経過した江戸後期に出版された随筆集『甲子夜話』(かっしやわ)では、現在よく知られている形に近い「鳴かぬなら…」の川柳が収録されている。

郭公を贈り参せし人あり。されども鳴かざりければ、

なかぬなら殺してしまへ時鳥  織田右府

鳴かずともなかして見せふ杜鵑 豊太閤

なかぬなら鳴くまで待よ郭公  大権現様

<引用:『甲子夜話』三十五巻八 東洋文庫333「甲子夜話四」平凡社>

郭公、時鳥、杜鵑は、いずれもホトトギスの別名・異名

『耳嚢(耳袋)』と比較すると、20年後の江戸後期に刊行された『甲子夜話』の方が、現代の我々が知る「鳴かぬなら…」の川柳にぐっと近づいていることが分かる。

なお『甲子夜話』の筆者は、肥前国平戸藩第9代藩主・松浦静山。1821年から1841年まで20年間にわたり執筆され、正篇100巻、続篇100巻、第三篇78巻に及ぶ。

誰が句を詠んだ?

信長・秀吉・家康の個性を表した「鳴かぬなら…」の川柳は、一体誰が詠んだのだろうか?

『甲子夜話』の筆者・松浦静山だろうか?それとも、その20年前の『耳嚢(耳袋)』筆者・根岸鎮衛だろうか?

残念ながら、これらの川柳を誰が詠んだのかについては、今日まで決定的な資料は見つかっていない。

粕谷宏紀編「新編川柳大辞典」(東京堂出版)では、三将が詠んだとするのは誤りと指摘されている。

本当の作者が誰なのかについては、専門家らによる今後の更なる研究の進展を待つほかなさそうだ。鳴くまで待とうホトトギス。

明智光秀の句もある?!

2020年に放送されたNHK大河ドラマ「麒麟が来る」において、主人公として注目を集めた明智光秀(明智十兵衛)。

ネットで検索すると、明智光秀の名前が付された次のような「鳴かぬなら…」の川柳を見かけたので、その出典や真偽は不明なものの、参考までにご紹介したい。

鳴かぬなら 放してやろう ホトトギス

鳴かぬなら 私が泣こう ホトトギス

いつ誰が詠んだ川柳なのか出典は不明で、なぜ2種類もあるのかよく分からないが、明智光秀の(性格を表した)句としてネットで出回っている。興味深い内容だが、作者不明の後世の創作であることは間違いないだろう。

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