本当のドナドナ作詞者は誰?

ツァイトリン?それともカツェネルソン?

『ドナドナ』の作詞者については、ユダヤ系の詩人・文学者アーロン・ツァイトリンとするのが今日最も有力な説と考えられるが、一方で同じくユダヤ系の詩人イツハク・カツェネルソンの名前も挙げられることがある。

状況証拠的にはツァイトリンを作詞者と考えるのが自然なのだが、「火の無い所に煙は立たぬ」とも言うように、カツェネルソンを作詞者とする説にもそれなりの理由があるようだ。

果たして、本当のドナドナ作詞者は誰なのか?二つの説はどのように主張されているのか?まずは前者のツァイトリンから確認してみよう。

写真:ポーランドの世界遺産クラクフ旧市街(歴史地区)

なお、『ドナドナ』原曲の歌詞についてはこちら

アーロン・ツァイトリン説

『ドナドナ』の原曲は、1940年にニューヨークの劇場で公開されたミュージカル「エスターケ(エスタルケ) Esterke」の挿入歌として作曲された。

ツァイトリンは、このミュージカルの執筆を念頭において、ある劇作家に招かれる形で1939年3月にポーランドからニューヨークへ移住しており、彼が同ミュージカルを構成する『ドナドナ』の作詞も行ったと考えられている(作曲はショロム・セクンダ)。

ジョーン・バエズが1960年に『ドナドナ』をカバーしたアルバムでも、作詞者としてツァリトリンの名前がクレジットされており、アメリカの音楽業界ではツァイトリン側に立った説明がなされることが一般的なようだ。

写真:ツァイトリンがヘブライ語文学の教授を務めたアメリカ・ユダヤ教神学院

ただ、ツァイトリンが『ドナドナ』の歌詞を手掛けるに際して、一から新たに書き下ろしたのか、それとも他の詩人による作品を参考にしてアレンジされた歌詞なのか、その歌詞のオリジナリティについて今日確認することはできない。

ツァイトリンによる完全な新作であることが確認できない以上、真の作詞者として他の詩人が候補に挙げられる余地が生まれることになる。それが次に述べる「イツハク・カツェネルソン説」である。

イツハク・カツェネルソン説

『ドナドナ』作詞者としてイツハク・カツェネルソンの名前が世に広まったのは、大阪府立大学教授(ドイツ思想専攻)の細見和之氏によるいくつかの著書の存在が大きい。

例えば、1996年に講談社から出版された細見和之著「アドルノ――非同一性の哲学」では、ドイツのフォークグループ「ツプフガイゲンハンゼル Zupfgeigenhansel」のレコード「イディッシュ歌集 Jiddische Lieder」に付されていた説明書き(ライナーノーツ)の記述を引用している。

このレコードの説明によれば、『ドナドナ』作詞者はイツハク・カツェネルソンであり、メロディはトラディショナル(民謡)と解説されているそうだ(作曲はショロム・セクンダ)。

この点、細見氏はこの解説が幾分不正確であることを十分承知で、しかも『ドナドナ』が1940年のミュージカルで使われた曲であることも正確に把握している。

恐らく細見氏は、時系列的な歴史的事実を十分に把握したうえで、『ドナドナ』が「ユダヤ人に対するポグロム(民族虐待)を歌ったユダヤ人の歌」であることを主張するため、あえてドイツのレコードをダシにして、カツェネルソンという時代を象徴するシンボル的な人物と『ドナドナ』を重ね、分かりやすく印象深いメッセージとして読者に伝えようとしているのではないだろうか。

まとめ

確かに、『ドナドナ』は1940年のミュージカル向けにツァイトリンが作詞した楽曲であるとするのが素直な考え方であることは間違いないだろう。

ただ先述のとおり、ツァイトリンによる歌詞が完全な新作なのか、他の詩人による詩稿などが用いられた可能性はないのか、今日それを確認する客観的資料は残されていない。

細見氏が引用したドイツのレコードが、一体どのような資料に基づいてカツェネルソンの名前にたどり着いたのか、非常に興味があるところだ。この辺をさらに深く調査すれば、また新たな発見があるのではないだろうか。今後の更なる研究成果に期待したい。

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