虫のこえ
日本の童謡・唱歌/あれ松虫が鳴いている♪
「あれ松虫が鳴いている」が歌い出しの唱歌『虫のこえ』(虫の声)は、1912(明治45)年の唱歌集「尋常小学唱歌」第三学年用に掲載された文部省唱歌。
歌詞では、マツムシ(松虫)、スズムシ(鈴虫)、コオロギ、ウマオイ、くつわ虫の五匹の虫達が登場し、それぞれが奏でる個性的で楽しげな音色が描かれている。
様々なキャラクターが次々に音を奏でるという点では、ドイツ民謡「私は音楽家(山の音楽家)」をどこか彷彿とさせる。
挿絵:講談社「童謡画集(3)」(1958年)より
唱歌『虫のこえ』
『虫のこえ』に登場する鳴く虫5種類
歌詞
あれ松虫が 鳴いている
ちんちろ ちんちろ ちんちろりん
あれ鈴虫も 鳴き出した
りんりんりんりん りいんりん
秋の夜長を 鳴き通す
ああおもしろい 虫のこえ
きりきりきりきり こおろぎや(きりぎりす)
がちゃがちゃ がちゃがちゃ くつわ虫
あとから馬おい おいついて
ちょんちょんちょんちょん すいっちょん
秋の夜長を 鳴き通す
ああおもしろい 虫のこえ
キリギリス?コオロギ?どっち?
歌詞の二番の冒頭で、「きりきりきりきり きりぎりす」の「きりぎりす」が「こおろぎや」に差し替えられるバージョンがある。
これは、中世の頃からキリギリスとコオロギが取り違えられていたとの説に基づくもの。これを裏付ける有名な資料として、「春はあけぼの」の出だしで有名な清少納言『枕草子』の次の一節をご紹介したい。
115段(終わり)
九月つごもり、十月朔日(ついたち)の程に、唯あるかなきかに聞きつけたる蟋蟀(きりぎりす)の声。
<引用:清少納言『枕草子』115段(終わり)より>
「つごもり」とは太陰暦における「月ごもり」、つまり新月(月末)のこと。
旧暦における十月初旬は現代だと立冬の頃。キリギリスは夏の昼間に鳴く虫なので、この『枕草子』における「蟋蟀(きりぎりす)」は現代のキリギリスではなく、コオロギを指していると考えられている。
元の歌詞の「きりぎりす」のままにしておけば、「きり」という音が頭韻を踏んで聞こえはいいのだが、今日では「こおろぎや」として歌われているようだ。
ちなみにウィキペディア(Wikipedia)によれば、「きりきり」と鳴くコオロギはカマドコオロギであるとのこと。実際の日本では、「コロコロ…」「ヒヨヒヨ…」などと表現されるエンマコオロギが多い。
スズムシとマツムシも昔は逆だった?
スズムシとマツムシについても、平安時代以降に呼び方が逆転していた時期があった。この点については、こちらのページ「スズムシの鳴き声 昔はマツムシだった? 意味・理由・歴史」で解説している。
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