団子浄土 柳田 国男「日本昔話集 上」より
昔ばなし「おむすびころりん」のルーツ?
昔ばなし「おむすびころりん」のルーツに関連して、日本の民俗学者・柳田 國男が1930年(昭和5年)に出版した「日本昔話集 上」より『団子浄土(だんごじょうど)』をご紹介したい。
画像は、国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている「日本昔話集 上」の実際の画像。
この国立国会図書館の公開画像を元に、柳田 國男が収集した『団子浄土』のテキストを次のとおり掲載する。テキスト化の際、表記は現代的な文字遣いに修正した。原文とは若干異なっているので注意されたい。
この『団子浄土』は『地蔵浄土』とも呼ばれる日本の民話・昔ばなしの一つで、『ネズミ浄土』や『おむすびころりん』のルーツとも言うべき歴史的な作品となっている。
なお、『おむすびころりん』に関して、柳田 國男『団子浄土』よりも過去にさかのぼれる歴史的資料としては、明治35年に小泉八雲が出版した『お団子ころりん』が確認できる。
『団子浄土』編纂:柳田 國男 昭和5年
昔々あるところに、爺と婆とがまたありました。春の彼岸に彼岸団子をこしらえていたところが、一粒の団子が底に落ちて、ころころと転がってゆきました。
だんごだんご何処まで転ぶと、爺がそう言って追っかけていくと、地蔵さんの穴まで転ぶと言いながら、団子はとうとう穴の中に入ってしまいました。
爺もその後から穴の中へ入っていきますと、穴のそこは広くて、そこに地蔵さんが立っておられました。その地蔵の前でやっと団子をつかまえて、土のついている方を自分で食べて、土のつかぬ方を地蔵さんにあげました。
そのうちに暗くなったからもう帰ろうとすると、地蔵さんがおれの膝の上さあがれという。もったいなくてあがれません。いいからあがれというからそのとおりにすると、今度は肩の上さあがれといいます。
膝までもやっとあがったのに、とてももったいなくてあがれませんと断りましたが、無理にあがれというから肩の上へあがりました。そうすると、今度は頭の上さあがれといいます。辞退をしてもなんでもあがれというので、思い切って地蔵の頭の上にあがりました。
そうすると一本の扇を地蔵さんが貸してくれました。今にここへ鬼どもが来て博打(ばくち)をはじめるから、よい頃にこの扇をたたいて、鶏(にわとり)の鳴く真似をしろと教えられました。
案のごとく大勢の鬼がやって来て博打をはじめたから、しばらくしてから地蔵のいうとおりに鶏の鳴くまねをすると、そらもう夜が明けると鬼どもは大騒ぎをして、銭や金をたくさんに残して置いたままで、みな逃げていってしまいました。それで爺はその金や銭を地蔵さんにもらって、喜んで家に帰って来ました。
うちでは婆が待っていて、二人でその銭金をひろげて見て大喜びをしていますと、ちょうど隣の婆が遊びにきてびっくりしました。
どうしてこの家では、急にそのように福々しくなったのかと聞くので、正直な爺はありのままの話をしますと、それならおら家の爺も地蔵さんの穴へやるべちゃといって、いそいで帰って二人でわざわざ団子をこしらえました。
そうしてその中の一粒をわざと庭におとしましたが、ちっともころばないので足でけるようにして、むりやりに穴の中に入れて、自分もそのあとからのこのこと入っていきました。
地蔵さんの前に行ってみると、団子が土まみれになってころがっています。その中のきれいな所だけを自分が食べてから、まわりの土のついたのを地蔵さんにあげました。
そうして誰もあがれともいわないのに、ひとりで地蔵さまの膝から肩、頭のてっぺんまでさっさとあがって、貸すともいわない扇をだまって取って待ちかまえていますと、やはりその日も鬼どもが集まってきて、地蔵の前で博打をはじめました。
それでさっそくその扇をはたはたとたたいて、鶏のなく声をまねてみますと、鬼たちはもう夜が明けるのか、早いなあといってあわてました。そのうちに一匹の小鬼がにげそこねて、囲炉裏のかぎを鼻の穴にひっかけて大きな声を出して、
やあれ待ちろや鬼どもら
かぎさ鼻あひっかけた
といったので、爺は思わず知らずくすくすと笑ってしまいました。そうれ、人間の声がしたと、鬼はほうぼう捜しまわって、とうとう地蔵さんの頭の上から、隣の爺をひきずり下して、ひどい目にあわせました。
鬼がのこしていく金をひろって来るかわりに、やっと命だけをひろって、ほうほうの体でにげて帰りました。だからあんまり人のまねはするものでないという話であります。
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