アンクル・トムの小屋 影響・あらすじ
フォスターの楽曲やアメリカ南北戦争にも影響を与えた歴史的名著
『アンクル・トムの小屋』(Uncle Tom's Cabin/アンクル・トムズ・キャビン)は、アメリカの女性作家ストウ夫人(ハリエット・ビーチャー・ストウ)が1852年3月に単行本発表した小説。
オリジナルは、1851年6月から1852年8月にかけて、奴隷制廃止論者(アボリショニスト)の機関紙「National Era(ナショナル・エラ)」上で連載されていた作品。
その年のうちに30万部の売上を記録した『アンクル・トムの小屋』は、北部自由州(奴隷制度反対派)の人々の人道主義的感情をかきたて、逃亡奴隷の取締りや奴隷制度への一般的憎悪を深め広げる結果となった。
挿絵:アンクル・トムと少女エヴァ(作:Author Edwin Long/1829–1891)
『アンクル・トムの小屋』が出版された頃のアメリカでは、1848年から始まったゴールドラッシュの波に乗って、スティーブン・フォスターの作曲した『おお、スザンナ』が流行していた。
スティーブン・フォスターが1853年に発表した『懐かしきケンタッキーの我が家』は、その前年に出版された『アンクル・トムの小屋』の影響を受けたと考えられている。
あらすじ
挿絵:1852年出版当時の『アンクル・トムの小屋』イラストレーション
シェルビー家に仕えていた黒人奴隷トムは、主人の息子ジョージから慕われて幸福な日々を送っていたが、シェルビー家が困窮し、ジョージと別れて売られていくことになる。
その途中、船で出会った白人少女のエヴァンジェリンを救ったことで仲良くなり、彼女に友達として愛される。
しかし、エヴァンジェリンは病死し、トムの理解者だった彼女の父も事故死してしまい、冷酷な彼女の母によってトムは悪辣な農場主レグリーに売られてしまう。
レグリーの元で残虐な扱いを受けたトムは、最後にはレグリーに暴行されて息絶えるる。死の直前にトムは、彼を買い戻しに駆けつけたジョージと再会し、そのジョージによって丁重に葬られた。ジョージは奴隷解放・制度廃止の運動に身を投じる。
トムはイエス・キリスト?!
『アンクル・トムの小屋』は、キリスト教色の濃い宗教小説であると評価されることももある。
トムを助けた少女エヴァンジェリンを天使、悪辣な農場主レグリーを悪魔と見立てた上で、受難しそれを耐え忍び、自らを殺そうとするレグリーをも赦し、2人の凶暴な男に囲まれて亡くなるというトムの最期は、イエス・キリストをモチーフとしているのではないかと解釈できるようだ。
エヴァンジェリンは、日本で有名な「エヴァンゲリオン」と同じく、語源は聖書の「福音」を意味するギリシア語のエウアンゲリオン(εὐαγγέλιον, euangelion)に由来する。
また、エヴァ(Eva)という名前は、聖書の創世記に登場する最初の女性である「エバ(イヴ)」の意味合いもある。
アメリカ南北戦争の遠因?
当時のアメリカは西へ領土を拡大していた頃で、奴隷制度反対の北部自由州と、農園で働かせる奴隷が必要だった南部奴隷州は、新たな領土を自由州とするか奴隷州とするかで常に争っていた。
『アンクル・トムの小屋』の出版により、奴隷制度反対の機運が高まり、北部自由州の支持が高まることで、南部奴隷州が追い詰められ、アメリカ南北戦争を起こすに至った、と解釈することもできるかもしれない。
写真:アメリカ南北戦争 南軍の模擬戦(撮影:Steve Estvanik©123RF)
実際、1861年のアメリカ南北戦争開戦後、エイブラハム・リンカーン大統領が『アンクル・トムの小屋』の作者であるストウ夫人と会見した際、こんな挨拶をしたという。
the little woman who wrote the book
that made this great warあなたのような小さな方が
この大きな戦争を引き起こしたのですね
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- 懐かしきケンタッキーの我が家
- 前年に出版された『アンクル・トムの小屋』の影響を受けたと考えられている
- おお、スザンナ
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