すみれ Das Veilchen モーツァルト

ゲーテの詩が用いられたモーツァルト歌曲 きめ細やかな転調

モーツァルト『すみれ Das Veilchen』 K476は、モーツァルトによる歌曲のうちゲーテの詩が用いられた唯一の作品。

短い曲ではあるが、原詩のストーリー展開に応じて細かい転調を繰り返し、その場面ごとにふさわしい調性を用いて物語がよりドラマティックに表現されている。

前奏から第1節、ひっそりと咲くすみれの花を描写する最初の場面では、モーツァルト『アイネ・クライネ・ナハトムジーク Eine kleine Nachtmusik』と同じくト長調(G major)が用いられ、甘く軽やかな曲想で美しいすみれが描かれる。

死を予感させるト短調

すみれが「自分がこの世で一番美しい花だったら」と少女を想って愛の嘆きをこぼす場面では、ト短調(G minor)や変ロ長調(B flat major)により、すみれの苦しい胸の内が切々と描写される。

モーツァルト作品の研究では、ト短調は「死を予感させる調性」としてしばしば言及されるが、この歌曲『すみれ』においても、少女に踏まれてしまうすみれの悲しい運命を暗示しているのだろうか。ちなみに、ト短調のモーツァルト作品としては、交響曲第25番交響曲第40番などが有名。

悲劇のハ短調

そしてすみれが踏まれてしまう場面では、ベートーヴェン交響曲第5番「運命」でおなじみのハ短調(C minor)や変ホ長調(E flat major)などで悲劇的な場面が演出される。だが、すみれにとってはその仕打ちすらも愛ゆえに甘受しうるものであった。

最後は、モーツァルト自身が2行追加したとされる締めの部分で、冒頭と同じト長調(G major)が再び用いられ、美しく哀れなすみれの物語は静かにその幕が閉じられる。

ゲーテの詩が用いられた有名な歌曲

シューベルト 魔王
お父さん、魔王のささやきが聞こえないの? 魔王が僕を苦しめる!
シューベルト 野ばら
私を捨てる貴方に残す 哀れ野バラの愛のトゲ

【試聴】モーツァルト 歌曲「すみれ」 K476

歌詞・日本語訳

Ein Veilchen auf der Wiese stand
gebückt in sich und unbekannt;
es war ein herzig's Veilchen.

牧草地に咲く一本のすみれ
ひっそりと誰にも知られず
可愛いすみれ

Da kam ein'junge Schäferin
mit leichtem Schritt und munterm Sinn
daher, daher,
die Wiese her, und sang.

そこへ若い羊飼いの少女が
軽やかな足どりで元気よく
歌いながら近づいてくる

Ach denkt das Veilchen, wär'ich nur
die schönste Blume der Natur,
ach, nur ein kleines Weilchen,
bis mich das Liebchen abgepflückt
und an dem Busen matt gedrückt!
ach nue, ach nur,
ein Viertelstündchen lang!

ああ すみれは思った
もしも自分がこの世で一番美しい花だったら
ああ ほんのわずかな間だけでも
あの少女に摘み取られ 抱きしめてもらえる
ああ ほんの15分だけでも

Ach, aber ach! das Mädchen kam
und nicht in Acht das Veilchen nahm,
ertrat das arme Veilchen.
Es sank und starb und freut' sich noch;
und sterb'ich denn, so sterb'ich doch
durch sie, durch sie,
zu ihren Füßen doch!

ああ それなのに ああ!
やってきた少女は
すみれに気が付かず
哀れなスミレを踏みつぶしてしまった

すみれは力尽きたが 
本望だった
あの人に踏まれて死ねるのだから!

Das arme Veilchen!
Es war ein herzig's Veilchen.

哀れすみれ 可愛いすみれ

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