モルダウ スメタナ「我が祖国」より 歌詞と解説

合唱曲として日本語歌詞がつけられたチェコのクラシック音楽

『モルダウ(The Moldau)』は、チェコの国民的作曲家スメタナ(B.Smetana/1824~1884)による連作交響詩「わが祖国」第2曲。

モルダウ(ヴルタヴァ)川(Vltava)は、ボヘミアを南から北に流れ、ラベ川(エルベ川)に合流するチェコの重要な河川の一つ。

写真:チェコのチェスキー・クルムロフとモルダウ川

約12分間にわたって演奏される交響詩「モルダウ」では、モルダウ川の源流からプラハ市内へと続く、上流から下流への川の情景が非常に鮮明に描写されている。

日本では、合唱曲として独自の日本語歌詞がつけられ歌われている。具体的な日本語歌詞については後掲する。

【YouTube】スメタナ作曲 交響詩「モルダウ」

上流~チェコの山奥深いモルダウ川の水源~

まずチェコの山奥深いモルダウ川の水源から雪が溶けて水が集まっていく様子が描かれ、森を抜け、勇壮な狩人が横切りる。

そして角笛が響き渡り、村の結婚式の傍を行き過ぎ、月明かりの静寂の中、水辺を妖精が舞い踊る。

下流~突然の急流、プラハ市内へ~

やがて、徐々に水量が増えていき、突然の急流に水しぶきが上がる。

いよいよプラハ市内に入り、勇壮な古城を讃えるかのごとく華やかな演奏が続き、そしてモルダウ川はプラハ市内を抜け悠然と流れ続けていく・・・

写真:プラハ市内を流れるモルダウ川(ヴルタヴァ川)

日本語歌詞 その1

スメタナ『モルダウ』に日本語歌詞をつけた合唱曲はいくつかあるが、特に岩河三郎の作詞による『モルダウ』と、平井多美子作詞による『モルダウの流れ』が特に有名。

岩河氏は、卒業ソングとして知られる『巣立ちの歌』、『親しらず子しらず』、『石仏(せきぶつ)』、『木琴』など、有名な合唱曲を数多く手がけている。

まずは、岩河三郎の作詞による『モルダウ』の日本語歌詞を次のとおり引用して、その内容を確認してみよう。

なつかしき河よ モルダウの
清き流れは わが心
うつくしき河よ モルダウの
青き水面(みなも)は 今もなお

流れにやさしく 陽(ひ)はそそぎ
さざなみはいつも 歌うたい
岩にあたり しぶきあげて 渦を巻く

豊かな流れよ モルダウの
広き水面は 今もなお

春には 岸辺に花ひらき
秋には 黄金(こがね)の実をむすぶ
愛の河よ しぶきあげて 流れゆく

豊かな流れよ モルダウの
広き岸辺に 狩をする

今日もひびく 角笛たかく
人は駆ける えもの求めて
銃(つつ)の音は 森にこだまし
岸辺に湧(わ)く よろこびの歌
ラララ ララララ

月の出と共に 村人は
今日のめぐみを 祝い 踊る

なつかしき河よ
モルダウの岸辺には
豊かな幸が 満ちあふれ
人の心は いつまでも
この河の流れと共にゆく

わがふるさとのこの河
モルダウよ!
わがふるさとのこの河
モルダウよ!

岩河 三郎『モルダウ』の歌詞は、水しぶきや渦の描写、季節の事物、人々の営み・喜びを音と視覚・時間的経過を交えて豊かに表現するなど人間味にあふれ、さすがに数々の合唱曲を作詞作曲してきたベテランの風格が感じられる。

【YouTube】モルダウ  歌詞付き

日本語歌詞 その2

二つ目の日本語歌詞は、平井多美子作詞による合唱曲『モルダウの流れ』。次のとおり引用し、その内容を確認してみよう。

ボヘミアの川よ モルダウよ
過ぎし日のごと 今もなお
水清く青き モルダウよ
わが故郷を 流れ行く
若人さざめく その岸辺
緑濃き丘に 年ふりし
古城は 立ち
若き群れを 守りたり
ボヘミアの川よ モルダウよ
わが故郷を 流れ行く

ボヘミアの川よ モルダウよ
過ぎし日のごと 今もなお
水清く青き モルダウよ
わが故郷を 流れ行く
若人さざめく その岸辺
緑濃き丘に 年ふりし
古城は 立ち
若き群れを 守りたり
やさしき流れ モルダウよ
光り満ち
わが心にも 常に響き
永久(とわ)の平和を なれは歌(うと)う
たたえよ 故郷の流れ モルダウ

平井多美子『モルダウの流れ』は比較的堅い表現で歌詞も短め(繰り返しが多い)。音楽の授業でも使いやすいように無難な表現が用いられているように感じられる。

特に、平井版では学校教育で呪文のように唱えられる「平和」という例のキーワードが唐突に(やや強引に)歌詞にねじ込まれており、当初から教育現場で教材として使われることを強く意識した作品と思われる。

【YouTube】モルダウの流れ 横須賀市立池上中学校

メロディのルーツはチェコ民謡?

ちなみに、チェコの国民音楽として作曲されたスメタナ『モルダウ(The Moldau)』には、チェコに伝わる民謡『Kocka leze dirou(穴から猫が)』に似たメロディが登場する。

曲の調性は異なるが、メロディ進行や音階の推移には似ている部分が多い。スメタナは、このチェコ民謡からインスピレーションを受けて、チェコをイメージさせる「音のモチーフ」として転用した可能性も考えられる。

【YouTube】チェコ民謡『Kocka leze dirou』

イスラエル国歌とルーツは同じ?

実はこのチェコ民謡『Kocka leze dirou』自体も、16世紀イタリアの古い楽曲『La Mantovana ラ・マントヴァーナ』を起源としていると考えられる。

同じルーツを持つ(と考えられる)他の有名な曲としては、イスラエル国歌『Hatikvah ハティクヴァ(希望)』ドイツ民謡『こぎつね』などが挙げられる。詳しくは、イスラエル国歌の解説ページを参照されたい。

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