雪山賛歌(いとしのクレメンタイン)
Oh My Darling Clementine

日本では雪山の歌になったアメリカ歌曲

「雪よ岩よ われ等が宿り 俺たちゃ街には住めないからに」の歌い出しで知られる日本の有名な山の歌『雪山讃歌(賛歌/ゆきやまさんか)』。

日本では雪山に挑む登山家・山男のアンセム(賛歌)となっているが、原曲のアメリカ歌曲『いとしのクレメンタイン Oh My Darling Clementine』の内容は全く異なり、19世紀のアメリカにおける西部開拓時代を時代背景としたストーリー性のある歌詞となっている。

川でおぼれた娘クレメンタイン

原曲のアメリカ歌曲『Oh My Darling Clementine』の舞台は、アメリカのカリフォルニア周辺で19世紀半ばに発生したゴールドラッシュ。金山で一攫千金を夢見る父親とその娘クレメンタインが登場する。

娘のクレメンタインは、アヒルを川に連れて行くのが毎日の仕事だった。ある日切り株に足を引っ掛けて転んでしまい、川に落ちてしまう。近くにいた男はカナヅチで、おぼれる彼女を助けられなかったというバッド・エンディングの悲しいストーリーとなっている(異なる結末の歌詞も存在するようだ)。

ちなみに、英語の歌詞に登場する「forty-niner/49er フォーティーナイナー」とは、1849年前後のゴールドラッシュで世界中から集まった人々を指している。カリフォルニア州のNFLアメリカンフットボールチーム、サンフランシスコ・フォーティナイナーズ(San Francisco 49ers)もゴールドラッシュにちなんで命名されている。

なお、19世紀のアメリカの歴史については、こちらの特集「ドナドナ研究室 リパブリック賛歌の謎 歴史編」を参照されたい。

いつごろ作曲された?

『Oh My Darling Clementine』は、1884年にパーシー・モントローズ(Percy Montrose)により作曲された。一説にはバーカー・ブラッドフォード(Barker Bradford)の名前が挙がることもある。歌詞自体はそれより数十年早く、1863年に発表された「Down by the river lived a maiden」がオリジナルとされている。

実はメロディ自体も元々はスペインの古いバラードがオリジナルという説もあり、ゴールドラッシュでカリフォルニアに集まったメキシコ人鉱夫の間で歌われていたと推察する研究者もいるようだが、そのメロディの由来の詳細については現在も明らかになっていない。

「タロ・ジロ」南極観測隊の越冬隊長が作詞

『雪山讃歌』として日本語の歌詞をつけた作詞者は、第一次南極観測隊(1958年)の副隊長(兼・越冬隊長)と務めた西堀 栄三郎(にしぼり えいざぶろう/1903-1989)。

第一次南極観測隊といえば、同行した樺太犬の兄弟犬「タロとジロ(タロウとジロウ)」の物語「南極物語」が有名。作詞者の西堀氏は、まさにこのタロとジロと共に南極へ渡った観測隊の越冬隊長だったのだ。

「南極物語」を2011年にリメイクしたテレビドラマ「南極大陸」(主演:木村拓哉)では、西堀 栄三郎をモデルとする登場人物・星野英太郎を、俳優の香川照之が熱演した。

京大山岳部は鹿沢温泉へ

京都帝國大学の山岳部員だった1927年(昭和2年)1月、西堀氏は仲間と共に群馬県吾妻郡嬬恋村(つまごいむら)の鹿沢温泉に来ていた。

嬬恋村は万座温泉スキー場や鹿沢スノーエリアなどのスキー場が多い積雪地帯。西堀氏らも大雪で温泉に足留めを食らってしまい、身動きが取れず旅館の中で時間を持て余していた。

退屈をしのぐために山岳部の歌を作ることを思いつき、当時山岳部の仲間内で愛唱されていた『Oh My Darling, Clementine』のメロディがベースとなり、あとはさながら即興のように自由に歌詞を当てはめていったという。

こうして『雪山讃歌』が誕生した鹿沢温泉には後に歌碑が建立され、嬬恋村では正午を告げる防災無線のチャイムに『雪山讃歌』のメロディが使用されている。雪山の歌ということで、スキー場がある長野県白馬駅にJR東日本の特急「あずさ」号が到着する際の車内メロディにも使われていた。

アメリカ映画「荒野の決闘」主題歌に

1946年公開のアメリカ映画「荒野の決闘」(ジョン・フォード監督)では、『Oh My Darling, Clementine』が主題歌・テーマ曲として大きく取り上げられた。

日本語のタイトル「荒野の決闘」だけでは曲との関連性がはっきりしないが、アメリカでの原題は「My Darling Clementine」であり、映画の主要な人物として「クレメンタイン」が登場するなど、まさにこの曲が主題歌に使われるべくして使われたという映画作品となっている。

映画サントラとして使われた例としては、1990年公開のアメリカ映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー3(Back to the Future Part 3)」がある。同シリーズ3作目となる同作では、マーティはデロリアンに乗って1885年のアメリカへとタイムトラベルしており、『Oh My Darling, Clementine』の時代背景にもマッチしている。

中国では新年の歌に

日本では登山家らのアンセムになった『Oh My Darling, Clementine』だが、なんと中国では新年を祝うおめでたいお正月ソングとして愛唱されているという。

中国語版のタイトルは「Xin Nian Hao Ya」。「新年好(xin nian hao)」は日本語では「良いお年を」「新年おめでとう」的な意味になるだろうか。この中国語バージョンがいつ作られどれくらい定着しているのか詳細は不明だが、メロディ自体がシンプルなだけに、どんな歌詞でも立派に替え歌になるところは非常に興味深いところだ。

サッカーサポーター応援歌に?

『雪山讃歌』の原曲、『Oh My Darling, Clementine』の一部によく似たメロディは、サッカーサポーターによる応援歌・チャンツとして定着している楽曲『Carnaval de Paris パリのカーニバル』の主要なメロディとして使われている。

同曲は、1998年にフランスで開催されたサッカーワールドカップ(FIFA主催)向けに発表された楽曲。作曲はDario G。

本当に『Carnaval de Paris』がこの曲を引用したのかという点については明確な資料はなく、曲の調性も異なるが、一度聞けば明らかに影響を受けていることが合理的に推測できるだろう。

他の有名な山の歌は?

『雪山讃歌』の他に有名な山の歌としては、当サイト的にはまず『アルプス一万尺』が思い出される。この曲も実は原曲はアメリカ歌曲で、しかもオリジナルの歌詞は山とはまったく関係がないというのが『雪山讃歌』と似て面白い。

イタリア歌曲からは、火山に登る登山電車「フニコラーレ」のCMソング『フニクリ・フニクラ』が有名な山の歌として挙げられる。「鬼のパンツは いいパンツ」の原曲としても知られている。

その他にも、高原や高地をイメージさせる世界の民謡として、スイス民謡『おおブレネリ』ドイツ歌曲『夏の山/この山光る』チェコスロバキア民謡『おお牧場はみどり』などが日本でも有名。『雪山讃歌』と山つながりで是非聴いてみていただきたい名曲ばかりだ。

ギターでは3つのコードで簡単に弾ける

余談だが、この『雪山讃歌』をギターで演奏するのはとても簡単。「C」、「G」、「G7」の3つのコードを循環させれば、歌詞が何番まであろうとジャカジャカとそれなりに歌えてしまう。

コードの順番は「C - C - C - G, G7 - C - G - C」。日本語の歌詞にあてはめると、「雪よ岩よ われ等が宿り」の部分が「C - C - C - G」、「俺たちゃ街には住めないからに」の部分が「G7 - C - G - C」となる。ギター初心者にも覚えやすくていい練習になるだろう。ウクレレにも向いているかもしれない。

【試聴】いとしのクレメンタイン(雪山賛歌)

歌詞(一部)・日本語訳(意訳)

In a cavern, in a canyon
excavating for a mine,
Dwelt a miner, forty-niner
and his doughter Clementine. 

金脈探して谷間の洞窟
49年組(フォーティーナイナー)と
娘のクレメンタイン

金塊

CHORUS
Oh my darling, oh my darling,
oh my darling, Clementine.
You are lost and gone forever,
dreadful sorry, Clementine.

<コーラス>
いとしのクレメンタイン
お前とは二度と会えない
とても悲しいよ クレメンタイン

Light she was and like a fairy
and her shoes were number nine.
Herring boxes without topses,
sandals were for Clementine.

妖精のように輝く彼女
靴のサイズは9番で
ニシンの箱のフタを取れば
それが彼女の靴だった

Drove she ducklings to the water
every morning just at nine,
Hit her foot against a splinter,
fell into the foaming brine.

毎朝9時の彼女の仕事
アヒルを水辺へ連れてった
切り株につま先引っ掛けて
彼女は川へ落っこちた

Ruby lips above the water,
blowing bubbles soft and fine,
Alas for me! I was no swimmer,
so I lost my Clemetine.

赤い唇 水面(みなも)の上に
飛び散るしぶきは優しく清く
何てこったい俺はカナヅチ
沈んでいったクレメンタイン