まりと殿さま(毬と殿様) 歌詞の意味・由来

本当は怖い童謡?なぜ紀州の殿様とミカンが結びついた?

「てんてんてんまり てん手まり」が歌い出しの『まりと殿さま(毬と殿様)』は、1929年(昭和4年)に発表された日本の童謡。作詞:西條八十、作曲:中山 晋平

歌詞では、紀州の殿さまが大名行列でお国へ帰るところへ、手まりが弾んで殿様の駕籠まで飛んでいき、そのまま紀州へ連れて行かれてミカンになるというファンタジーな物語が展開される。

紀州手まり

写真:紀州手まり(出典:アズマハウスWebサイトより)

なぜ手まりと殿様とミカンが結びついたのか?なぜ紀州が選ばれたのか?これらの点について簡単に解説してみたい。

また、同曲は怖い童謡として紹介されることがあるが、どのような怖い解釈が成り立つのだろうか?歌詞の謎について簡単にまとめてみた。

【YouTube】まりと殿さま

【YouTube】民踊 マリと殿様の練習

歌詞

てんてん てんまり てん手鞠(てまり)
てんてん手鞠の 手がそれて
どこからどこまで 飛んでった
垣根をこえて 屋根こえて
おもての通りへ 飛んでった 飛んでった

おもての行列 なんじゃいな
紀州の殿さま お国入り
金紋先箱(きんもんさきばこ) 供(とも)ぞろい
お駕籠(かご)のそばには ひげやっこ
毛槍(けやり)をふりふり ヤッコラサーの ヤッコラサ

てんてん手鞠は てんころり
はずんでお駕籠の 屋根の上
もしもし紀州の お殿さま
あなたのお国の みかん山
わたしに見させて 下さいな 下さいな

お駕籠はゆきます 東海道
東海道は 松並木
とまりとまりで 日がくれて
一年たっても 戻りゃせぬ
三年たっても 戻りゃせぬ 戻りゃせぬ

てんてん手鞠は 殿さまに
抱かれはるばる 旅をして
紀州はよい国 日の光
山のみかんに なったげな
赤いみかんに なったげな なったげな

お正月向けの曲だった

一体なぜ紀州の殿様とミカン、そして手まりが結びついたのだろうか?

この点については、合田道人著「童謡の秘密」(祥伝社)の中で次のように解説されている。

雑誌社から正月号にふさわしい子供の謡を、と頼んで来たので、子供の頃の正月の遊びを謡にしようと考えた。女の子は毬つきや羽子つきをして遊ぶ。(中略)毬つきや羽子つきのご褒美もみかんだ。みかんは丸くて毬のようで紀州が本場だ。そうした連想からこの童謡を書いた。(音楽評論家森一也氏の著書より)

<引用:合田道人著「童謡の秘密」(祥伝社)より>

つまり、童謡『毬と殿様』は雑誌の正月号に掲載される歌として作詞が依頼され、正月に相応しいテーマとして、当時の子供の遊びだった「毬つき(手まり遊び)」と、正月によく見る「ミカン」が題材に取り上げられたようだ。

そして、ミカン栽培の盛んな紀州・紀伊国(現在の和歌山県から三重県南部)が選ばれ、さらに紀州徳川家(徳川御三家の一つ)のイメージからお殿様と大名行列が加わって、ちょっと不思議な『毬と殿様』の歌詞が生まれたのだろう。

紀州徳川家の居城 和歌山城

まとめると、正月つながりで手まりとミカンが、ミカンから紀州が、紀州から紀州徳川家のお殿様と大名行列が結びつき、『毬と殿様』の世界観が誕生したと推測される。

写真:紀州徳川家の居城 和歌山城 大天守(出典:Wikipedia)

怖い童謡?大名行列と手打ち

正月というキーワードから生まれた『毬と殿様』だが、大名行列の殿様の駕籠に手まりが飛んで行ったというストーリーは、それが江戸時代の大名行列において実際に起こったと考えると、とても怖い結末を想像してしまう。

なぜなら、江戸時代の実際の大名行列では、庶民が前を横切ったり列を乱すような行為に対しては、最悪の場合その場で「無礼討ち」も認められていたからだ。

箱根大名行列

写真:箱根大名行列(箱根湯本温泉郷/出典:箱根ナビ)

大名行列を乱してはいけないという教訓は、わらべうた『ずいずいずっころばし』にも同様の趣旨の教えが唄い込まれている。

『毬と殿様』の歌詞では、よりによって手まりが殿様の駕籠の上に乗っかってしまうという最悪の事態に。手まりで遊んでいた子供と言えども許されない可能性は高い場面だ。

上述の合田道人著「童謡の秘密」(祥伝社)によれば、大名行列の無礼討ちと『毬と殿様』の歌詞の意味について、次のような怖い解釈が示されている。

行列が見えてきた。人々はひれ伏す。そのひれ伏した目の前を異様なものがコロコロ転がった。それは、毬だった。そう思った途端、お河童頭の女の子が飛び出してきた。もちろん毬を拾いに出ていったのである。しかし次の瞬間、侍の大きな声が聞こえた。

「無礼者っ!」

ただひと声だった。刀がキラリと光った。”ばさっ”という音とともに女の子の体が崩れ落ちた。悲鳴すらなかった。肩先から胸に切り裂かれた傷口から、赤い血がただ、どくどくと流れていた。

<中略>

大好きな手毬を追っていった女の子は、何の前ぶれもなく理由を聞かされることすらなく、ただばっさりと斬り捨てられた。

「一体、何が起こったのだろうか?」

即死してしまい、痛みさえ分からぬ女の子は、目の前の毬に魂をのり移らせてしまったのだ。

♪はずんでお駕篭の 屋根のうえ‥‥

とは、死ぬことにより浮遊した霊が、殿さまよりも上にいるという状態を歌っていたのである。でなければ、殿さまのお駕篭の上に乗るなんて、あまりにも不謹慎すぎるではないか。

死んだ女の子の心は、毬にのり移って東海道を旅するのである。死んでしまったという意味、いなくなってしまったということを、

♪一年たっても もどりゃせぬ
三年たっても もどりゃせぬ‥‥

と表した。戻らないとは、もう二度と帰ってこない、つまり死んでしまったという意味になるのである。

<引用:合田道人著「童謡の秘密」(祥伝社)より>

これはかなり脚色の入った極端な解釈だが、ある程度筋の通った説明であり、童謡ホラーというジャンルの軽い読み物としては十分に面白いストーリー展開と言えるだろう。

童謡の秘密―知ってるようで知らなかった 単行本 – 2003/6/1 合田 道人

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