棚機津女(たなばたつめ)伝説とは?

七夕の読みの語源の一つとされる日本の民間伝承

五節句の一つ「七夕(しちせき)」を「たなばた」と読む語源は諸説あるが、有力な説の一つとして、日本の伝承「棚機津女(たなばたつめ)」伝説を簡単にまとめてみたい。

「棚機津女(たなばたつめ)」伝説を見てみると、現代の七夕における代表的な行事の内容とはあまり関係がないが、民俗学的に興味深い伝説であることには間違いないだろう。

七夕の行事の内容の由来・起源については、こちらのページ「七夕 たなばた 起源・由来 物語・ストーリー」を適宜参照されたい。

挿絵:機織図屏風(江戸時代の風俗画)

水辺の機屋で機を織る乙女

「棚機津女(たなばたつめ)」に関する伝承はネットであふれかえっているが、参考までに、いくつかのサイトやブログでの記述を引用してご紹介したい。

「棚機女」とは織物を作る手動の機械を扱う女性を指し、「古事記」にちなんで天から降りてくる水神に捧げるための神聖な布を穢れを知らない女性が「棚造りの小屋」にこもって俗世から離れて織る、という習慣がありました。

<Webサイト「七夕(たなばた)のすべて」より引用>

次のように、日付が指定されている「棚機津女」の伝承もあるようだ。

棚機津女として選ばれた女性は7月6日に水辺の機屋(はたや)に入り、機を織りながら神の訪れを待ちます。そのとき織り上がった織物は神が着る衣であり、その夜、女性は神の妻となって身ごもり女性自身も神になります。

<中略>

棚機津女は7月7日の夕刻までに織物を仕上げ、それを棚において機屋を出たようです。7月6日に訪れた神は翌7日の夕方に帰るとされていたからです。このとき水辺で禊ぎ(みそぎ)を行うと、神は町や村に豊穣をもたらし厄災を持ち去るといわれ、そこで祭祀が行われるようになりました。

<ブログ「アフター・フェア」より引用>

古事記には登場しない?

上述の引用によれば、「棚機津女(たなばたつめ)」が古事記の記述に基づく旨の説明がなされている。

しかし、服を織る女性に関する記述が「古事記」には見られるが、「棚機津女」伝説との直接の関連性はないようだ。

天照らす大御神の忌服屋(イミハタヤ)にましまして神御衣(カムミソ)織らしめたまふ時にその服屋(ハタヤ)の頂(ムネ)を穿ちて、天の斑馬を逆剥ぎに剥ぎて堕し入るる時に、天の服織女(アメノミソオリメ)見て驚きて梭に陰上を衝きて死にき。

<「古事記」より 天の岩戸>

万葉集には登場

「たなばたつめ」の文言は、7世紀後半から8世紀後半にかけて編まれた日本に現存する最古の和歌集である「万葉集」(まんようしゅう)に登場する。

為我登 織女之 其屋戸尓 織白布 織弖兼鴨
あがためと たなばたつめの そのやどに おるしろたへは おりてけむかも

<万葉集 2027>

「しろたへ(白栲)」は真っ白な布、「屋戸(やど)」は家、「けむかも」は「終わっただろうか」という意味。「私のためにと織女が家で織っていたあの白布はもう織り終わっただろうか」という歌。

「棚機津女」伝説とは関連がなさそうだが、「たなばた」という読みは万葉集の頃から定着していたようだ。

七夕の行事の内容とは直接関係がない?

「棚機津女(たなばたつめ)」伝説の内容を見る限り、現代の七夕における代表的な「行事の内容」とは直接関係がないことが分かる。

つまり、「タナバタ」という読みの語源の可能性があるにすぎず、「機を織る女」というつながりのみで、星や願い事、笹、短冊など、現代の七夕における代表的な行事内容とはほぼ関係がない。

七夕の行事内容の起源は、中国の伝統行事「乞巧奠(きっこうでん/きこうでん)」および織姫牽牛伝説が習合したものとされている。

七夕の髪洗いのルーツ?

現代の七夕ではあまり行われない七夕行事としては、「七夕の髪洗い」または「七夕洗い」という水に関連した行事が伝えられている。

「七夕の髪洗い」は、七夕の日に女性が川で髪を洗う行事。平安時代に書かれた『うつほ物語』にもその様子が描写されている。

現代ではさすがに川で洗おうとする女性はいないだろうが、普通のやり方でも七夕の日に髪を洗うと髪が美しくなるとの言い伝えが残されている。

川で髪を洗うというこの「七夕の髪洗い」は、「棚機津女(たなばたつめ)」伝説において、水辺で水の神を迎えた女性が、7月7日に川で禊ぎ(みそぎ)を行ったという伝承に基づくものと推測される。

棚機津女伝説は、現代の七夕における代表的な行事の内容とはあまり関係がないと述べたが、「七夕の髪洗い」に関しては直接の影響を残している可能性がありそうだ。

参考書籍:折口 信夫「古代研究」

「棚機津女(たなばたつめ)」伝説を含め、日本の古い民間伝承や民俗学にご興味のある方は、折口 信夫「古代研究」シリーズを一読されることを強くお勧めしたい。

折口 信夫(おりくち しのぶ/1887-1953)は、柳田國男の高弟として民俗学の基礎を築いた民俗学者・国文学者。詩人・歌人としても活躍した。

「棚機津女(たなばたつめ)」伝説に関するネット上の各種記事も折口 信夫「古代研究」シリーズに基づいていると思われるが、尾ひれがつきすぎて原型をとどめていない感がある。

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