行け、モーセ(モーゼ) 歌詞の意味
エジプトのファラオに告げよ 我が民を解放せよと
『行け、モーセ(モーゼ)Go Down Moses』は、旧約聖書「出エジプト記」における物語の一部が歌詞で歌われる黒人霊歌・スピリチュアル。
作曲の詳しい経緯については不明だが、一説によれば、19世紀半ばのアメリカ南北戦争前後における奴隷解放運動、そして南部州から逃亡に成功したアフリカ系労働者達が匿われた北軍のモンロー砦が関連していると考えられるという(詳しくは後述)。
ポピュラー音楽・ジャズとしての『Go Down Moses』は、アメリカの歌手・俳優ポール・ロブスン(Paul Robeson/1898-1976)によって広められ、今日ではルイ・アームストロングによるジャズカバーが特に有名となっている。
ちなみに同曲は、アメリカ文学の巨匠ウィリアム・フォークナー(William Cuthbert Faulkner/1897-1962)による1942年出版のフィクション小説「Go Down, Moses」に大きなインスピレーションを与えている。
【YouTube】Louis Armstrong - Go Down Moses
【YouTube】Harlem Gospel Singers - Go Down Moses
歌詞・日本語訳
When Israel was in Egypt's land: Let my people go,
Oppress'd so hard they could not stand, Let my People go.
かつてイスラエルがエジプトの地にあったとき
激しく虐げられ 抵抗できなかった
Go down, Moses,
Way down in Egypt's land,
Tell old Pharaoh,
Let my people go.
行け、モーセ(モーゼ)
エジプトの地に下り立ち
ファラオに告げよ
我が民を解放せよと
モーゼと出エジプト記について
先にも述べたが、黒人霊歌『行け、モーセ(モーゼ)』の歌詞では、天地創造を描いた「創世記」に次ぐ2番目の旧約聖書「出エジプト記」のストーリーが引用されている。
「出エジプト記」(英語では「Exodus エクソダス」)では、エジプトのヘブライ人家族に生まれたモーセ(モーゼ)が、神から使命を受け、ファラオ支配下のエジプトで奴隷状態にあったヘブライ人をエジプトから連れ出す物語が記述されている。
歌詞では「ファラオ Pharaoh」、「エジプト Egypt」などの単語も明示的に配され、虐げられたヘブライ人を解放せよ「Let my people go」とのファラオへのメッセージが印象的に歌い込まれている。
Go down, Moses,
Way down in Egypt's land,
Tell old Pharaoh,
Let my people go.
奴隷解放運動との関連性について
黒人霊歌『行け、モーセ(モーゼ)』は、19世紀アメリカ南北戦争や秘密組織「地下鉄道」に関連付けられて説明されることがしばしばある。
「アメリカ南北戦争 American Civil War」とは、奴隷の扱いを巡る争いが発端となって国内が二分した結果生じた国内戦争。奴隷制に賛成の南部州と、解放運動を推進した北部州との間で、1861年から4年に渡って戦闘が繰り広げられ、北軍・南軍合わせて62万人もの死者を出すという未曽有の国内戦争となった。
開戦前後、南部州のアフリカ系労働者達の間には、自由な北部州への脱走を試みる動きが広がっており、これを助ける秘密組織「地下鉄道 Underground Railroad」が彼らの逃亡成功に大きな役割を果たしていた。下の挿絵は、北部州へ脱出する南部のアフリカ系労働者家族を描いた油絵。
バージニア州にある北軍のモンロー要塞(Fort Monroe)には、南部州からの脱出に成功したアフリカ系労働者達が続々と集まり、ここにたどり着けば自由になれるとして、モンロー要塞は「自由の要塞」と称賛された。
モンロー要塞周辺で匿われたアフリカ系労働者の数は最終的に1万人にも及び、彼らには大きなオークの木がある屋外教室で読み書きが教えられた。エイブラハム・リンカーンによる奴隷解放宣言(1863年)の際には、オークの木の下で宣言文を読み聞かせ、それ以降そのオークの木は「解放のオーク」と呼ばれるようになった。
解放運動のテーマソングだった?
黒人霊歌『Go down, Moses』の作曲経緯については現在でも明らかとなってはいないが、エジプトから脱出するヘブライ人の姿と、南部州から脱出する黒人労働者の姿を重ね合わせて解釈されることが多い。
おそらく南北戦争前後の時期に、解放運動を進めていた組織か北軍関係者によって、解放運動を象徴する曲として、現代におけるテーマソング的な位置付けで作曲されたのではないかとする指摘が有力に唱えられているようだ。
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