立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花

美人の姿を美しい花々で形容 江戸中期頃の書籍に見られる原型とは?

「立てば芍薬(しゃくやく) 座れば牡丹(ぼたん) 歩く姿は百合の花」は、美人の姿を美しい花々で形容する伝統的な決まり文句。江戸時代中期頃の書籍に原型がみられるが、作者や初出については明らかではない。

都々逸(どどいつ)と同じ「七七七五」の形式だが、江戸末期に成立した都々逸よりも時期が早い。おそらく、『伊勢音頭』の歌詞のような「甚句(じんく)」の一つとして歌われていたのではないかと推測される。

このページでは、江戸中期頃における書籍に記された原型について、いくつか具体例を簡単にご紹介してみたい。

シャクヤク 芍薬

写真:シャクヤク(芍薬)の花

牡丹 ボタン

写真:牡丹(篠山市の観音寺にて/出典:Wikipedia)

白百合の花

写真:白百合の花

江戸中期頃の原型について

江戸中期頃の書籍に見られる「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」原型について、二つほど簡単にご紹介してみたい。資料については国立国会図書館レファレンス協同データベースを参考にした。

まず、時田昌瑞「岩波ことわざ辞典」(岩波書店)では次のような記述が見られる。

江戸中期の洒落本『無論里(ろんのないさと)問答』には「踊の歌にいはく 立ば芍薬 座居(とい)すりゃ牡丹 あるき姿は山丹(ゆり)の花」と見えるので、舞踏歌に発したもののようである。

『無論里問答』は安永5年(1776年)刊の滑稽本。この記述によれば、江戸中期には「立ば芍薬 座居すりゃ牡丹 あるき姿は山丹の花」として歌われていたことが分かる。「山丹」は「ひめゆり」とも読む。

次に、加藤定彦「俚諺大成」青裳堂書店 日本書誌学大系59によれば、江戸後期の1786年から1799年に記された諺語辞典「たとへづくし(譬喩尽)」上に、次のような原型が確認できるという。

立てば芍薬、居(とゝ)すりや牡丹、歩行(あるく)姿は百合の花

これらの原型が、時代を経て部分的に言葉を変えながら、今日の我々が知る「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」として定着していったようだ。

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