ぼたん鍋とイノシシ肉 意味・語源・由来
なぜ牡丹鍋と呼ばれるのか?その理由について考察
イノシシ肉(猪肉)を具材に用いた鍋料理は、「猪鍋(ししなべ)」や「ぼたん鍋(牡丹鍋)」と呼ばれる。
「ぼたん鍋(牡丹鍋)」の呼称については、ウィキペディアでは次のように解説されている。
ぼたんの名は、使われる猪肉を薄切りにし、牡丹の花に似せて皿の上に盛りつける事に因んでいる。
<引用:ウィキペディア「ぼたん鍋」解説ページ>
この解説では、なぜイノシシ肉が牡丹の花に似せて盛り付けられるのか、なぜバラではなくツバキでもなくボタンなのか、理由がまったく分からない。
イノシシとボタンの関係について、簡単に考察してみたい。まずは、実際に牡丹の花に似せた盛り付けを見てみよう。
盛り付けと牡丹の花
下の画像は、 福井県の料理旅館「南川荘」Webサイトから引用した牡丹鍋の写真。特製の山椒味噌で味わう名物料理とのこと。
大皿に美しく盛り付けられたイノシシ肉(猪肉)は、確かに牡丹の花を思わせる華やかさ・優雅さがある。
下の写真は、篠山市の観音寺で撮影された牡丹の花(出典:Wikipedia)。本物の花に負けず劣らず、牡丹鍋の盛り付けは美しく見事だ。
しかし、こうして実際の牡丹鍋の肉の盛り付けを見ても、ボタンの花の写真を見ても、なぜ肉がボタンの花に似せて盛り付けられるのか、その理由は判然としない。
イノシシと牡丹を結びつけるものとは何なのか?それは江戸時代の肉食文化に由来している。
イノシシと牡丹を結びつけるものとは?
イノシシ肉(猪肉)を使った鍋料理が「ぼたん鍋(牡丹鍋)」と呼ばれる理由については、イノシシと牡丹を結びつける理由を考える必要がある。
結論から言えば、イノシシと牡丹の結びつきは、「牡丹に唐獅子(獅子に牡丹)」という成句に由来している。
江戸時代には、「獅子(しし)」と「猪(いのしし)」を掛けて、イノシシ肉は「牡丹肉(ぼたんにく)」と隠語で呼ばれていた。
上の画像は、東本願寺の唐獅子牡丹図。獅子と牡丹の花がセットで描かれている。獅子と牡丹の結びつきは鎌倉時代には定着しており、これが江戸時代にイノシシ肉の隠語として使われ、イノシシ肉は「牡丹肉(ぼたんにく)」と呼ばれた。
つまり、肉の盛り付け方以前の話としてイノシシ肉は隠語で「ぼたん肉」であり、ぼたん肉を用いた鍋料理は、盛り付け方に関係なく「ぼたん鍋」と呼べるのである。
盛り付け方を問わず、牛肉を使えば牛鍋(ぎゅうなべ)、キジ肉を使えばキジ鍋、桜肉(馬肉)を使えば桜鍋、あんこうを使えば「あんこう鍋」なのは言うまでもない。
すなわち、牡丹の花に似せた盛り付け方は、あくまでも「ぼたん肉」の隠語を反映した後付けの演出にすぎず、盛り付け方が鍋料理の名前の由来になっているわけではない、と考えられるのである。
江戸時代での肉の隠語について
イノシシ肉に限らず、江戸時代では桜(馬肉)、柏(鶏)、紅葉(鹿肉)といった花や植物の名前が肉の隠語として用いられていた。
一体何故、江戸時代では肉を隠語・別名で呼ぶ必要があったのか?
その理由ついてはこちらのページ「肉の別名・隠語の由来 牡丹・桜・柏・紅葉 なぜ植物・花の名前が使われるの?」でまとめている。
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