もう森へは行かない
歌謡曲『もう森へなんか行かない』に影響を与えたフランス民謡
『もう森へは行かない Nous n'irons plus au bois』は、18世紀半ば頃のフランス民謡・童謡。フランス語版wikipediaによれば、作詞者はルイ15世の公妾ポンパドゥール夫人(下挿絵)だという。
歌詞では、森に生えていたゲッケイジュ(月桂樹)が枯れ(または切り倒され)てしまったため、「Nous n'irons plus au bois(私たちはもう森へは行かない)」と冒頭で説明される。
森の月桂樹がそれほどに大事な意味合いを持っていたのだろうか。代わりに娘達が月桂樹の葉を拾い集めにいく、と歌われる。
そしてコーラスでは、「みんな踊ろう Entrez dans la danse」とダンスが始まり、おそらくは男女のペアとなって、気に入った相手にキスをしよう、と陽気なリフレインが続いていく。
古い民謡・童謡にありがちな、一見するとナンセンスな歌詞の内容となっているが、おそらくは18世紀当時には何らかの深い意味合いを持っていたのだろう(詳しくは後述)。
【YouTube】 Nous n'irons plus au bois
歌詞の意味・日本語訳(意訳)
Nous n'irons plus au bois,
Les lauriers sont coupés,
La belle que voilà
Ira les ramasser.
もう森へは行かない
月桂樹は切られてしまった
娘達が拾い集める
Entrez dans la danse,
Voyez comme on danse,
Sautez, dansez,
Embrassez qui vous voudrez.
<コーラス>
踊りましょう
こうやって踊るの
跳んで 踊って
気に入った子にキスしよう
La belle que voilà
Ira les ramasser.
Mais les lauriers du bois,
Les lairons nous couper?
娘達が拾い集める
月桂樹は切られたまま?
Mais les lauriers du bois,
Les lairons nous couper?
Non chacune à son tour
Ira les ramasser.
月桂樹は切られたまま?
娘達が一人ずつ拾い集める
歌詞に隠された本当の意味とは?
作詞者とされるポンパドゥール夫人は、30歳を過ぎた頃からルイ15世(下挿絵)と寝室を共にすることがなくなり、代わりにヴェルサイユの森に「鹿の園」と呼ばれる夜伽の館を開設していたことは歴史上有名な話。
『もう森へは行かない Nous n'irons plus au bois』が作詞されたのもちょうどその頃のようで、夫人はその頃、現在のエリゼ宮殿(パリ)に離れて住んでいたという。
筆者の私見では、この曲の歌詞には、ポンパドゥール夫人が開いた「鹿の園」に関連する要素が暗示されているのではないかと推測している。
月桂樹はギリシア神話に登場する男神アポロンの聖樹で、勝利と栄光の象徴。王冠のように被る月桂冠も作られ、王の暗喩としても用いられる可能性がある。
夫人は年をとり、月桂樹(との夜の関係)は枯れ、ヴェルサイユの森にはもう行かなくなってしまった。それを代わりに若い娘たちが拾いにいった。何とも意味深な歌詞の内容である。
作詞者が本当にポンパドゥール夫人かどうかは定かではないが、その歌詞には、夫人と何らかの関係にありそうな雰囲気が確かに感じられる。
メロディはグレゴリオ聖歌?
フランス民謡・童謡『もう森へは行かない Nous n'irons plus au bois』のメロディについては、グレゴリオ聖歌『天使ミサ』の一曲『キリエ』からインスピレーションを受けているとの指摘があるようだ。詳細は『天使ミサ』のページを参照されたい。
ちなみに、フランスの作曲家ドビュッシーは、このフランス民謡のメロディを自身の複数の作品で引用している。概要はこちらのページ「ドビュッシー 映像 忘れられた映像」にまとめている。
ポップス・歌謡曲などへの影響
フランスのギイ・ボンタンペリ(Guy Bontempelli/1940-)が作詞・作曲した『Ma Jeunesse Fout L'camp 私の青春は逃げて行く』では、歌詞の中に「Nous n'irons plus au bois」が繰り返し使われており、このフランス民謡・童謡から強い影響を受けていることがうかがわれる。
ジュリエット・グレコ、ダリダ、ブリジット・バルドーなど多くのアーティストが同曲を歌っているが、日本ではドラマの影響で、フランスの女性歌手フランソワーズ・アルディ(Françoise Hardy/1944-)によるカバーが比較的有名。日本では『もう森へなんか行かない』のタイトルで知られている。
ちなみに、短編小説集「妄想と強迫」で知られるフランスの作家エドゥアール・デュジャルダン(1861-1949)は、「もう森へなんか行かない」と題される小説作品を残している。
関連ページ
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