商船時代のジョン・ニュートン 三角貿易

アメイジング・グレイスを作詞したジョン・ニュートンの商船時代

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ジョンが乗船したギニア商船は、三角貿易(the Triangular Trade)に携わる商船だった。三角貿易とは、イギリスから持ち込んだ衣類や生活用具、武器を黒人達と物々交換し、その後西インド諸島やアメリカ南部の植民地で黒人達を砂糖やたばこなどと交換し、それをイギリスへ持ち帰るというもの。

ジョン・ニュートンの三角貿易

アメリカ南部で黒人らが収穫した綿花はイギリスへ輸出され、産業革命の基盤となったが、19世紀半ばに勃発したアメリカ南北戦争の大きな原因の一つとなっていった。

ジョンは約半年間、アフリカ南部から川の河口付近へ集められた黒人達を集めて船に乗せる役務をこなしていった。

一連の作業が身についてくると、商船のオーナーであったクロー氏(Mr Clow)に認められ、シエラ・レオネ(the Sierra Leone)の河口付近での作業を一人で任されるようになった。

この頃のジョンは22歳前後で若く体力もあり、熱帯地方での過酷な作業も精力的にこなしていた。

ある時熱病にかかって動けなくなる程に体調を崩してしまい、ある地元の黒人女性に助けを求めたが、助けを求めたはずの彼が受けた待遇は、病人への「助け」とは程遠いものだった。

シエラレオネでの苦難の日々

アフリカのシエラレオネで熱病にかかったジョンが助けを求めた女性は、プリンセス・ピーアイ(Princess P.I.)と呼ばれる地元の育ちのいい黒人女性。

彼女は現地で最も重要な女主人であり、ジョンが乗船した商船のオーナーであるクロー氏の繁栄は、彼女の影響力のおかげだった。

シエラレオネの首都フリータウン

写真:シエラレオネの首都フリータウン(出典:wikipedia)

クロー氏が島を離れている間、何故か彼女はジョンに対して非情なまでに冷たく接した。それまでジョンが使用していた小屋を取り上げ、取引される黒人達を収容しておくシェルターに彼を押し込み、食事もほんのわずかな量しか与えなかった。

空腹に耐えかねたジョンは、シェルター内に生えていた植物の根を生のままかじって飢えをしのいだという。

彼女が何故ジョンにこんなにも冷たく接した理由は定かではない。クロー氏が戻ってくると、また以前のまともな待遇に戻されたが、それまでの冷遇をクロー氏に話しても彼は全く対処してくれなかった。

ジョンの不運はまだ続いた。クロー氏の使用人として更に別の船旅に出ていたジョンは、彼がクロー氏を騙そうとしているという根拠のない疑いをかけられ、クロー氏がそれを信じてしまったのだ。

ジョンは甲板上に拘束され、食事も一日にご飯一口分しか与えてもらえず、それは陸に着くまで続いた。ちょうど雨季で天候は最悪な中、激しい風雨をさえぎるものはなにもなく、粗末な着衣で空腹で雨ざらしの辛い時間は丸二日にも及んだ。

苦しみに耐えかねるジョン

ボスであるクロー氏の信頼を失い、島ではプリンセス・ピーアイに嫌われ、アフリカで一人孤立してしまったジョン。厳しい環境の中で辛い仕打ちを何度も受けてきた彼は、すでに身も心もボロボロになっていた。

聖書

そんな彼は、幾何学に関するユークリッドの『原論』(the first six books of Euclid)を読みふけることで、この悲しみや苦しみを紛らわそうとしていた。浜辺の砂浜をノート代わりに独学で理解を進めていったという。

ちなみにユークリッドは、古代エジプトのギリシア系哲学者エウクレイデスの著書。当時は聖書に次ぐ世界的なベストセラーで、以後の幾何学の発展の基礎となった重要な書籍。

父親に助けを求めたジョン

やがてつらい状況に耐えられなくなったジョンは、父親に助けを求める一通の手紙を書いた。行方の知れない息子の身を案じた父親は、この手紙を受け取ると、すぐに親友のマネスティ氏に依頼して、ジョンの元へ迎えの船を手配した。

一方で、彼の周りの環境も劇的に改善していった。彼はクロー氏から他の貿易船で働くことを許されていた。

移った船の船長ウィリアム氏(Mr. Williams)がとてもいい人で、ジョンを一人前のパートナーとして扱ってくれ、貿易のマネージメントまで任せてくれる程に彼を信頼してくれた。

ジョンはこの信頼に応えて一生懸命取引に没頭し、仕事に楽しさや充実感まで得られるようになっていた。助けを求める手紙を書いてしまった彼でしたが、もうこのまま帰らなくてもいいとさえ思うようになっていたようだ。

彼を迎えに来たのは、やがてジョンが神の奇跡を体験することになる伝説の船、グレイハウンド号だった。

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