君の名は 歌詞の意味 古関裕而
主題歌の歌詞が描く佐渡・志摩の情景と二人の悲しい運命
『君の名は』は、1952年から1954年にかけて放送された同名のNHKラジオドラマ主題歌。1953年に映画化され、1991年にNHK朝ドラマ(連続テレビ小説)で放送された。
作曲は、2020年のNHK朝ドラマ「エール」で主人公のモデルとされた古関 裕而(こせき ゆうじ)。
作詞は、ドラマ「君の名は」原作者の菊田一夫。「君の名は」シリーズ全楽曲の作詞を手掛けたほか、古関とのコンビで『鐘の鳴る丘』(1947年)、『イヨマンテの夜』(1949年)などのヒット曲を残した。
ドラマ「君の名は」冒頭のナレーション「忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓(ちこ)う心の悲しさよ」は特に有名。
ドラマの舞台は、戦時下の東京、佐渡(新潟県)、志摩(三重県)。主題歌『君の名は』の歌詞では、一番から三番まで、この三つの舞台が順番に歌われている(佐渡→東京→志摩の順)。
映画版は第一部から第三部まであり、主題歌『君の名は』は第一部に用いられた。第二部では北海道、第三部では長崎が舞台に加わる。
ちなみに、アメリカ映画「哀愁」と序盤のストーリーが類似している(参照:「別れのワルツ なぜ閉店BGMに? 古関裕而」)。
一番の歌詞の意味
主題歌『君の名は』一番の歌詞では、ヒロイン・氏家真知子の実家がある佐渡(新潟県)が舞台となっている。
映画「君の名は」第一部は、佐渡に帰った真知子の回想から始まることから、その主題歌の歌詞が佐渡から始まるのは、映画のストーリーの流れに合致している。
君の名は……と たずねし人あり
その人の 名も知らず
今日砂山に ただひとり来て
浜昼顔(はまひるがお)に きいてみる<引用:主題歌『君の名は』一番の歌詞より>
浜昼顔(はまひるがお)とは、海岸の砂浜に生育するヒルガオ属の多年草ハマヒルガオのこと。
写真:ハマヒルガオの花(茨城県波崎海岸)(出典:Wikipedia)
砂山と佐渡
歌詞の「砂山」と言えば、「海は荒海 向こうは佐渡よ」の歌い出しで有名な北原白秋の童謡『砂山』が思い出される。
北原白秋の砂山は、新潟市の寄居浜(よりいはま)がモデルとされる。
ロケ地は尖閣湾
ちなみに、佐渡での映画のロケ地は、佐渡島の北部に位置する尖閣湾(せんかくわん)揚島遊園(あげしまゆうえん)。遊覧船が出ている。
写真:映画「君の名は」ロケ地の尖閣湾(出典:Wikipedia)
二番の歌詞の意味
主題歌『君の名は』二番の歌詞では、真知子と春樹の出会いのきっかけとなった東京大空襲と銀座の数寄屋橋が舞台となっている。
夜霧の街 思い出の橋よ
過ぎた日の あの夜が
ただ何んとなく 胸にしみじみ
東京恋しや 忘れられぬ<引用:主題歌『君の名は』二番の歌詞より>
歌詞にある「思い出の橋」が銀座の数寄屋橋を指している。空襲の中、偶然出会った真知子と春樹。命からがら数寄屋橋までたどり着いた二人は、防空壕で一夜を明かした。
お互いに生きていたら半年後、だめならそのまた半年後にこの橋で会おうと約束し、お互いの名も知らぬまま別れたのだった。
写真:昭和初期の銀座・数寄屋橋(出典:Wikipedia)
「君の名は」舞台となった数寄屋橋は、1958年(昭和33年)に東京高速道路の建設時に取り壊された。
三番の歌詞の意味
主題歌『君の名は』三番の歌詞では、後宮春樹の実家がある志摩(三重県)の風景が描写されている。
海の涯(はて)に 満月が出たよ
浜木綿(はまゆう)の 花の香(か)に
海女(あま)は真珠の 涙ほろほろ
夜の汽笛(きてき)が かなしいか<引用:主題歌『君の名は』三番の歌詞より>
春樹の実家である志摩町和具(わぐ)は、ハマユウ(浜木綿)の花の群生地として知られ、海女の多い地域でもある。
志摩市の英虞湾(あごわん)は真珠の養殖が盛んで、真珠養殖発祥の地として名高い。
写真:ハマユウ(浜木綿)の花(出典:Wikipedia)
志摩を含む紀伊半島南部はかつて「熊野」と呼ばれ、熊野の浦のハマユウ(浜木綿)の花は、女性への募る思いを歌った恋歌の題材として度々用いられてきた。
熊野の浜木綿について柿本人麻呂が詠んだ万葉集の歌は次のとおり。
み熊野の浦の浜木綿 百重(ももへ)なす
心は思へど 直に逢はぬかも柿本人麻呂
<歌の意味・現代語訳>
熊野の海辺に咲く浜木綿(の葉)のように、幾重にも幾重にも君の事を想っているけど、直接会うことは出来ないのだなぁ。
熊野の浜木綿の恋歌は、真知子への想いを募らせる春樹の心情とも重なるものがある。
原作者の菊田一夫がこうした和歌の存在を意識していたかどうか分からないが、偶然にしてはうまく合い過ぎているので、おそらくはこの和歌を踏まえたシナリオ設定だったのではないかと筆者は勝手に推測している。
歌詞の順番に意味がある?
『君の名は』の歌詞を一番から三番まで振り返ってみると、一番は真知子と佐渡、二番は銀座の数寄屋橋、三番は春樹と志摩という物語の舞台が順番に配置されていることが分かる。
数寄屋橋を挟んで、あたかも真知子と春樹がそれぞれ反対側に遠く離れ離れになる様子が歌詞の配置にも暗示されているようだ。
それはまるで、天の川に隔てられた七夕伝説の織姫と彦星。だが真知子と春樹には七夕の二人よりも更に辛い運命が待ち受けている。
真知子と春樹の悲しい恋のすれ違いが、本当に作者の意図により歌詞の順番でも表現されているとしたら非常に興味深い。
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