ププッピドゥ Boop-Oop-a-Doop 意味・由来は?
マリリン・モンローの魅力的なスキャットで世界的に有名
「ププッピドゥ」は、マリリン・モンローが代表曲『I Wanna Be Loved by You』の中で歌った有名なスキャット。
英語では「Boop-Oop-a-Doop」または「Boop-Boop-a-Doop」の2パターンの表記がみられる。
スキャットの英単語は、フレーズの部分的な発音を表しているだけなので、それぞれの単語に個別の意味はなく、全体としても意味のある文章にはなっていない(楽器の音と同じ)。
ジャケット写真:マリリン・モンロー ベスト盤
日本語のカタカナ表記では、「ププッピドゥ」でほぼ統一されているように思われるが、ウィキペディアの解説では、「プ(PU)」ではなく、英語の発音に近い濁音の「ブ(BU)」を用いて「ブブッパドゥ」と表記されていた。
だが、日本語の濁音(バビブベボ)はあまり綺麗なイメージにならないので、本ページでは、可愛らしい響きの「プ(PU)」を使った「ププッピドゥ」を用いることとしたい。
【YouTube】 Marilyn Monroe - I Wanna Be Loved By You
ププッピドゥが誕生した1920年代アメリカ
さて、「ププッピドゥ」のスキャットが含まれる『I Wanna Be Loved by You』は、マリリン・モンローのオリジナル曲ではなく、1920年代に活躍した女性歌手のヘレン・ケイン(Helen Kane)が1928年にリリースした楽曲であることは広く知られている。
写真:ヘレン・ケイン(出典:Wikipedia)
ヘレン・ケインによるオリジナル版でも、マリリン・モンロー版と同様に「ププッピドゥ」のスキャットが歌われることから、「ププッピドゥ」の元祖はヘレン・ケインであるように思われるかもしれない。
だが実は、この「boop-a-doop style」(ブッピドゥ・スタイル)のスキャットは、同曲がリリースされる以前から存在していた。
1920年代は、「boop-a-doop style」を含む様々なスキャットがジャズを中心にブームになっていた時期で、ヘレン・ケインによる「ププッピドゥ」も、こうした当時の流行を取り入れたスキャットの一つだったと言える。
1920年代のスキャットブームとは、どのようにして始まったのだろうか?
そして、ヘレン・ケインが「ププッピドゥ」を取り入れた由来・ルーツはどのようなものだったのだろうか?簡単にまとめてみたい。
スキャットとは?
スキャット(Scat singing)とは、主にジャズで、ダバディダ、シュビドゥワなど、意味のない音をメロディに合わせて即興的に歌う歌唱法のこと。
同様の歌唱法は、アイルランドやスコットランドのリルティング(Lilting)、ドイツ語圏のヨーデルなどが、スキャット以前から伝統的に知られている。
1994年には、アメリカのスキャットマン・ジョンがスキャットに特化した楽曲『Scatman(Ski-Ba-Bop-Ba-Dop-Bop)』をリリースして世界的な注目を集めた。
火付け役はルイ・アームストロング
スキャットの火付け役とされるのは、サッチモの愛称で知られるアメリカのジャズトランペット奏者ルイ・アームストロング(Louis Armstrong/1901-1971)。
ジャケット写真:この素晴らしき世界 ルイ・アームストロング・ベスト
時は、「ププッピドゥ」の『I Wanna Be Loved by You』をヘレン・ケインがリリースする2年前の1926年のこと。次のような逸話が残されている。
ルイ・アームストロングが『Heebie Jeebies』(ヒービー・ジービーズ)という楽曲をレコーディングしていた際、歌詞が書かれた楽譜を演奏中に床に落としてしまった。
歌詞を覚えていなかったため、正しい歌詞で歌うには収録をやり直す必要があったが、それまでの素晴らしい演奏を無駄にしたくなかったルイ・アームストロングは、歌詞が分からない部分を即興のスキャットで歌唱し、レコーディングは続行され、そのまま収録が完了したという。
スキャットが取り入れられた『Heebie Jeebies』はベストセラーとなり、以後、ルイ・アームストロングはジャズにおけるスキャットの第一人者として認識され、その後のスキャット・ブームの火付け役となった。
2年後にヘレン・ケイン
上述のとおり、「ププッピドゥ」の『I Wanna Be Loved by You』をヘレン・ケインがリリースしたのは、ルイ・アームストロング『Heebie Jeebies』から2年後の1928年のこと。
同曲は1928年9月にリリースされているが、実はその2か月前にも、「ププッピドゥ」のスキャットが収録されたヘレン・ケインの楽曲が発売されている。
その楽曲とは、1928年7月にレコーディングされた『That's My Weakness Now』(ザッツ・マイ・ウィークネス・ナウ)。
【YouTube】Helen Kane - That's My Weakness Now
曲の後半で「ププッピドゥ」のスキャットが登場する。おそらくこの『That's My Weakness Now』が、ヘレン・ケインが最初に「ププッピドゥ」を用いた楽曲ではないかと思われる。
マリリン・モンローがカバーした『I Wanna Be Loved by You』がリリースされたのは、同曲の2か月後となる1928年9月。
元祖はヘレン・ケインではない?
ここまでの流れを見ると、「ププッピドゥ」のスキャットはヘレン・ケインが元祖のように見えるが、実は彼女より以前に、ブッピドゥ・スタイル(boop-a-doop style)のスキャットが披露されており、それをヘレン・ケインも観ていた事が明らかになっている。
ブッピドゥ・スタイルの元祖とされるのは、ベイビーエスター(Baby Esther)またはリトル・エスター(Little Esther)の愛称で活動していたエスター・リー・ジョーンズ(Esther Lee Jones)。
歌手やダンサーだった両親のマネージメントで、ベイビーエスターは幼い頃からナイトクラブなどで歌やダンスのパフォーマンスを披露するエンターテイナーとして働いていた。
ベイビーエスターとの出会い
ヘレン・ケインが「ププッピドゥ」の『I Wanna Be Loved by You』をリリースしたのは1928年9月。そして『That's My Weakness Now』は同年7月だが、その1か月前の1928年6月、ベイビーエスターはブロードウェイの小劇場「the Everglades Club」でショーを行っていた。
ベイビーエスターが出演するブロードウェイの小劇場を手配したのは、ヘレン・ケインのエージェント(代理人)でもあったトニー・シェイン(Tony Shayne)。
同じエージェントつながりもあってか、ヘレン・ケインは「the Everglades Club」でのベイビーエスターのショーを観に来ていたことが、後の裁判の証言で明らかになっている。当時ヘレン・ケインはブロードウェイで活動していた。
ベティ・ブープ訴訟で明らかに
ヘレン・ケインはアニメ「ベティ・ブープ(Betty Boop)」の主人公キャラクターのモデル(の一人)とされているが、彼女は自分の肖像や歌唱スタイルを盗用されたとして、『ポパイ』で有名なアニメ制作会社フライシャー・スタジオ(Fleischer Studios, Inc.)を1934年に訴えた。
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訴えられたアニメ会社は、「ププッピドゥ」などの歌唱スタイルは彼女オリジナルのものではないことを立証するため、ブッピドゥ・スタイル(boop-a-doop style)のスキャットはベイビーエスターが元祖であると主張として、ベイビーエスターの存在とヘレン・ケインのつながりを裁判の過程で明らかにしていった。
最終的に裁判所は、原告の訴えを立証する証拠が不十分であるとして、被告側勝訴の判決を下した。なお、「ププッピドゥ」の元祖が誰であるかについて、裁判所の判断はなされていない。
スキャットの意味について
「ププッピドゥ」のようなスキャットとそれを表す擬音語に意味はないと上述したが、意味のない言葉でも、それを発声する際に込められる感情によって、様々なシチュエーションや状況・ムード・心境・心情などを表現することはできる。
例えば、「ランランラン」というオノマトペも、陽気に歌えば歌い手の楽しい感情が表現されるが、『天空の城ラピュタ』サントラのように、陰鬱なメロディに乗せて物憂げに歌えば、重苦しさや儚さなどが表現される場面などで用いることも可能となる。
「ププッピドゥ」の場合は、『I Wanna Be Loved by You』の歌詞において言えば、異性に対するもどかしい感情や愛情を表現したり、歌い手自身の魅力をアピールする「吐息」のような意味合いもあるのかもしれない。
「ププッピドゥ」は母音的に「ウ行」が多いので、唇が「ウー」と前に出てキスするときの形になり、魅力的な女性の表情になるという副次的効果も期待できそうだ。
boopの意味は?
ちなみに、スキャットとしてではなく通常の英単語としての「boop」は、プッシュ式電話のボタンを押すときの「ピッピッ」とような擬音として、漫画などで使われることがある。
また、飼い犬の鼻を人差し指で軽くさわる時の擬音(または決まり文句)としてもよく用いられる。
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