ルソーの夢 クラーマー作曲
童謡『むすんでひらいて』と同じメロディが登場する19世紀のピアノ曲
『ルソーの夢』(Rousseau's Dream)は、イギリスの作曲家ヨハン・バプティスト・クラーマー (Johann Baptist Cramer/1771-1858)が1812年に発表した変奏曲(ピアノ曲)。当時のヨーロッパで人気を博した。
主題の導入部は、童謡『むすんでひらいて』とメロディがよく似ている。日本には明治時代の唱歌『見渡せば』として歌詞がつけられ歌われた。
写真:J. J. ルソーの銅像(出典:Wikipedia)
曲名の「ルソー」とは、18世紀フランスの哲学者ジャン=ジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau/1712-1778)のこと。
J. J. ルソーは作曲も行っており、1752年作曲のオペラ『村の占師』(Le Devin du village)は、クラーマー『ルソーの夢』のルーツとなっている。
【YouTube】 Johann Baptist Cramer - Le Songe de Rousseau
曲のルーツについて
クラーマー『ルソーの夢』が出版される20年以上前の1788年には、チャールズ・ジェームズが『メリッサ(Melissa)』という楽曲を発表した。
『メリッサ(Melissa)』は、前節8小節、後節16小節の二部からなり、ピアノ・ハープ・ギターによって演奏される楽曲。
歌詞もつけられており、愛する人(女性)が去っていった悲しみ・苦しみを歌う内容となっている。
この「メリッサ」は「ルソーの夢」の元歌と考えられており、旋律も非常に「むすんでひらいて」に似通っている。
メリッサのルーツは?
『メリッサ(Melissa)』にもルーツが存在し、候補は2曲ある。
一つは、イギリスの作曲家チャールズ・バーニーのオペラ『The Cunning Man(ザ・カンニング・マン/智恵者)』。J. J. ルソーのオペラ『村の占い師』を翻訳したイギリス版オペラで、1766年のロンドン公演のために作曲された。
1766年にロンドンの劇場ドゥルリ・レインで初演されたオペラは大変好評を博し、年内に8回もの上演が繰り返されたという。
もう一つは、1775年にフランスで発表された『ルソーの新ロマンス』。これもJ. J. ルソーのオペラ『村の占い師』が元になっているようだが、作曲者等の詳細は不明。
ヨハン・バプティスト・クラーマーについて
ヨハン・バプティスト・クラーマーは、ドイツのマンハイム生まれ。幼くしてロンドンに移る。有名な音楽家の師事を受け、ハイドンやベートーヴェンとも親しかった彼は、18世紀から19世紀初頭にかけて、ロンドンのピアノ教育界になくてはならない人物だった。
挿絵:ヨハン・バプティスト・クラーマー(出典:Wikipedia)
ピアノ製造と音楽出版の企業家としても成功。ロンドン・フィルハーモニック協会の共同設立者にも名を連ねた。
クラーマー「実際的ピアノ技法大集」(1815年)第5巻または「84の練習曲 作品50」は、今日でもピアノ教育に欠かすことのできない重要な作品で、ハンス・フォン・ビューローによって改訂された(クラーマー=ビューロー練習曲)。
史料価値の高い研究向けアルバム
ジャケット写真:むすんでひらいての謎
おなじみの「むすんでひらいて」の起源と変遷をたどったユニークにして興味深いアルバムである。“起源”となったルソーの歌はもとより、さまざまな国に伝承され多彩なヴァリエーションを生んだ経緯が網羅される。分厚い解説書も資料的価値大。
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