ドナドナ 歌詞の意味 原曲と歴史

英語・日本語・イディッシュ語の歌詞を比較 その意味・内容とは?

『ドナドナ』は、1940年のミュージカル「エスターケ(エスタルケ)」(Esterke)劇中歌『Dana Dana』(ダナ・ダナ)を原曲とする楽曲。作詞:ショロム・セクンダ、作曲:アーロン・ザイトリン

日本では、1966年にNHK「みんなのうた」で放送された安井かずみによる訳詞が有名。小中学校の音楽教科書にも掲載された。

このページでは、安井かずみによる日本語歌詞、原曲のイディッシュ語の歌詞と意味・和訳、そしてジョーン・バエズが歌った英語の歌詞について、どのような違いがあるのか、その内容を簡単に比較してみたい。

子牛 ドナドナ

なお、安井かずみによる日本語の訳詞は、1965年3月にリリースされたザ・ピーナッツのシングル「かえしておくれ今すぐに」のB面に『ドンナ・ドンナ』の曲名で発表されたもの。

翌年の1966年2月にNHK「みんなのうた」では、安井かずみによる『ドンナ・ドンナ』の歌詞が子供向けに変更され、曲名も『ドナドナ』に改められて放送された。

ドナの意味は?

歌詞で連呼される「ドナ」の意味・解釈については諸説ある。

教育芸術社の音楽教科書「中学生の音楽1」(2009年)では、「牛を追うときの掛け声を表す」と解説されている。

小岸 昭「離散するユダヤ人」(岩波新書)の解説によれば、「ドナ」は、ドイツ語で「わが主」を意味する「アドナイ」の短縮形であると説明されている。

ちなみに日本では、長年使用した愛車・バイクを買取・下取りに出す際に、「ドナドナする」のように動詞として使われることがよくある。

 

ザ・ピーナッツ版の歌詞

まず、1965年3月にリリースされたザ・ピーナッツ『ドンナ・ドンナ』について、安井かずみが訳詞した日本語歌詞を次のとおり引用して、その内容を確認してみたい。

1.
ある晴れた昼さがり
市場(いちば)へ続く道
荷馬車がゴトゴト
子牛を乗せてゆく

何も知らない子牛にさえ
売られてゆくのが
わかるのだろうか

ドナ ドナ ドーナ ドーナ
悲しみをたたえ
ドナ ドナ ドーナ ドーナ
はかない命

2.
青い空 そよぐ風
明るく飛び交う
つばめよ それをみて
お前は何思う

もしもつばさが
あったならば
楽しい牧場(まきば)に
帰れるものを

ドナ ドナ ドーナ ドーナ
悲しみをたたえ
ドナ ドナ ドーナ ドーナ
はかない命

後掲のNHK「みんなのうた」版や音楽教科書に掲載された歌詞と比べると、ある程度は共通する部分があるが、子供向けの歌詞では避けられる「はかない命」といった強い表現が見られる。

2番の歌詞「青い空 そよぐ風」の歌い出しは、1948年(昭和23年)にリリースされた歌謡曲『憧れのハワイ航路』における「晴れた空 そよぐ風」の影響が感じられる。

【YouTube】 ザ・ピーナッツ『ドンナ・ドンナ』1965

NHK「みんなのうた」版

次に、1966年2月にNHK「みんなのうた」で初回放送された『ドナドナ』について、安井かずみが訳詞した日本語歌詞を次のとおり引用して、その内容を比較してみたい。

1.
ある晴れた昼下がり
市場へ続く道
荷馬車がゴトゴト
子牛を乗せて行く

可愛い子牛
売られてゆくよ
悲しそうな瞳で
見ているよ

ドナ ドナ ドーナ ドーナ
子牛を乗せて
ドナ ドナ ドーナ ドーナ
荷馬車がゆれる

2.
青い空 そよぐ風
つばめが飛び交う
荷馬車が市場へ
子牛を乗せて行く

もしも翼が あったならば
楽しい牧場に 帰れるものを

ドナ ドナ ドーナ ドーナ
子牛を乗せて
ドナ ドナ ドーナ ドーナ
荷馬車がゆれる

子供向けの音楽番組であるNHK「みんなのうた」で放送された歌詞だけあって、表現が若干柔らかく曖昧な表現になっているのが興味深い。

小学校や中学校の音楽教科書に掲載された歌詞も、このNHK「みんなのうた」版の歌詞が用いられている。

原曲の歌詞と意味・和訳

続いて、1940年のミュージカル「エスターケ(エスタルケ)」(Esterke)劇中歌として作詞・作曲された原曲『Dana Dana』(ダナ・ダナ)の歌詞について、その意味・和訳を掲載してみたい。

作詞:アーロン・ザイトリン(Aaron Zeitlin/1898–1973)、作曲:ショロム・セクンダ(Sholom Secunda/1894-1974)。

ここで掲載する原曲の歌詞は、イディッシュ語そのものではなく、その発音を表記している。

イディッシュ語(ドイツ語:Jiddisch/英語:Yiddish)とは、東欧のユダヤ人の間で話されていたドイツ語に近い言語のこと。イーディッシュ語、ユダヤ語とも。

1.
Oyfn furl ligt a kelbl
Ligt gebundn mit a shtrik
Hoykh in himl flit a shvelbl
Freyt zikh dreyt zikh hin un krik

荷馬車の上に 子牛が一頭
ロープにつながれ 横たわる
高い空 ツバメが一羽
楽しそうに 飛び回る

Lakht der vint in korn
Lakht un lakht un lakht
Lakht er op a tog a gantsn
Mit a halbe nacht

<コーラス>
笑い声が麦畑を吹き抜ける
笑って 笑って 笑って
一日中笑っていた
夜の間でさえも

Dona, dona, dona, dona,
Dona, dona, dona, do.
Dona, dona, dona, dona,
Dona, dona, dona, do.

ダナダナダナ(ドナドナドナ)…

2.
Shrayt dos kelbl, zogt der poyer,
Ver zhe heyst dikh zayn a kalb ?
Volst gekert tsu zayn a foygl
Volst gekert tsu zayn a shvalb

牛は泣いている 農夫が言った
牛になれと誰が言った?
鳥になれなかったのか?
ツバメになれなかったのか?

<コーラス>

3.
Bidne kelber tut men bindn
Un men shlept zey un men shekht
Ver s'hot fligl flit aroyftsu
Iz bay keynem nisht keyn knekht

つながれた哀れな子牛
運ばれて屠畜される
翼を持つ者は高く飛び
誰にも隷属しない

<コーラス>

笑い続けるツバメとの対比

『ドナドナ』原曲の歌詞を見ると、「つながれた哀れな子牛」と「自由なツバメ」という対比がはっきりと描写されていることがよく分かる。

しかもツバメはただ飛んでいるだけではなく、昼も夜も一日中笑って笑って笑いつづけており、その様子がコーラス部の歌詞全体で力点を置いて表現されている。

これだけでも十分に哀れな子牛の悲しい運命が表現されていると思われるが、『ドナドナ』原曲の歌詞ではさらに追い打ちをかけるように、2番の歌詞で農夫が子牛を問い詰める。

「牛になれと誰が言った?」

「ツバメになれなかったのか?」

哀れな子牛に対する農夫のセリフを通して、「運命の残酷さ」、「抗いようのない運命」が強調されている。

子牛が意味するものとは?

原曲の歌詞における「子牛」の悲しい運命は、ヨーロッパにおけるユダヤ人排除の歴史を暗示している。

杉原千畝(すぎはら ちうね/1900-1986)がドイツ占領下のポーランドを脱出してきたユダヤ難民に「命のビザ」を発給したのは、原曲のミュージカル『エスターケ(エスタルケ)」(Esterke)が公開された同年の1940年8月のこと。

『ドナドナ』の歌詞はアウシュヴィッツ強制収容所と関連付けられることがあるが、時系列的に原曲の方が先なので、少なくとも原曲の歌詞とは関係がない。

時系列的に原曲と関連性があるとすれば、1939年9月のポーランド侵攻後にワルシャワ・ゲットー(ユダヤ人街)へユダヤ人やポーランド人が送致・隔離された史実が該当性が高い。劣悪な衛生状態と食糧事情から、すでにこの期間に多くの犠牲者が出ている。

第二次大戦中 ワルシャワのユダヤ人とドイツ軍

写真:第二次大戦中 ワルシャワのユダヤ人とドイツ軍

ジョーン・バエズ版

最後に、アメリカの女性シンガーソングライター、ジョーン・バエズ(Joan Baez/1941-)が1960年にリリースした『Donna Donna』(ドンナ・ドンナ)の英語の歌詞について、その意味・和訳を掲載しておく。内容は原曲に近い。

Joan Baez ジョーン・バエズ ベスト

【YouTube】Joan Baez – Donna Donna

1.
On a wagon bound for market
There's a calf with a mournful eye

High above him, there's a swallow
Winging swiftly through the sky

市場へ向かう荷馬車の上
悲しそうな眼をした子牛
彼の上にはツバメが
颯爽と空を飛んでいる

How the winds are laughing
They laugh with all their might

Laugh and laugh
the whole day through
And half the summer's night

Donna, Donna, Donna, Donna
Donna, Donna, Donna, Don
Donna, Donna, Donna, Donna
Donna, Donna, Donna, Don

風が笑ってる 力いっぱい
笑って 笑って 一日中
夏の夜半(よわ)までも

ドンナ ドンナ ドンナ ドンナ
ドンナ ドンナ ドンナ ドン

ドンナ ドンナ ドンナ ドンナ
ドンナ ドンナ ドンナ ドン

2.
"Stop complaining!" said the farmer
"Who told you a calf to be?

Why don't you have wings to fly with
Like the swallow so proud and free?"

不満は止めるんだ!農場主は言った
誰が子牛に生まれろと言ったんだ?
あの誇らしげで自由なツバメのように
なぜお前は空を飛ぶ翼がないんだ?

How the winds are laughing
They laugh with all their might

Laugh and laugh
the whole day through
And half the summer's night

Donna, Donna, Donna, Donna...

風が笑ってる 力いっぱい
笑って 笑って 一日中
夏の夜半(よわ)までも

ドンナ ドンナ ドンナ ドンナ…

3.
Calves are easily
bound and slaughtered
Never knowing the reason why

But whoever treasures freedom
Like the swallow has learned to fly

子牛たちはたやすく
運ばれて 屠畜される
その理由を知ることなく

自由を大事にする者はだれでも
ツバメのように飛び方を学ぶ

How the winds are laughing
They laugh with all their might

Laugh and laugh
the whole day through
And half the summer's night

Donna, Donna, Donna, Donna...

風が笑ってる 力いっぱい
笑って 笑って 一日中
夏の夜半(よわ)までも

ドンナ ドンナ ドンナ ドンナ…

『虹の彼方に』と関係があった?

虹の彼方に Over The Rainbow』は、1939年8月25日にアメリカで公開されたミュージカル映画「オズの魔法使い The Wizard of Oz」主題歌。

ニューヨークで1940年にミュージカルの一曲として初演された『ドナドナ』は、『虹の彼方に』とほぼ同時期の曲と言える。

この2曲は公開時期が近いだけではなく、作詞・作曲者がどちらも全員ユダヤ人であり、当時のヨーロッパではユダヤ人が苦境に立たされていたことは史実のとおり。

どちらの曲の歌詞にも、自由に空を飛ぶ鳥と比較して、空を飛ぶことができない運命を強調するような描写が見られる。

これを偶然の一致と捉えるのか、当時の歴史との関連性を見出すのか、考察しながら両曲を聞いてみると、何か興味深い発見に出会えるかもしれない。

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