さるかに合戦(さるかにばなし)
他の昔ばなしの歌と比べて人気が出なかった理由とは?
「さるかに合戦(さるかにがっせん/さるかにばなし)」は言うまでもなく有名な昔ばなしだが、他の昔ばなしとは異なり、その物語を題材とした童謡・唱歌が定着していない。
ネットで探してみれば、「さるかに合戦」をテーマとした童謡・唱歌はすぐにいくつか見つかるが、他の昔ばなしの歌と比べて、まったくと言っていいほど歌われず、使われず、定番の歌が存在しない。
なぜ「さるかに合戦」の歌は定着しないのか?その主な理由・要因について簡単に考察してみたい。
まず、元祖「さるかに合戦の歌」ともいえる明治後期の唱歌「さるかに」の歌詞を確認してみよう。
歌詞:「さるかに」(作詞:石原和三郎)
はやくめをだせ かきのたね
ださぬと はさみで ちょんぎるぞ
はやく ならぬか かきのみよ
ならぬとはさみで ちょんぎるぞ
はちやたまごや たちうすが
かにをたすけて かたきうち
たまごのじらいか はちのやり
とうとうさるめは つぶされた
作者について
明治の唱歌「さるかに」作詞は、『花咲かじいさん』、『金太郎』、『うさぎとかめ』を手掛けた石原和三郎。作曲は『桃太郎』の納所弁次郎。
昔ばなしの歌で実績のある彼らの作品にも関わらず、後世まで残らなかった理由があるとすれば、元ネタである「さるかに合戦」のストーリーそれ自体に内在するネガティブな要素が原因と考えられる。
ネガティブな要素とは一体何なのか?いくつか主なポイントを挙げてみたい。
柿を脅すカニ
唱歌「さるかに」では、「さるかに合戦」の前半における有名な台詞「早く芽をだせ柿の種、出さなきゃハサミでちょん切るぞ」がそのまま取り入れられているが、まず最初にここで少し引っかかる。
昔ばなしでは、脅したりズルして欲張るのは悪役の仕事。確かに、柿の実が成るまで何年も待つわけにはいかないが、早く成るよう脅してしまっては、カニに対する印象も悪くなり、後のストーリー上で同情を得にくくなってしまう。
仇討ち物の宿命
「さるかに合戦」のような「仇討ち物」は物語として一定の人気があるが、同種の物語ではまず最初に誰かが惨い死に方をする場合が多く、子供向けの童謡・唱歌との相性はあまり良くない。
仇を討ったとしても、亡くなった人は返ってこないばかりか、復讐方法は残酷になりやすいので、それを童謡・唱歌にしても、歌い終わって楽しい気分にはなれそうにない。
同じく復讐物の「カチカチ山」についても童謡・唱歌が存在するが、「さるかに合戦」と同様に、現代では歌われることはない。これは仇討ち物の宿命と言えるだろう。
ただ、近年の「さるかに合戦」では、カニは死なずに怪我をするだけのストーリーもよく見られ、それに準ずる歌詞の童謡もある。昔に比べてマイルドな展開になっているようだ。
メンバーに変動がある
「さるかに合戦」では、伝えられた地方や書籍によって、カニの仇を討つメンバーに違いが見られることがある。
クリ・臼・ハチ・牛糞だったり、タマゴ・臼・ハチ・昆布だったりと、臼とハチ以外のメンバーが差し変わっているケースが結構あるのだ。
自分の覚えている登場人物と、童謡・唱歌の歌詞で歌われるメンバーが違っていたら、もうそれだけでその歌への親しみは薄れてしまうだろう。
まとめ
「さるかに合戦」のような復讐物をテーマとした童謡・唱歌は人気が出にくい。悪役のようなカニの言動に加え、登場人物に違いがあるなど、物語自体ににネガティブな要素が多く、それをベースに明るい歌に仕上げるのはなかなか難しそうだ。
すべての昔ばなしに歌をつける必要はない。楽しい歌については三太郎のような分かりやすいヒーロー物に任せておき、あとは物語は物語として語り継いでいくのが
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