二ムロッド
Nimrod
エルガー『エニグマ変奏曲』第9変奏
エドワード・エルガー(Edward Elgar/1857-1934)
『二ムロッド Nimrod』は、1899年にロンドンで初演されたエルガーの管弦楽曲『エニグマ変奏曲』における第9変奏。単独での演奏機会も多く、吹奏楽アレンジの楽譜もあるようだ。
『エニグマ変奏曲』における変奏14曲には、楽譜上にそれぞれサブタイトル的なイニシャルや人名・愛称などが付記されているが、第9変奏では、エルガーの親友アウグスト・イェーガー(August Jaeger)の愛称「ニムロッド Nimrod」が記された。
イェーガーという名前はドイツ語「Jäger」で「狩人」や「狙撃手」を意味する。これと旧約聖書における狩の名手「ニムロデ」が「狩つながり」で結び付けられ、「ニムロッド」の愛称となったという。
なお、第9変奏「ニムロッド」以外のイニシャルや人名については、こちらの解説ページ、エルガー『エニグマ変奏曲』を適宜参照されたい。
【YouTube】Nimrod (from "Enigma Variations")
エルガーを励まし続けた親友イェーガー
エルガーの親友「ニムロッド」ことイェーガーは、出版社で音楽関連の編集者として働いており、エルガーに対して音楽的なアドバイスや、時には厳しい批評をぶつけることで、エルガーの音楽的意欲を鼓舞し、勇気づけ、励ましていた。
かつて、エルガーは作曲家としてのスランプに陥っていた。気分は落ち込み、何もかもがいやになって、もう二度と作曲なんてしないとふさぎ込む絶不調の時期を迎えていた。
そんな時期のエルガーを救ったのはイェーガーだった。彼はエルガー宅を訪れ、投げやりになり落ち込む彼に、ベートーヴェンを引き合いに出して励まし続けた。
難聴に苦しんだベートーヴェン
ベートーヴェンもかつて幾度のスランプに陥り、絶望の淵で遺書まで残していた人物。難聴が日に日に悪化し、音楽家にとって生命線の聴覚を失っても、『交響曲第9番』などの大作を世に残した偉大な作曲家。
「ベートーヴェンも苦しんだ。だが多くの美しい音楽を残した。君もやらねばならない。」
イェーガーはこう言い放つと、ベートーヴェンのピアノソナタ第8番「悲愴」第2楽章の主題を口ずさんだ。イェーガーの言葉と歌声は、エルガーの胸の奥で深く深く響き渡った。
エルガーによる後日談によれば、『エニグマ変奏曲』第9変奏『二ムロッド Nimrod』には、あの時イェーガーが歌ってくれたベートーヴェン「悲愴」第2楽章の主題がエッセンスとして取り入れられているという。
それは明確な引用ではなく、あくまでも暗示としてほのめかす程度ではあるが、エルガーとイェーガーの間にしか分からない、親友同士の目に見えぬ固い絆とつながりが、確かにそこには隠されているのである。
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