なぜ豆を炒る? 意味・理由 節分の豆まき
節分の豆まきに煎り大豆を使う意味・理由は?
節分(せつぶん)にまく大豆は、生ではなく炒った大豆(煎り大豆)を使うが、これは何故だろうか?その意味や由来について簡単にまとめてみた。
節分には落花生をまく地域の方は、こちらの「落花生の豆まき 意味・理由」で情報をまとめているので参照されたい。
その他の節分に関する記事や民謡・童謡については、こちらのページ「節分 せつぶん 関連記事まとめ」で一覧にまとめている。
写真:囲炉裏で豆を炒る様子(出典:嵐山町web博物誌)
理由1:芽が出ないように
節分の豆まきに炒った豆(煎り豆)を使う意味は、まいた後の豆から芽が出ないようにするため、という大きな理由がある。
民俗学者・飯島吉晴氏による論文「節分と節供の民俗」によれば、節分の豆を炒ることについて、次のように解説されている。
節分の豆は、基本的には旧年の象徴として穢れや厄災を負って祓い捨てられるものであった。魔除けでの穢れを負った豆であるから、まいた豆から芽が出ることを恐れる伝承は多く、芽が出ないように真っ黒になるまで炒るとか、噛んで苦くなるまで炒るという所もある。
<引用:飯島 吉晴「節分と節供の民俗」より>
節分でまいた豆から芽が出てしまった場合、「人間が鬼に食われる」「その家に凶事が起こる」などの俗信もかつて日本各地に存在していたようで、まいた豆から芽が出ることは絶対に避けなければならないことだったと説明されている。
鬼で象徴されるような穢れ、災厄、病、祟りなど邪悪なものが再びよみがえらないようにする意味があったためとと考えられる。つまり、ここでは炒り豆と鬼とは同一視されているのである。
<引用:飯島 吉晴「節分と節供の民俗」より>
ちなみに、何かに穢れを移して祓い捨てるという風習は、旧暦6月の「夏越の祓(なごしのはらえ)」における「人形代(ひとかたしろ)」の神事にも見られる。
理由2:魔の目を「射る」
節分の豆を炒る(煎る)二つ目の理由としては、「まめをいる」という言葉が「魔の目を射る」(邪気を払う)につながるという縁起かつぎの意味合いがあるとされる。
写真:北条八幡宮での節分祭厄除追儺式(鳥取県/出典:平安寺のささやき)
節分のルーツとされる年中行事「追儺(ついな)」では、桃の弓と葦の矢を用いて鬼を追い払うが、この追儺における「鬼を射る」という儀式が、節分の「豆を炒る」に言葉遊び的につながっているのは大変興味深い。
節目の行事で縁起をかつぐのは、もちろん節分だけではない。例えば「おせち料理」はその代表格。数の子は子孫繁栄、昆布巻きは喜び、栗きんとんは金運など、季節の行事は様々な縁起担ぎが取り入れられている。
5月5日の端午の節句(こどもの日)には、風呂に菖蒲の葉を入れた「菖蒲湯(しょうぶゆ)」に入るが、これも縁起担ぎ。菖蒲の読みが「尚武(武を重んじること)」につながるとして、かつての武家社会で定着した伝統行事である。
理由3:新しい年の象徴
節分に煎り豆を用いる三つ目の理由としては、豆を炒ることによって皮が剥がれ、それが新年の象徴とみなされるという意味合いもあったようだ。
旧年から新年が誕生すること(1種の脱皮)を表すのにふさわしいものとみられたことも考えられる。近藤直也も この点を重視して、「大豆を煎らなければならない必然性は、鬼を欺くためではなく、煎ることによって皮が剥がれ、皮が剥がれることによって、次の新しい年の誕生の象徴と見做されたために、大豆はどうしても煎る必要があったのである」(『ハライとケガレの構造』創元社)と述 べている。
<引用:飯島 吉晴「節分と節供の民俗」より>
旧暦における節分は年越し・大晦日の行事であり、煎り豆の皮がむける様は、新年の象徴として重要な意味合いがあったことが伺われる。
呪文を唱えて豆を炒る?
節分の豆を炒る際、かつて様々な呪文が唱えられていたという。上述の「節分と節供の民俗」では、江戸末期の「淡路国風俗問状答」に記された次のような呪文を紹介している。
一粒宛囲炉裏へ投込、猪の口、兎の口、蚤の口、蚊の口と唱て焼く。是は右の獣虫などを封る呪と云
<引用:飯島 吉晴「節分と節供の民俗」より>
これは、田畑を荒らすイノシシやウサギなどの害獣や害虫を追い払おうとする意味合いがあったという。
節分のひいらぎいわし(柊鰯)でイワシの頭を焼く際にも同様の呪文が唱えられ、これは特に「虫の口焼き」と呼ばれている。
写真:京都祇園のお茶屋さんの節分飾り(出典:ブログ「京都穴場探しと旅日記」)
磨に関するWebサイト「こよみのページ」では、次のような「虫の口焼き」の呪文が紹介されていた。
豆の虫もじりもじり
菜っ葉の虫もじりもじり
大根の虫もじりもじり
・・・
茄子の虫の口を焼け
胡瓜の虫の口を焼け
・・・<引用:Webサイト「こよみのページ」より>
節分の豆を炒る際の呪文と同じく、これも「害虫の口を焼く」という共通点があり、イワシや豆に火を通すということが、一つの農耕儀礼として定着していたことが伺われる。
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