茅の輪くぐりと日本神話 意味・由来

半年間の穢れを祓う夏の神事 スサノオやイザナギと関係?

「茅の輪くぐり」(ちのわくぐり)は、毎年6月末に神社で行われる「夏越の祓(なごしのはらえ)」で実施される神事。その意味と由来について、主に日本神話の観点から簡単にまとめてみた。

茅の輪の由来・ルーツとされる蘇民将来の伝承については、こちらのページ「蘇民将来と牛頭天王 八坂神社の祭神」を適宜参照されたい。

茅の輪をくぐる意味は?

茅の輪とは、チガヤという草で編んだ輪のこと。夏越の祓(なごしのはらえ)で茅の輪くぐりを行うことで、年越の大祓(おおはらえ)の後にたまった半年間の穢れを祓う(はらう)意味がある。

夏越と年越は対の行事であり、年越の大祓でも茅の輪くぐりが行われる。

茅の輪の由来・起源は?

日本の民間信仰・神話では、茅の輪はスサノオ(または牛頭天王)から授かった小さなお守りであったようだ。

牛頭天王は京都・八坂神社の祭神であり、祇園祭の行われる7月には「蘇民将来子孫也」と記した「厄除粽(ちまき)」が、夏越祭では小さな茅の輪のお守り「茅之輪守」が授与される。

茅の輪を授けられる神話・民話については、こちらのページ「蘇民将来と牛頭天王 八坂神社の祭神」で詳しく解説している。

なぜ茅が使われるの?

茅の輪くぐりでは、なぜ茅(ちがや)が使われるのか?その理由・由来・起源については、入手しやすい身近な植物であるという以外に、日本神話との関連では次の2点が関係しているように思われる。

国生みで用いた天沼矛

日本神話では、イザナギとイザナミの「国生み」で大地を創った「天沼矛(あめのぬぼこ)」がある。

矛のように鋭い形状の茅(ちがや)を「天沼矛(あめのぬぼこ)」と重ね合わせたのではないか?そもそも「茅」という字は、草かんむりに「矛(ほこ)」と書く。

スサノオ関連の神剣

「茅」の形状は剣にも見立てることができる。茅の輪はスサノオと関連があると上述したが、スサノオといえば神剣にまつわる日本神話が有名だ。

最も有名なのは、三種の神器の一つである「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」。ヤマタノオロチの尾から見つかったもので、「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)」ともいう。

スサノオがヤマタノオロチを退治した刀剣「天羽々斬(あめのはばきり)」も有名。

くぐり方は?

神社によって茅の輪のくぐり方は異なる可能性があるが、代表的な手順の一例は次のとおり。混雑時には避けた方が良いかも。唱え詞は後述する。

1.一礼の後、左足からまたいで茅の輪をくぐり、左回りで元の位置へ。

2.一礼の後、右足からまたいで茅の輪をくぐり、右回りで元の位置へ。

3.一礼の後、左足からまたいで茅の輪をくぐり、左回りで元の位置へ。

4.一礼の後、茅の輪をくぐってご神前まで進み、二拝二拍手一拝でお詣り。

茅の輪くぐりの歌がある?

茅の輪をくぐっている間に唱える歌として、次の3つの「唱え詞(となえことば)」がある。一般の参拝者が歌う必要はないが、参考までにご紹介したい。

水無月の夏越の祓する人は 千歳の命 延(の)ぶというなり

『拾遺集』よみ人知らず。夏越の祓(なごしのはらえ)で穢れを祓うことで長生きできるということか。

思ふこと みなつきねとて 麻の葉を 切りに切りても 祓へつるかな

『後拾遺集』より和泉式部。意味:水無月の晦日、思い悩む事が全て無くなってしまえと祈りながら、 麻の葉を細かく切りに切って祓いをしたことだ。

蘇民将来 蘇民将来(そみん しょうらい)

茅の輪をスサノオ(または牛頭天王)から授かる伝承・神話に基づく。詳しくはこちらのページ「蘇民将来と牛頭天王 八坂神社の祭神」を参照願いたい。

なぜ左右に回る?

茅の輪くぐりでは、なぜ茅の輪を左右に八の字を描いてくぐるのか?その理由・由来の一つとして、日本神話におけるイザナギとイザナミの「国生み・神生み神話」が関連していると考えられる。

『古事記』によれば、伊邪那岐(イザナギ)・伊邪那美(イザナミ)の二柱の神は、別天津神(ことあまつかみ)から天沼矛(あめのぬぼこ)を授かり、淤能碁呂島(おのごろじま)を創りあげた。

イザナギとイザナミはその島に天降り、天の御柱と八尋殿を建てた。イザナギは天の御柱を左回りに巡り、イザナミは右回りに巡り、神生みへと神話は続いていく。

茅の輪くぐりの順番は、左回り、右回り、最後にもう一度左回りとなるが、最初と最後がイザナギ側の左回りなのは、男性のイザナギが主導で神生みを行ったことを表現しているのではないかと推測される。

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