惜別の唄 島崎藤村 中央大学の学生歌
悲しむなかれ 我が友よ 旅の衣を ととのえよ
「遠き別れに たえかねて」が歌い出しの『惜別の唄』(せきべつのうた)は、戦時中に作曲された中央大学の学生歌・送別歌・卒業ソング。
作曲は、当時中央大学の学生であった藤江英輔。歌詞は、島崎藤村の詩集「若菜集」に収録された「高楼(たかどの)」に基づく。
島崎藤村の原詩は、嫁に行く姉に妹が別れを告げる内容だが、「姉」を「友」に差し替えて作曲された。三番の歌詞にある「くれないの くちびる」や「黒髪」といった表現にその名残が垣間見える。
その後『惜別の唄』は戦後に「歌声喫茶」を通じて全国へ広まり、昭和36年(1961年)に小林旭の歌でレコード化された(小林旭版では歌詞は3番まで)。
写真:中央大学創立50周年(1935年/出典:Wikipedia)
【YouTube】 惜別の歌 中央大学学生歌
歌詞
遠き別れに たえかねて
この高殿(たかどの)に 登るかな
悲しむなかれ 我が友よ
旅の衣(ころも)を ととのえよ
別れといえば 昔より
この人の世の 常なるを
流るる水を 眺むれば
夢はずかしき 涙かな
君がさやけき 目のいろも
君くれないの くちびるも
君がみどりの 黒髪も
またいつか見ん この別れ
君が優しき なぐさめも
君が楽しき うた声も
君が心の 琴の音も
またいつか聞かん この別れ
島崎藤村「高楼(たかどの)」
わかれゆくひとををしむとこよひより
とほきゆめちにわれやまとはん
妹
とほきわかれに
たへかねて
このたかどのに
のぼるかな
かなしむなかれ
わがあねよ
たびのころもを
とゝのへよ
姉
わかれといへば
むかしより
このひとのよの
つねなるを
ながるゝみづを
ながむれば
ゆめはづかしき
なみだかな
妹
したへるひとの
もとにゆく
きみのうへこそ
たのしけれ
ふゆやまこえて
きみゆかば
なにをひかりの
わがみぞや
姉
あゝはなとりの
いろにつけ
ねにつけわれを
おもへかし
けふわかれては
いつかまた
あひみるまでの
いのちかも
妹
きみがさやけき
めのいろも
きみくれなゐの
くちびるも
きみがみどりの
くろかみも
またいつかみん
このわかれ
姉
なれがやさしき
なぐさめも
なれがたのしき
うたごゑも
なれがこゝろの
ことのねも
またいつきかん
このわかれ
妹
きみのゆくべき
やまかはは
おつるなみだに
みえわかず
そでのしぐれの
ふゆのひに
きみにおくらん
はなもがな
姉
そでにおほへる
うるはしき
ながかほばせを
あげよかし
ながくれなゐの
かほばせに
ながるゝなみだ
われはぬぐはん
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