箱根八里 はこねはちり 瀧 廉太郎

箱根の山は 天下の嶮 函谷關も ものならず

『箱根八里』(はこねはちり)は、作詞:鳥居忱、作曲:瀧 廉太郎による日本の唱歌・歌曲。1901年(明治34年)発行の「中学唱歌」に掲載された。

歌詞では、李白の漢詩、中国の故事や古典・歴史に由来する地名・事項が多く盛り込まれている。歌詞全文とその意味・現代語訳については後述する。

箱根山と芦ノ湖

写真:箱根山と芦ノ湖 神奈川県と静岡県にまたがる火山

お正月に開催される箱根駅伝では、険しい箱根の山上りや山下りコースは大きな見どころの一つとなっている。

箱根八里とは、東海道五十三次の宿場の一つ小田原宿から箱根峠を越えて三島宿まで約八里の道のりを指す。一里は約4㎞。

峠を越えるための馬子や駕篭が活躍した。民謡『箱根馬子唄』(はこね まごうた)では、「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」と歌われた

動画

【YouTube】箱根八里 金沢明子

【YouTube】箱根八里 山本健二

歌詞:第一章 昔の箱根

函谷關(かんこくかん)の復元

<上写真:函谷關(かんこくかん)の復元>

一番の歌詞

箱根の山は 天下の嶮(けん)

函谷關(かんこくかん)も ものならず

萬丈(ばんじょう)の山 千仞(せんじん)の谷

前に聳(そび)へ 後方(しりえ)に支ふ

雲は山を巡り 霧は谷を閉ざす

昼猶闇(ひるなほくら)き 杉の並木

羊腸の小徑は 苔滑らか

一夫關に當るや(あたるや) 萬夫も開くなし

天下に旅する 剛氣の武士(もののふ)

大刀(だいとう)腰に 足駄(あしだ)がけ

八里の岩根(いわね) 踏みならす

かくこそありしか 往時の武士

歌詞の意味・現代語訳(意訳)

箱根の山は 天下の嶮(けん)

箱根の山は 天下有数の険しい難所

函谷關(かんこくかん)も ものならず

中国の関所・函谷関(かんこくかん)さえ比べ物にならない

注:長安の東、洛陽の西にある関所

萬丈(ばんじょう)の山

非常に高い山

注:1丈は10尺(約3.3m)。それが数万倍という例え。千客万来などと同じ。

千仞(せんじん)の谷

非常に深い谷

注:1仞は約6尺(2m弱)。それが数千倍という例え。

前に聳(そび)へ 後方(しりへ)にささふ

高い山が前にそびえ立ち 深い谷が後方を支える

雲は山を巡り 霧は谷を閉ざす

雲が山をかすめて流れ 霧が谷に立ち込める

注:雲海の可能性も考えられる。

昼猶闇(ひるなほくら)き杉の並木

昼でもなお暗い杉並木

羊腸の小徑は 苔滑らか

曲がりくねった小道は 苔むして滑りやすい

注:「羊腸の」は、曲がりくねった様子を山羊や羊の腸に例えている。

一夫關に當るや(あたるや) 萬夫も開くなし

一人の兵士が関所を守れば 万もの兵が攻めても落ちない

注:難攻不落の関所であることを誇張する例え。実際にはそれほどの兵力差があれば関所は落ちるだろう。

天下に旅する剛氣の武士(もののふ)

国中を旅する不屈の武士

大刀腰に足駄がけ

大刀(たち)を腰に差し 足駄(高い歯の下駄)をはいて

八里の岩根 踏みならす

岩だらけの八里の道を 下駄を鳴らして進む

注:一里は約3.9km(日本)。ちなみに中国では500m。

かくこそありしか、往時の武士

昔の武士は そのような格好や振る舞いだった

注:「かく」は「このように、そのように」を意味する古語(副詞)。「こそ」は強調の係助詞。「あり」は、ラ変動詞「あり」の連用形。文末の「しか」は、「こそ」を受ける過去の助動詞「き」の已然形(係り結び)。

歌詞:第二章 今の箱根

蜀の桟道

<写真:中国・蜀の桟道/出典:Wikimedia Commons>

二番の歌詞

箱根の山は 天下の岨(そ)

蜀(しょく)の桟道(さんどう) 數(かず)ならず

萬丈の山 千仞の谷

前に聳へ 後方にささふ

雲は山を巡り 霧は谷を閉ざす

昼猶闇(ひるなほくら)き 杉の並木

羊腸の小徑は 苔滑らか

一夫關にあたるや 萬夫も開くなし

山野に狩りする 剛毅のますらを

猟銃肩に 草鞋(わらじ)がけ

八里の岩根 踏み破る

かくこそありけれ 近時のますらを

二番の歌詞の意味

箱根の山は 天下の岨

箱根の山は 天下一険しい場所

注:岨(そ/そば)とは、山の切り立った険しい所。がけ、絶壁など。

蜀の桟道 數ならず

蜀(しょく)の桟道すらも比べ物にならない

注:蜀(しょく)は、中国・三国志において劉備玄徳・諸葛亮孔明らが建国した蜀漢のこと。桟道(さんどう)は、絶壁の崖に張り付くように作られた木の道。

山野に狩りする 剛毅のますらを

山中や野原で狩りをする 勇気ある男(猟師)

猟銃肩に 草鞋(わらじ)がけ

猟銃を肩にかけ 草鞋を履き

八里の岩根 踏み破る

岩だらけの八里の道を踏破していく

かくこそありけれ 近時のますらを

このようにあってほしい 近頃の男は

ますらお

益荒男(ますらお)/りっぱな男。勇気のある強い男。ますらおのこ。武人。兵士

メンデルスゾーン『交響曲第2番』に似てる?

余談だが、瀧 廉太郎『箱根八里』のメロディは、メンデルスゾーン 交響曲第2番「讃歌」第1楽章の主題に若干雰囲気が似ている。

瀧 廉太郎『荒城の月』についても、メンデルスゾーン 交響曲第3番「スコットランド」第1楽章との類似性が指摘されることがあるようだ。

詳しくは、こちらの「瀧 廉太郎 有名な曲・代表曲」の解説をご参照願いたい。

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