ウェールズの赤い竜 Welsh Dragon

アーサー王伝説のはじまり

ケルトの古い言い伝えにおいて、赤い竜はウェールズ(ブリトン人)の守り神、大地の守護神として崇められてきた。

これに対して、ブリテン島に渡来したサクソン人やアングル人は白い竜を守護神として仰いでおり、ブリトン人とサクソン人の民族的対立は、赤い竜と白い竜の争いとして伝承されていくことになる。

5世紀頃のブリテン島には、定住していたケルト系民族ブリトン人のヴォーティガン(ボーティガンまたはヴォーティガーン/Vortigern)という大君主がおり、北部のスコット人・ピクト人と争いを続けていた。

地中に封印された2匹の竜

ヴォーティガン(ボーティガン)は戦いに備えて塔の建造を命じたところ、土台となる地面の下に何かが埋まっているようで、それが塔建築の妨げとなっていた。

一体何が埋まっているのか調査を始めたところ、魔術師の少年マーリン(右挿絵)が現れ、2匹の竜が地底に封印されていると告げた。

半信半疑のヴォーティガンはさっそく地面を掘らせてみたところ、大きな2つの石の箱が現れた。恐る恐る箱を開けてみると、そこには神話時代から伝わる伝説上の赤い竜・白い竜がそれぞれ収められていた。

封印を解かれ再び争いを始める2匹の竜。一体これは何なのか魔術師マーリンに尋ねると、赤い竜はブリトン人(ケルト系先住民族)、白い竜はサクソン人(ヨーロッパから渡来)であり、「2匹の争いは赤い竜が白い竜を踏みつぶすまで終わらない」と予言めいた言葉を残した。後世になって、この予言は現実のものとなっていった。

サクソン人と手を組んだヴォーティガン

北部のピクト人との戦いを有利に進めるため、ヴォーティガンはヨーロッパからサクソン人を傭兵として多数上陸させた。しかしこれが先住者ブリトン人との争いを招き、戦いに敗れたブリトン人は敗走してウェールズの地に追いやられてしまった。

さらにヴォーティガンは異民族サクソン人と手を組み、ブリトン人に対して暴政を敷いた。追い詰められたブリトン人達はついに立ち上がり、逃れていた各地で反乱軍が次々と結成されていった。反乱軍との戦いで暴君ヴォーティガンは討ち死した。

夜空に火の竜 ~ブリトン人の宿命~

ヴォーティガンの死後、ブリタニアを治めていたブリトン人の指導者アンブロシウス・アウレリアヌスは、弟ユーサー(ウーサー/ウーゼル)とともに、サクソン人との戦いを続けていたが、兄アウレリアヌスは戦闘に敗れ亡くなってしまう。

兄の死後もサクソンとの戦いを続けたユーサー(右挿絵)だったが、ある時、夜空に明るく輝く大きな彗星が現れた。それは赤くまばゆい光を放ち、巨大な尾を引き流れていく様は、あたかも燃え盛る巨大な火の竜が天を駆けていくようであった。

ユーサーは魔術師マーリンにこの彗星が示す意味を尋ねると、ブリトン人にはサクソンを打ち滅ぼす宿命があること、ユーサーの息子は将来偉大な王となること、そして子々孫々ブリタニアの王としてこの地を治めていくという運命を告げた。

息子はアーサー王に ~そして伝説へ~

己の宿命を知ったユーサーは、兄アウレリアヌの死という悲しみを乗り越え、長く苦しい戦いの日々を懸命の思いで勝ち抜き、ついにサクソン人との争いに勝利を収めた。

ブリタニア王の座に就いたユーサーは、運命を知らしめた火の竜の星を崇めるとともに、赤い竜・白い竜の魂を鎮めるべく、2匹の黄金の竜を作らせた。

後にユーサーは「ユーサー・ペンドラゴン」(Uther Pendragon:竜の王、竜王)と讃えられ、その息子はアーサー王となり、サクソン人の侵攻を撃退した君主として数多くの伝説を残していくことになる(アーサー王物語)。

右写真:キング・アーサー像(出典:Wikipedia)

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