女心と秋の空(男心と秋の空) 意味・由来

天候が変わりやすい秋の空模様と男女の移り気な心

「女心と秋の空」(おんなごころとあきのそら)は、天候が変わりやすい秋の空模様に女性の移り気な心を例えたことわざ。江戸時代までは「男心と秋の空」だった。

「男心と秋の空」はいつ頃から「女心と秋の空」に変わっていったのだろうか?ルーツの一つとされる室町時代の狂言から時系列にまとめてみた。

なお、秋に関連する他のことわざについては「秋のことわざ 意味・由来」でまとめているので、こちらも是非ご覧いただきたい。

室町時代の狂言

室町時代の狂言『墨塗(すみぬり)』には、「男心と秋の空は一夜にして七度変わる」というセリフが登場する(版による)。

『墨塗(すみぬり)』のあらすじは、ある大名が在京中に馴染んだ女性との他愛のない物語。

別れを惜しむ女性は涙したが、その涙は髪をとかすための鬢水(びんみず)で目をぬらしただけのウソ泣きだった。

それを見破った家来は殿様にウソ泣きだと申し上げるが信じてくれない。

そこで家来は鬢水(びんみず)を墨(すみ)と入れ替えると、女は気づかずその墨を目の下につけて顔が真っ黒に。

墨で真っ黒の女性の顔を見た大名は、ようやく真実を理解した。飽きれた大名は女性に手鏡を渡し、女性はそこで初めて墨のイタズラに気がついた。

してやったりと大笑いする大名と家来。女性は怒って二人を追いかけるところで、話が終わる。

小林一茶の俳句(江戸時代)

江戸時代の俳人・小林一茶(こばやし いっさ/1763-1828)は、変りやすい自分の心を秋の空にたとえて、次のような句を詠んでいる。

はづかしや おれが心と 秋の空

これは明らかに「男心と秋の空」を踏まえた俳句となっており、そんな移り気な心が恥ずかしいと内省的な心情が吐露されている。

「秋の空」の「秋」は「飽き」にも通ずる掛け詞(かけことば)となっており、洒落好きな江戸文化にも受け入れられ定着していったようだ。

この「男心と秋の空」が「女心」へ変化していく動きは江戸時代にも既に現れているが、「女心」の方へ大きく動いていくのは明治時代に入ってから。

尾崎紅葉の小説

明治時代の小説家・尾崎 紅葉(おざき こうよう/1868-1903)は、1892年の小説「三人妻」の中で、「男心と秋の空」に触れたうえで、それに関連するヨーロッパのことわざについて次のように言及している。

欧羅巴の諺に女心と冬日和といえり

この「女心と冬日和」というのは、イギリスをはじめとする英語圏の次のようなことわざを示している。

A woman's mind and winter wind change often

(意味:女性の心情と冬の風はよく変わる)

ここでは「秋の空」ではなく「冬の風」だが、女性の変わりやすい心情を描写した同趣旨の格言であり、その後の大正デモクラシーや女性の地位向上に伴い、日本独自のことわざ「女心と秋の空」として定着していくことになる。

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