トロイカ チャイコフスキー
ピアノ曲集『四季』より 11月
チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky/1840-1893)
チャイコフスキー『トロイカ』は、ロシアの風物詩をモチーフとした全12曲のピアノ曲集『四季』の11番目の曲(11月)。ホ長調(E major)。
『トロイカ』というと、物悲しい雰囲気のロシア歌曲『トロイカ』が思い出されるが、チャイコフスキー『トロイカ』を支配する曲調にはそのような寂しさはあまり感じられない。
コンスタンチン・コロヴィン 「ロシア 祭りの散策」 1930
明るくはっきりとしたリズムとメロディで、雪原を軽やかに疾走するトロイカの躍動感や空間的広がりが目に浮かぶようだ。トロイカの鈴の音も表現されている。
【YouTube】ラフマニノフの演奏によるチャイコフスキー『トロイカ』
【YouTube】Richter plays Tchaikovsky The Seasons, November
詩と音楽のコラボレーション雑誌
なお、チャイコフスキー『四季』は、もともとロシアの音楽雑誌の企画として作曲が依頼された作品。この企画では、毎月の風物・季節感に合ったロシアの詩人による作品が掲載され、チャイコフスキーはその毎月の詩の内容や風物をモチーフとしたピアノ曲を作曲していった。
11月については、チャイコフスキー『トロイカ』の曲とともに、ニコライ・ネクラーソフによる次のような詩が掲載された。
Не гляди же с тоской на дорогу,
И за тройкой вослед не спеши,
И тоскливую в сердце тревогу
Поскорей навсегда затуши.
In your loneliness do not look at the road,
and do not rush out after the troika.
Suppress at once and forever
the fear of longing in your heart.
あこがれに満ちて遠くを見てはいけない
トロイカの馬を追ってはならない
心の中であんなに悲しく語った絃は
永久に消えさせてしまえ
ニコライ・ネクラーソフ(Nikolay Nekrasov/1821–1878)
ラフマニノフの演奏で知られるトロイカ
ロシアの作曲家・演奏家セルゲイ・ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov/1873-1943)は、チャイコフスキー『トロイカ』を自身のレパートリーの一つとしており、同曲の知名度はラフマニノフの演奏によるところが大きい。
ラフマニノフとチャイコフスキー『トロイカ』が関係するエピソードとしては、こんな話が残されている。
10代半ばの頃のラフマニノフは、音楽教師のニコライ・ズヴェーレフ(Nikolai Zverev/1832–1893)宅に住み込みで、モスクワ音楽院に通っていた。
写真:ズヴェーレフとラフマニノフ(10代)
厳格な指導で知られるズヴェーレフは、ラフマニノフを含めた門弟たちに毎日長時間にわたる厳しい音楽の指導を施していたが、日曜日だけは息抜きのために自宅を開放し、モスクワ中の音楽関係者や知識人を招いて門弟たちと交流させた。
『トロイカ』の作曲者であるチャイコフスキーもズヴェーレフ宅を訪れており、ラフマニノフは特にチャイコフスキーに才能を認められ、目をかけられていた。
ある日、ズヴェーレフの誕生日を祝う席にチャイコフスキーが招かれた際、ラフマニノフはチャイコフスキー『トロイカ』を堂々と披露し、祝宴の場を盛り上げた。チャイコフスキーはラフマニノフの才気あふれる演奏にいたく感銘を受けたという。
出版社: 全音楽譜出版社; 菊倍版 (2008/12/1) |
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