なぜサンタは煙突から入るの? 由来・歴史

聖ニコラオスの伝説からイタリアの魔女まで サンタと煙突のお話

トナカイのそりに乗ってサンタクロースがクリスマスプレゼントを子供たちに届けに行く際、サンタクロースは屋根に降り立って、煙突から家の中へ入っていくのがお決まりだが、サンタが煙突を通っていくというスタイルは一体いつ頃に確立したものなのだろうか?

煙突にはまるサンタクロースとトナカイ

サンタと煙突の関係については、後述する聖ニコラオスの伝説がその由来・ルーツとして説明されることが多いが、サンタと煙突を結び付ける要素は果たしてそれだけだろうか?これらの点について、簡単にまとめてみたい。

初出は19世紀前半

煙突から入るサンタクロースが最初に描写されたのは、1822年にアメリカの新聞で発表された無名の詩「聖ニコラスの訪問(A Visit from St. Nicholas)」。

聖ニコラス(ニコラオス)とは、サンタクロースのモデルとされるキリスト教の聖人のこと。この詩が現代におけるサンタクロースの具体的なイメージを確立したと考えられている。

詩の題名については、現在では「クリスマスのまえのばん(The Night Before Christmas)」として広く知られている。

クリスマスのまえのばん The Night Before Christmas

煙突とサンタが登場するシーンは次のとおり。ウィキペディアから英語の原文を引用する。

So, up to the house-top
the coursers they flew,
With a sleigh full of toys
and St. Nicholas too.

And then in a twinkling
I heard on the roof
The prancing and pawing
of each little hoof,

As I drew in my head
and was turning around,
Down the chimney
St. Nicholas came with a bound.

この英文では、空飛ぶトナカイのそりで屋根に降り立った聖ニコラオス(サンタクロース)が、煙突の中を通ってドスンと家の中へ降りていく様子が描写されている。

ルーツは聖ニコラオスの伝説

サンタと煙突を結び付けたのは、サンタクロースのモデルとされる3世紀ローマ帝国時代の聖人ニコラオスの伝説と一般的に説明される。

ニコラオスは司祭の時、落ちぶれた豪商(または元貴族)を助けた。商人は貧しくて三人の娘を身売りさせなければならなかったが、ニコラオスは夜中に商人の家の窓から、密かに2度にわたって多額の金貨を投げ入れた。

金を投げ入れる聖ニコラオス

写真:三人の娘が居る貧しい家に金貨を投げ入れる聖ニコラオス(画:ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ)1425年頃

ニコラオスの施しに父親は涙を流して感謝し、娘たちはやがて結婚して幸せに暮らしたという。

ルネッサンス初期に「煙突」へ

上述のニコラオスの伝説では、金貨を「窓」から投げ入れているが、これがルネッサンス初期(14世紀ごろ)以降になると、近代的な煙突がヨーロッパに普及しはじめ、伝説の筋書きも「窓」ではなく「煙突」から金貨を投げ入れる派生形が登場するようになる。

ニコラオスによる煙突からの金貨の施しが、サンタクロースが煙突を通ってプレゼントを運んでくるというクリスマスの物語につながっていくと考えられる。

煙突と屋根

ただ、ニコラオスの伝説では、煙突から金貨を投げ入れているだけで、ニコラオス自身が煙突の中へ入っていくわけではないので、この話だけでは根拠・ルーツとして若干弱い印象も否めない。

実は、煙突とプレゼントを結びつける伝説がもう一つある。それは、イタリアに古くから伝わるベファーナの伝説が大きく影響しているのではないかと筆者は考えている。

イタリアの魔女

ベファーナ(Befana)は、イタリアに伝わる魔女の一種。エピファニー(公現祭/主顕節)の1月6日の前夜(イブ)に、前日までの一年間に良い子だった子供には素敵なプレゼント、悪い子だった子供には靴下に炭を入れていくと言われる。

エピファニー(Epiphany)とは、イエスの誕生を記念する固定祭日で、クリスマスの12月25日から1月6日までの12日間は「降誕節」と呼ばれる。

イタリアの魔女ベファーナ

写真:イタリアの魔女ベファーナ(出典:Wikipedia)

ベファーナは「魔女の宅急便」のキキと同じくほうきで空を飛ぶ。そして、子供のいる家の煙突から室内へ降りていき、キャンディやおもちゃなどのプレゼントを靴下に入れていくという。

まるでサンタクロースのようなベファーナの伝説は、現代でもイタリアで語り継がれており、イタリアの子供たちは、クリスマスイブとエピファニーイブの両方でプレゼントをもらう機会があるようだ。

死後イタリアへ移された聖ニコラオス

ローマ帝国(トルコ)の聖ニコラオスとイタリアのベファーナが混ざると、ちょうどサンタクロースに近い人物像のベースが出来上がるが、これらに果たして接点はあるのだろうか?

実は11世紀後半、東ローマ帝国領のミラ(トルコ)がイスラム王朝のセルジューク朝に征服された際、聖ニコラオスの不朽体(遺体)はイタリアのバリ(バーリ/Bari)へ移管されており、聖ニコラオスはイタリアで巡礼の対象となっていたのだ。

イタリア・バーリのサンニコラ教会

写真:イタリア・バーリのサンニコラ教会(出典:Wikipedia)

イタリアにおいて聖ニコラオスとベファーナの伝説は長い年月をかけて融合し、イタリア・ルネッサンスの波に乗ってヨーロッパ各地へ広まり、やがてオランダで聖ニコラオスはシンタクロースとなり、オランダからアメリカへの移民によってサンタクロースのルーツがもたらされていったと考えられる。

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