キエフの鳥の歌
ウクライナ民謡?歌謡曲?
「果てなき空のかなた いとしい鳥は飛ぶ」の歌い出しで親しまれる歌曲『キエフの鳥の歌』。ウクライナ民謡とも歌謡曲とも言われるが、本当のところはどうなのだろうか?
『キエフの鳥の歌』に関して、2015年11月時点でネットから得られた情報を簡単にまとめてみた。ウクライナに関する情報はネットでもなかなか得られにくいので、真偽のほどは定かではないが、更なる研究のための足掛かりにはなると思われる。
ちなみに写真はサヨナキドリ(小夜啼鳥)。別名、ヨナキウグイス(夜鳴鶯)、英語ではナイチンゲール(Nightingale)の愛称で親しまれている。
【YouTube】キエフの鳥の歌
日本語版 キエフの鳥の歌
まずは、日本語で歌われる『キエフの鳥の歌』について。作詞者は、北海道合唱団の指導者・作曲家の故・木内宏治氏。JASRACデータベースでは「訳詞者」として登録されている。
1984年に北海道合唱団がウクライナの首都キエフを訪れたとき、歓迎会で演奏された原曲を日本に持ち帰ったものだという。
メロディは、女声合唱団チャイカの中島章利氏が日本語向けにアレンジしている。
原曲との比較のために、日本語版『キエフの鳥の歌』の歌詞を次のとおり掲載する。
歌詞:キエフの鳥の歌(訳詞:木内宏治)
果てなき空のかなた いとしい鳥は飛ぶ
丘に一人たたずみ 過ぎにし日を思う
心にしみる鳥の声 白鳥よ鶴よ
やさしき人は今いずこ 教えておくれ
夜霧にしずむ森よ ほの暗き谷間よ
うたごえ川面をゆく わが思いを乗せて
鶴のうたごえによせて とどけよ愛の歌
やさしき人は今いずこ 教えておくれ
ウクライナ語版 キエフの鳥の歌(原曲)
キエフでの歓迎会から日本へ持ち帰ったとされる『キエフの鳥の歌』とは、いったいどのような楽曲だったのだろうか?
世界中から様々な動画がアップされているYouTubeなら、ひょっとしたら原曲っぽい動画も簡単に見つかっちゃうかもなぁ…と甘い考えで検索してみたら、本当にあっさり見つかってしまったので、ここで軽くご紹介することとしたい。
歌っている男性は、ウクライナの歌手・俳優・芸術家のナザリー(ナザーリィ)・ヤレムチュク(ヤレムチューク)(Назарій Яремчук/Nazariy Yaremchuk/1951-1995)。
北海道合唱団がウクライナの首都キエフを訪れた2年後の1986年にチェルノブイリ原発事故で被爆し、その9年後にガンで亡くなった。
ナザリー・ヤレムチュクが歌っている曲名は、『また秋が来て Знову осінь』。別名『ナイチンゲール(サヨナキドリ)』とも題されることがあるようだ。
メロディは歌謡曲
『また秋が来て Знову осінь』のメロディは、Aメロ、Bメロ、サビの各構成がはっきりとしたいわゆる典型的な歌謡曲・ポップス。シャンソンの名曲『枯葉』を思わせるようなムードあふれる抒情的なメロディだ。
動画を見ていただければお分かりのとおり、そのメロディは『キエフの鳥の歌』そのもの。日本でアレンジされているため部分的に異なるが、ナザリー・ヤレムチュクの歌う曲が『キエフの鳥の歌』の原曲である可能性は高そうだ。
原曲の歌詞の内容は?
では、その原曲の歌詞はいったいどのような内容なのだろうか?参考までに、中島章利氏による訳詞の一部をご紹介しよう。日本語版との共通点も数多く見いだせる。
訳詞:ナザリー・ヤレムチュク『また秋が来て Знову осінь』
また秋が…
遠い南へとまた
鳥たちはウクライナから飛び去っていく
高く渦を巻いて
はるかな旅路を行く
夜鶯(サヨナキドリ)の歌が消えた
流れていた空から
夜鶯の歌流れるウクライナは
その歌もなしに
どうやって暮らしていくのだろうか?
白鳥の歌が消えた
飛んでいた空から
白鳥の歌流れるウクライナは
白鳥の悲しい歌もなしに
どうやって暮らしていくのだろうか?
原曲の作詞者・作曲者について
ウクライナ歌謡曲『また秋が来て Знову осінь』の作詞者・作曲者については、上で紹介したYouTube動画の説明文に記述があった。真偽のほどは不明だが、ひとつひとつ見ていくこととしよう。
作曲者について
まず作曲者については、ウクライナ出身の国民的作曲家オレクサンドル・ビラシュ(Олександр Іванович Білаш/Oleksandr Bilash/1931–2003)と記述されていた。
オレクサンドル・ビラシュは映画音楽やオペラ、歌謡曲まで幅広く作曲を行っており、ウクライナを代表する作曲家として「People's Artist of Ukraine (1977) 」、「the Hero of Ukraine (2001)」などの栄誉ある賞を数多く受賞している。
作詞者について
つぎに作詞者については、ウクライナの作家(Гуцало Євген Пилипович/Yevhen Hutsalo/1937-1955)の名前が付されていた。
『また秋が来て Знову осінь』の歌詞は、この作家の詩集など出版物から採られている可能性がありそうだ。彼の詩集をしらみつぶしに探していけば、何か新たな発見があるかもしれない。
まとめ
あまりに情報が少なすぎるので、まとめ的な結論ははっきり言って出しようがないのだが、このページでまとめた情報を総合すれば、『キエフの鳥の歌』の原曲がウクライナ歌謡曲『また秋が来て Знову осінь』である可能性が高そうだということが言えるだろうか。
それにしても、日本語版『キエフの鳥の歌』のメロディのアレンジは素晴らしい。ウクライナ民謡であっても、ウクライナ歌謡曲であっても、いずれにしても良い曲であることは間違いない。研究者でもない限り、素直に歌を鑑賞するのにこれ以上あまり深入りしない方がいいのかもしれない。
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