銭懸け松伝説 お伊勢参り

騙し取った松の木の銭は、神の祟りで白蛇の姿に変わり…

江戸時代に大流行したお伊勢参り(伊勢神宮への参詣)は、その熱狂の断片が文学作品や川柳など様々な形で現代まで伝えられているが、そのお伊勢参りに関連する古い言い伝えの一つとして、伊勢に伝わる「銭懸け松伝説」を簡潔に取り上げてみたい。

写真:現在の銭懸け松とお堂

夫の赦免を祈願して お伊勢参りに出かけたが…

平安時代の公卿・小野 篁(おの の たかむら/802-853)は、朝廷を風刺する過激な漢詩を詠んだ罪で隠岐へ流罪となっていた。

小野 篁の妻は、夫の赦免を祈願するため、お供を連れてお伊勢参りへと旅立ったが、慣れない長旅のため、現在の三重県津市高野尾町あたりで疲れ果ててしまった。

伊勢神宮まであとどれぐらいなのか、近くで草刈りをしていた男に道のりを尋ねたところ、男はおおげさに「あと20日以上かかる」とウソを教えたという。

「疲れ果てたこの状況で、あと20日も旅を続けることはできそうにない。」

伊勢神宮への到達を泣く泣く断念した妻は、そばにあった松の木に銭の束をかけ、伊勢神宮の方向へ拝み、夫が早く帰ってくるよう祈りを捧げて、元来た道を帰っていった。

その様子を隠れて見ていた男が、松の木に掛けられた銭を盗み取ろうと近寄ると、なんと銭の束がたちまち白蛇の姿に変わり、今にも襲い掛からんと男を睨みつけた。

男は神の祟りに恐れおののき、すぐに小野 篁の妻を追いかけ、ウソをついたことを謝った。松の木へ戻ると、枝に掛けた銭は元の姿に戻っていた。改心した男はお詫びに伊勢神宮まで一行を道案内して送っていったという。

小野 篁にまつわる伝説も

この「銭懸け松伝説」には登場人物が若干異なるバージョンが全国各地に言い伝えられているが、どれもストーリーの大きな流れは同じのようだ。

銭が蛇に変わるという神秘的な内容の伝説だけあって、もともと異世界的な伝説の多い小野 篁の名前が出てくるのはとても自然な流れのように思われる。

小野 篁は地獄関連の逸話を残している神秘的な人物で、井戸を通じてこの世とあの世を行き来し、夜は冥府で閻魔大王の補佐として働いていたという伝説が有名。

地獄に落ちた紫式部の裁判で、篁が閻魔大王にとりなしたという伝説もあり、篁の墓の隣には紫式部の墓があるという。

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