あめんぼの歌(五十音) 歌詞の意味
発声練習・滑舌トレーニング

詩人の北原 白秋による遊び心あふれる五十音のうた

「あめんぼ あかいな あいうえお」が歌い出しの『あめんぼの歌』は、演劇の役者や声優、アナウンサーなどの発声練習・滑舌トレーニングに用いられ、かつては小学校の国語の教科書にも掲載されていた。

作者は、『からたちの花』、『この道』、『ゆりかごのうた』など、数多くの名作を残した詩人・童謡作家の北原 白秋(きたはら はくしゅう/1885-1942)。

同じく発声練習・滑舌トレーニングの教材として有名な『外郎売(ういろううり)』の意味や解説についてはこちら

【YouTube】アナウンサー式 発声練習 滑舌が良くなる「五十音」

歌詞

あめんぼ あかいな あいうえお
(水馬 赤いな あいうえお)
うきもに こえびも およいでる
(浮藻に 小蝦も 泳いでる)

かきのき くりのき かきくけこ
(柿の木 栗の木 かきくけこ)
きつつき こつこつ かれけやき
(啄木鳥 こつこつ 枯れ欅)

ささげに すをかけ さしすせそ
(大角豆に 酢をかけ さしすせそ)
そのうお あさせで さしました
(その魚 浅瀬で 刺しました)

たちましょ らっぱで たちつてと
(立ちましょ 喇叭で たちつてと)
とてとて たったと とびたった
(トテトテ タッタと 飛び立った)

なめくじ のろのろ なにぬねの
(蛞蝓 のろのろ なにぬねの)
なんどに ぬめって なにねばる
(納戸に ぬめって なにねばる)

はとぽっぽ ほろほろ はひふへほ
(鳩ポッポ ほろほろ はひふへほ)
ひなたの おへやにゃ ふえをふく
(日向の お部屋にゃ 笛を吹く)

まいまい ねじまき まみむめも
(蝸牛 ネジ巻 まみむめも)
うめのみ おちても みもしまい
(梅の実 落ちても 見もしまい)

やきぐり ゆでぐり やいゆえよ
(焼栗 ゆで栗 やいゆえよ)
やまだに ひのつく よいのいえ
(山田に 灯のつく よいの家)

らいちょうは さむかろ らりるれろ
(雷鳥は 寒かろ らりるれろ)
れんげが さいたら るりのとり
(蓮花が 咲いたら 瑠璃の鳥)

わいわい わっしょい わいうえを
(わいわい わっしょい わゐうゑを)
うえきや いどがえ おまつりだ
(植木屋 井戸換へ お祭りだ)

マザーグースのようなナンセンス要素も

『あめんぼの歌』では、「あいうえお」から始まる日本語の50音が順番にバランスよく流れるように用いられている。正式な詩のタイトルは、その名もズバリ『五十音』。

この詩の主目的としては、50音を順番にテンポよく用いることや、単語の音のつながり、または詩としての言葉選びの面白さなどが優先されているので、論理的に納得のいく説明をしにくい箇所もあるかもしれない。

そういったナンセンスな歌詞が用いられることは、マザーグース・ナーサリーライムなどのイギリス民謡をはじめとして、世界中の民謡・童謡によく見られる。

若い頃に早稲田大学英文科に在学し英語を深く学び、後にマザーグースの翻訳『まざあ・ぐうす』を出版した北原 白秋らしく、この『あめんぼの歌』は、どこかマザーグース的なエッセンスも感じられる遊び心あふれる作品となっている。

あめんぼの語源・由来は?

アメンボの漢字表記は、水馬、飴坊、飴棒など様々ある。「飴」は、臭腺から発する飴のような臭いに由来しており、「棒」は、体が棒のように細長いことを表している。

んぼ・坊」は、「赤ん坊」と同じように、小さくて可愛らしいものにつく接尾語。「さくらんぼ」や「つくしんぼ」なども同様。

なお、アメンボは雨が降った水溜りでよく見かけるため、「雨ん坊(雨坊)」を語源とする説もあるようだ。

あめんぼは赤くない?

『あめんぼの歌』を象徴する冒頭の歌詞、「あめんぼ あかいな あいうえお」を見ると、「赤いアメンボなんで本当にいるの?」との疑問がわくかもしれない。

確かに、セアカアメンボやコセアカアメンボなどの名前のついた種も存在しており、赤色とは全く無関係ではないが、実際のアメンボは、赤に近かったとしても暗い赤色というか褐色といった感じで、少なくとも「赤いな」と感心したり強調するような赤さではない。

これはもちろん、五十音をテーマとした詩の作品として「あ行」に関連した語呂の良さを優先したものだろう。

もちろん「あめんぼ」以外にも、「あさやけ」や「あめふり」など、「あ」に関連した4文字の単語はたくさんあるが、童謡的なコミカルさ・親しみやすさを出すために小動物や昆虫を使いたかったのかもしれない。

「ささげに酢をかけ」意味は?

ササゲ(大角豆)とは、マメ科ササゲ属の一年草の豆の部分(下写真)。見た目は小豆に似ている。

赤飯には小豆を入れることが多いが、小豆は煮ると皮が破れやすく、豆の腹が割れる様が武士の切腹を連想させるという理由で、江戸(関東)では小豆の代わりにササゲが用いられていた。現代でも赤飯用のササゲが市販されている。

『あめんぼの歌』の歌詞では「ささげに すをかけ さしすせそ」と歌われているが、これは「さ行」のリズムで詩を編むための語呂合わせであり、本当にササゲに酢をかけて食べるわけではないと思われる。

ただ、酢大豆の応用でレシピが作れるかも。ご興味がある方は自己責任で挑戦してみると何か新しい発見があるかもしれない。

夏の季語 蓮花が咲いたら瑠璃の鳥

「れんげが さいたら るりのとり (蓮花が咲いたら瑠璃の鳥)」については、レンゲ(ハス)が咲くのは夏、そして夏鳥のオオルリ(瑠璃の鳥/瑠璃鳥)の組み合わせで、「ら行」で夏の季語がうまく表現されている。

写真はオオルリのオス(出典:Wikipedia)。オオルリはスズメ目ヒタキ科オオルリ属に分類される鳥類の一種で、 日本へは夏鳥として渡来する。

井戸替え

「うえきや いどがえ おまつりだ (植木屋 井戸換へ お祭りだ)」の井戸換へ(井戸替え)とは、井戸水をすべて汲み出して、井戸の中を掃除をする夏の行事。「井戸さらえ」や「さらし井」などともいう。

「植木屋」については、単なる「わいうえを」の「うえ」を語呂合わせしたもので、井戸替えとの直接の関連性はないと思われる。

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