庭の千草 歌詞の意味

先立たれ一人残されても 白菊のように力強く生きていきたい

『庭の千草(にわのちぐさ)』は、1884年(明治17年)発行の「小学唱歌集(三)」に『菊』として掲載された日本の唱歌。

原曲は、アイルランド民謡(歌曲)『夏の名残のバラ(夏の最後のバラ)』。

作詞者(訳詞者)は、イギリス民謡『埴生の宿(はにゅうのやど)』訳詞でも知られる明治時代の文学者・里見義(さとみ・ただし/1824-1886)。

歌詞の内容は、原曲のアイルランド民謡『夏の名残のバラ』をある程度踏まえた内容となっている。歌詞の意味については後述する(画像の出典:どんぐりころころのブログ)。

【YouTube】庭の千草 関屋敏子

歌詞(原文に近い仮名表記)

庭の千草も むしのねも
かれてさびしく なりにけり
あゝしらぎく 嗚呼白菊
ひとりおくれて さきにけり

露にたわむや 菊の花
しもにおごるや きくの花
あゝあはれあはれ あゝ白菊
人のみさおも かくてこそ

原文の画像

1884年(明治17年)発行の「小学唱歌集(三)」に掲載された『菊』の原文画像は次のとおり(出典:国立国会図書館 近代デジタルライブラリー)。

「しらぎく」と「白菊」、「菊の花」と「きくの花」など、あえて仮名表記を変えた歌詞となっているのが興味深い。

「しらぎく」については、直前の「さびしく」と韻を踏んでおり、仮名表記をそろえることで踏韻を見た目にも強調したものと推測される。

歌詞の意味

『庭の千草』の歌詞では、人生の晩年、愛する人に先立たれ一人残された人物の寂しい気持ちが歌われている。

庭の千草も むしのねも
かれてさびしく なりにけり

「かれて」については、花が「枯れる」という現代的な意味と、「疎遠になる、離れる」といった意味の古語「離る(かる)」の二つの意味があると考えられる。

あゝしらぎく 嗚呼白菊
ひとりおくれて さきにけり

「おくれて」については、「人に先立たれる」という意味の古語「後る・遅る」と解釈できる。親しい人に先立たれて一人残された様子を暗示しているのだろう。

露にたわむや 菊の花
しもにおごるや きくの花

「露にたわむ」については、先立たれ一人残されて涙に暮れる様子が目に浮かぶ。

「しもにおごる」は古い漢文に由来する表現で、漢字では「霜に傲る」と表記される。

「傲る」とは、霜に負けずに力強く咲く菊の花の様子を表しており、ここでは悲しみに対して力強く生きていこうとする人物の気丈な様子が暗示されていると考えられる。

なお、寒さに耐える菊を表す「傲霜(ごうそう)」という言葉もある。

あゝあはれあはれ あゝ白菊
人のみさおも かくてこそ

「あはれ」は、寂しさや悲しさを表す古語の感動詞。「みさお(操)」は、不変の意思・節操、伴侶への貞節などの意味がある。

庭に咲いた周りの草花(庭の千草)が皆枯れてしまった中、秋冬の厳しい寒さを一人耐え忍ぶ菊の花のように、人間も強く生きていきたいものだというメッセージが込められているように感じられる。

原曲のアイルランド民謡『夏の名残のバラ(夏の最後のバラ)』の歌詞に通じるものがあるが、原曲では、愛する人に先立たれて一人残される悲しみがより強調されている。両曲の歌詞を比較してみると面白い発見があるかもしれない。

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