エルフィン・ナイト Elfin Knight 歌詞の意味
スカボローフェアのルーツとされるスコットランドの古いバラッド
『エルフィン・ナイト』(The Elfin Knight/妖精の騎士)は、イギリス民謡『スカボローフェア』のルーツとされる古いバラッド。
歌詞では、「針を使わずにシャツを縫う」や、「1エーカーの土地を角で耕す」など、現代の『スカボローフェア』にも見られる「実行困難な謎かけ」の要素が織り込まれている。
一体誰が何のために、誰に対して「実行困難な謎かけ」をしたのか?歌詞の内容については後述する。
挿絵:円卓の騎士トリスタンと王女イゾルデ(アーサー王物語)出典:Wikipedia
「バラッド」とは、イギリスやスコットランドなどの伝承歌の一つ。歌詞では歴史物語や風刺的な内容が描写される。ストーリーは、破局的な展開やバッド・エンド(エンディング)が多い。
アメリカのチャイルド教授が収集したチャイルド・バラッド(Child Ballad)が有名で、『エルフィン・ナイト』(The Elfin Knight)もその一つ。
チャイルド・バラッドは全5巻で、『エルフィン・ナイト』は第1巻の2番目に掲載されているので、単に「Child #2」(チャイルド・ナンバーツー)とも表記される。
歌詞のあらすじ・ストーリー
チャイルド・バラッドにおける『エルフィン・ナイト』(Child #2) では、AからMまで全13種類のバリアント(異形)が歌詞のみの形で取り上げられているが、本ページでは、その最初のバリアント「A」の歌詞について解説する。
登場人物は、妖精の騎士(エルフィン・ナイト)と人間の少女の二人。
少女は恋人として妖精の騎士を召喚するが、まだ若い少女だったため、エルフィン・ナイトは実現不可能な仕事を条件として少女に提示することで、少女からの誘いを断ろうとする。
これに対して、少女も実現不可能な作業を前提条件として提案し、エルフィン・ナイトから提示された謎かけを事実上相殺してしまう。
困ったエルフィン・ナイトは、自分には妻と子供がいることを打ち明ける。少女はようやくあきらめ、エルフィン・ナイトは去っていった。
歌詞の意味・和訳(意訳)
My plaid awa, my plaid awa,
And ore the hill and far awa,
And far awa to Norrowa,
My plaid shall not be blown awa.
我がプレイド(注1)が飛んでいく
丘を越え はるか遠く
はるか遠くノローワまで
我がプレイドよ 飛ばされてはならぬ
注1:プレイド(プラッド)は、スコットランドの民族衣装。格子模様の長い肩掛け。
The elphin knight sits on yon hill,
Ba, ba, ba, lilli ba
He blaws his horn both lowd and shril.
The wind hath blown my plaid awa
妖精の騎士(エルフィン・ナイト)が
向こうの丘に腰を下ろしている
彼が吹く角笛(つのぶえ)は
大きな音で甲高い
その風は 我がプレイドを吹き飛ばした
He blowes it east, he blowes it west,
He blowes it where he lyketh best.
彼は東へ吹き 西へ吹く
彼が最も望む方へ
"I wish that horn were in my kist,
Yea, and the knight in my armes two."
少女「あの角笛を私の胸の中に
あの騎士も私の腕の中に」
She had no sooner these words said,
When that the knight came to her bed.
彼女が(召喚の)呪文を唱えた途端
妖精の騎士が彼女の寝室に現れた
"Thou art over young a maid," quoth he,
"Married with me thou il wouldst be."
汝は若い女性だ 彼は言った
汝にこれが出来れば結婚しよう
"I have a sister younger than I,
And she was married yesterday."
私には妹がいるの
彼女は昨日結婚したわ
"Married with me if thou wouldst be,
A courtesie thou must do to me.
汝にこれが出来れば結婚しよう
汝がやらなければならない儀礼だ
"For thou must shape a sark to me,
Without any cut or heme," quoth he.
我にシャツを作るのだ
少しも切ることなく
裾もないシャツを 彼は言った
"Thou must shape it knife-and-sheerlesse,
And also sue it needle-threedlesse."
ナイフもハサミも使わず形にして
針も糸もつかわず縫わなければならない
"If that piece of courtesie I do to thee,
Another thou must do to me.
もしその儀礼を私がやれたら
あなたも私にお返しをしなくちゃね
"I have an aiker of good ley-land,
Which lyeth low by yon sea-strand.
1エーカーの良い牧草地を持ってるの
向こうの海岸のそばに低く広がってる
"For thou must eare it with thy horn,
So thou must sow it with thy corn.
それをツノで耕し
穀物をまいて
"And bigg a cart of stone and lyme,
Robin Redbreast he must trail it hame.
石と石灰岩の手押し車を作って
ヨーロッパコマドリに引かせて
"Thou must barn it in a mouse-holl,
And thrash it into thy shoes soll.
穀物をネズミの穴に放り込んで
靴の底で脱穀して
thou must winnow it in thy looff,
And also seck it in thy glove.
手のひらでもみ殻をふるい分けて
手袋に詰め込んで
"For thou must bring it over the sea,
And thou must bring it dry home to me.
それを海の上に持って行って
乾いたままで持ち帰って来て
When thou hast gotten thy turns well done,
Then come to me and get thy sark then."
これらがうまくできたら
私の所に来てシャツを受け取って
"I'l not quite my plaid for my life;
It haps my seven bairns and my wife."
The wind shall not blow my plaid awa
我がプレイドは我が人生ならず
7人の子供と妻がいる
風よ 我がプレイドを
吹き飛ばしてはならぬ
"My maidenhead I'l then keep still,
Let the elphin knight do what he will."
The wind's not blown my plaid awa
純潔は守り続けます
妖精の騎士 あなたはもう自由よ
風よ 我がプレイドを
吹き飛ばしてはならぬ
スカボローフェアとの関係は?
『スカボローフェア』の歌詞では、上述した『エルフィン・ナイト』の歌詞から、「針も糸も使わずにシャツを縫う」や、「1エーカーの土地を角で耕す」など、「実行不可能な仕事」の部分が用いられている。
しかし、これらが少女からの誘いを断るための口実として用いられたという前後関係はバッサリと落とされているため、その意味合いは元ネタである『エルフィン・ナイト』から切り離され、『スカボローフェア』独自の新たな役割が与えられている。
はたして『スカボローフェア』では、実行不可能な仕事を条件とすることで、主人公のどのような意思が表現されているのだろうか?
この点については、こちらのページ『スカボローフェア 歌詞の意味・和訳』で解説している。
シューベルト『魔王』もバラッド
余談だが、『エルフィン・ナイト』のように物語が詠み込まれるバラッドは、クラシック音楽の世界で、19世紀ロマン主義の時代に「文学的バラッド」として成立した。
文学的バラッドの作品としては、小学校の音楽鑑賞でも用いられるシューベルト『魔王』が有名。
バッド・エンド(エンディング)が多いバラッド作品のように、激情的・破局的な終焉へと向かう劇的な展開を特徴とする。
ショパンのバラード作品にも、バラッドのように激情的な終焉へと向かう劇的な特徴を持つ楽曲があり、その影響が伺われる(バラード第1番など)。
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