パプリカ 2020年東京オリンピック応援ソング
子供たちが歌って踊れる応援ソング 曲名の意味・理由は?
『パプリカ』は、2020年東京オリンピック向けにNHKが企画した応援ソング。2018年8月リリース以来、NHKは関連番組を通じてパプリカダンスの普及に力を入れている。
歌は、NHK「2020応援ソングプロジェクト」のオーディションで選ばれた小学生ユニット「Foorin(フーリン)」。ダンスミュージックビデオも公開され、NHK「みんなのうた」でも放送された。
ジャケット写真:パプリカ(初回生産限定盤)(DVD付き)
作詞・作曲は、ドラマ「アンナチュラル」主題歌『Lemon』(レモン)や『Flamingo』(フラミンゴ)などのヒット曲で知られるシンガーソングライター米津 玄師(よねづ けんし/1991-)。
一体NHKはどんなコンセプトで『パプリカ』の制作を米津玄師に依頼したのだろうか?曲名や歌詞の意味・理由は?曲に元ネタがあった?
過去の類似のヒット曲などを参考に、『パプリカ』の歌詞や楽曲のコンセプトを考察・解釈する上で重要と思われるポイントをまとめてみた。
【YouTube】NHK 2020東京オリンピック 応援ソング「パプリカ」ダンス
NHKが提示した要件とは?
マイナビニュースのインタビュー記事によれば、米津玄師がNHKから2020年東京オリンピック応援ソングの依頼を受けた際、曲の方向性に関するいくつかの要件を提示されたという。
最初にお話をいただいたときから、いくつかのキーワードがあったんです。まずは、歌って踊れる応援ソングである。そして、歌う人は自分以外の人間である。で、名の売れている人ではない。そうなると、誰に歌ってもらうんだろうっていうところが、すごく難しくて。
引用:マイナビニュース<米津玄師、子供たちへの祝福を願った「パプリカ」誕生秘話>2018/08/15より
この「歌って踊れる応援ソング」というのは、具体的には「子供たちが」踊れる応援ソングとして指定されていたようだ。
作曲の参考になるような過去のヒット曲をNHKが米津玄師に例示したかどうかは不明だが、筆者の私見では、1998年長野オリンピックのキャラソンに使われた『WAになっておどろう』の曲名がNHKから具体的に提示されていたのではないかと推測している。
長野オリンピック『WAになっておどろう』
『WAになっておどろう』は、1998年長野オリンピックのマスコットキャラクター「スノーレッツ」のテーマソングに採用された楽曲。
ジャケット写真:WAになっておどろう~NHKみんなのうた
もともとは、1997年4月にNHK「みんなのうた」で放送された子供向けの歌で、シンガーソングタイターの角松 敏生(かどまつ としき)が長万部太郎の名義で作詞・作曲を手掛けた曲。
放送当初から問い合わせが殺到し、その4か月後に再放送が決定するなど、リクエストが殺到し『WAになっておどろう』は大ヒットを記録した。ジャニーズのV6(ブイシックス)もカバーしている。
NHK「みんなのうた」での映像では、子供たちがスタジオで世界各国の民族舞踊風のダンスを踊る様子が放映された。
2020年東京オリンピック応援ソング『パプリカ』の作曲にあたって、NHKが長野オリンピックのキャラソン『WAになっておどろう』の良いイメージ・成功例を再現しようと考えたとしても何らおかしくはない。
マル・マル・モリ・モリ!
2020年東京応援ソングの方向性として、NHKが当初抱いていた(かも知れない)イメージを推測するには、もう一つ触れておくべき大ヒット曲がある。
その大ヒット曲とは、2011年のドラマ「マルモのおきて」主題歌として、芦田愛菜と鈴木福が可愛らしいダンスを披露した『マル・マル・モリ・モリ!』だ。
ジャケット写真:マル・マル・モリ・モリ!((フルサイズ)薫と友樹の振り付き映像(スペシャル・バージョン)DVD付)
NHKでは、2011年7月31日および8月14日放送の「MUSIC JAPAN」で披露されたほか、2011年末のNHK「NHK紅白歌合戦」にも芦田愛菜と鈴木福が出演し、紅組歌手・白組歌手の合同歌唱で『マル・マル・モリ・モリ!』が大合唱されるという異例の演出が行われた。
ここで、『パプリカ』の歌詞の一部を見ていただきたい。すると、『マル・マル・モリ・モリ!』の歌詞と完全一致する部分があることがお分かりいただけるだろう。
マル・マル・モリ・モリ みんな食べるよ
マル・マル・モリ・モリ! 明日も晴れるかな<引用:『マル・マル・モリ・モリ!』歌詞より>
見つけたのはいちばん星
明日も晴れるかな<引用:米津玄師『パプリカ』歌詞より>
NHKにとって、「子供が歌って踊れる応援ソング」を企画する際、この『マル・マル・モリ・モリ!』はモデルケースの一つであり、過去の成功例として同曲のエッセンスを『パプリカ』にも反映させようとしたのではないだろうか?
歌詞は田舎の情景
『パプリカ』の歌詞を見ると、小さな子供たちが田舎の野山で駆け回って遊んでいるようなノスタルジックな情景が描写されている。
この歌詞の内容については、米津玄師はインタビュー記事の中で次のように答えている。
子供のころ、じいちゃんばあちゃんの徳島の田舎でいろんなことを感じながら過ごして、そこで巻き起こったものとか感じていたことを書こう、と。それは小さなことだけど、でも、それでいいと思ったんです。
引用:マイナビニュース<米津玄師、子供たちへの祝福を願った「パプリカ」誕生秘話>2018/08/15より
過去の応援ソングへの不信感
過去のオリンピックNHK関連曲を振り返ると、2004年アテネオリンピックのテーマ曲となった『栄光の架橋』(歌:ゆず)や、2016年リオ五輪の安室奈美恵『Hero』(ヒーロー)など、オリンピックのメダリスト達を讃えるようなスケール感の大きいテーマ曲が多かった。
この点に関しては、米津玄師は強い不信感を抱いていたようだ。インタビュー記事の該当部分を次のとおり引用する。
わかりやすく大きなもの、広いもの、壮大なものに対する不信感はまず第一にあって。たとえば、いろんな応援ソングを聴いても、すごくいい曲だけど、あそこで歌われてる歌詞を、俺は信じられないんですよ。そういう人間として生まれ育ってしまったんです。だから、自分はそれとは違う応援ソングを作らなければならない。そういうデカいものじゃなくていいと思ったんです。
引用:マイナビニュース<米津玄師、子供たちへの祝福を願った「パプリカ」誕生秘話>2018/08/15より
パプリカの意味は?
「パプリカ」という植物(香辛料)の名前を曲名やサビの歌詞に用いた意味については、インタビューの中で米津玄師は次のように説明している。
音の響きですね。パプリカという物自体のポップな感じ、かわいい感じもあって。これも説明すると難しいんですけれど、「なんでパプリカなのか?」って訊かれたときには「わかりやすい意味はないです」って一言で説明できちゃうんですけど。
<中略>
わかりやすい意味を説明するのも大事なことだと思うんですけど、そのなかで全部完結させてしまっては、あまりにあっけないというか。本来そういうところでは説明できないブラックボックス的なところがあるから音楽のエモーションが生まれてきているわけで。
引用:マイナビニュース<米津玄師、子供たちへの祝福を願った「パプリカ」誕生秘話>2018/08/15より
パプリカとオリンピックのつながりは?
2020年東京オリンピック応援ソングの曲名を考えるにあたって、米津玄師は一体なぜ「パプリカ」というワードを思いついたのだろうか?
上掲のインタビュー記事では「わかりやすい意味はない」「音の響き」との回答だったが、これはアーティストとしての一つの建前であり、やはり何らかのつながりがあったはずだ。
思うに、筆者の勝手な推測では、オリンピックの参加国である世界中の国々の国旗を一度に眺めた時に、そのカラフルな色合いから、作曲者が植物の「パプリカ」の鮮やかな色合いを連想したのではないかと想像している。
つまり、「世界中の国々の国旗=パプリカ」であり、パプリカのカラフルな色合いはオリンピックに参加する世界中の国々(特にアフリカ諸国)の象徴であると言えるのではないだろうか?
アフリカとパプリカ
ガーナやギニア、カメルーンなど、アフリカ大陸の諸国では、国旗に赤・黄・緑の三色が多くの国で用いられている。
この三色は、国際的に「汎アフリカ色 Pan-African colours」(パン・アフリカン・カラーズ)という名前が付けられているほど様式化しており、アフリカ大陸以外の国々の国旗にも使われている(リトアニアやミャンマーなど)。
パン・アフリカン・カラーズは、まさにパプリカの色合いと合致するものであり、発音的にも「パン・アフリカ」→「パプリカ」とダジャレ的に結びつけることも可能だろう(強引なダジャレはNHKの大好物)。
まとめ
NHKの2020年東京オリンピック応援ソング『パプリカ』は、子供が踊れる曲として、長野オリンピック『WAになっておどろう』や『マル・マル・モリ・モリ!』の大ヒットをモデルケースに製作された可能性が考えられる。
過去のオリンピック応援ソングのような壮大さはあえて避けられ、歌詞では子供たちが田舎で遊ぶノスタルジックな情景が描写されている。
パプリカの意味は、作者のコメントでは「わかりやすい意味はない」とのことだが、オリンピックの参加国である世界中の国々の国旗の色からヒントを得たのではないかと推測される。
特に、アフリカ諸国の国旗に見られる「パン・アフリカン・カラーズ」が「パプリカ」の由来と考えられる。
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