んぼう・ん坊 意味・語源 一覧

広辞苑(第七版)で末尾に収録され話題となった接尾語

「あわてんぼう」や「食いしんぼう」、「赤ん坊」など、末尾が「んぼう」・「ん坊」で終わる日本語について、主な例を一覧にまとめ、その意味や語源などを簡単に解説してみたい。

この「んぼう(ん坊)」という接尾語は、2018年(平成30年)1月に発行された『広辞苑』第七版(岩波書店) に初めて掲載され、かつ「あいうえお」順的に同書の一番最後(末尾)の収録語となったため話題となった。

広辞苑 第七版 岩波書店

第六版以前の『広辞苑』では、「あいうえお」順的に最後の収録語は「んとす」だった。用例として「終わりなんとす」(終わろうとしている)が例示され、辞書の終わりが小粋に締めくくられていた。

『広辞苑』第七版では、「んぼう(ん坊)」について次のように解説されている。

んぼう(ん坊)

(多く動詞の連用形に付く)そういう性質・特色をもつ人や事物。「んぼ」とも。「暴れ―」「食いし―」「赤―」「さくら―」

<引用:『広辞苑』第七版(岩波書店)より>

語源については記述がなかった旨をここで

語源・文法について

まず語源については、例えば「赤ん坊」の「坊」という漢字を見て分かるとおり、幼い子に対する愛称「坊(ぼう)」に由来している(と考えられる)。

「ん」については、例えば「さくらんぼ」や「つくしんぼ」の場合、さくら「の」坊。つくし「の」坊といったように、格助詞の「の」が音変化して「ん」となった可能性が高そうだ。「でくの坊」の「の」はこの原形か。

ただこの考え方は、「さくら」や「つくし」のように名詞と「んぼ」がくっついた場合には当てはまるが、「暴れんぼう」や「怒りんぼう」のように動詞と「んぼ」が結合した語句には適用できない。

思うに、動詞+「んぼ」の場合の「ん」については、助動詞「む」の婉曲(えんきょく)用法の連体形(後ろに名詞が続く形)であると考えるのがしっくりくる。

婉曲(えんきょく)とは、表現が遠まわしなこと、露骨にならない穏やかな物言いを意味する。婉曲の助動詞「む」は、「暴れる」「怒る」などの聞こえが悪い動詞の印象を和らげ、「んぼ」と結合して全体として優しい表現になるような役割を果たしているのではないだろうか。

困った行動・性質

さてここからは、接尾語「んぼう(ん坊)」が使われている具体的な単語を分類ごとに一覧で確認してみたい。

まずは、人に迷惑をかけるような困った行動や性質を表すケースについて。

あばれんぼう(暴れんぼう)

あまえんぼう(甘えんぼう)

あわてんぼう(慌てんぼう)

いばりんぼう(威張りんぼう)

いやしんぼう(卑しんぼう)

おこりんぼう(怒りんぼう)

きかんぼう(聞かん坊/利かん坊)

くいしんぼう(食いしんぼう)

けちんぼう(ケチんぼう)

わすれんぼう(忘れんぼう)

「坊(ぼう)」は幼い子に対する愛称であり、これらの言葉も子供の困った行動に対して使われることが多いが、中には大人に対しても使われるものもあるように思われる。

いずれの場合にも、問題のある相手に対して親しみや愛情のような優しい感情が背景にあるように感じられる。典型的には、母親から子供に対して向けられる愛情がそれに当てはまる。

子供の遊び・行動

小さい子供の遊びや行動に「んぼ」が使われるケースとしては、次の二つが代表的。

かくれんぼ

とうせんぼ

「ん」の語源について、助動詞「む」の婉曲(えんきょく)用法ではないかと上述したが、この「かくれんぼ」と「とうせんぼ」については、それが当てはまらない。

この二つの場合は、婉曲(えんきょく)用法ではなく、何かをしようとする「意思」を表す「む」として解釈するのがしっくりくるように思われる。

子供の状態

小さい子供の状態を表す場合に使われる「んぼ(ん坊)」については、次の二つが挙げられる。

赤ん坊

裸んぼう

「赤ん坊」は赤子の坊や、「裸んぼう」は裸の坊やといった意味合いとなる。

小さい動植物

小さくて可愛らしい動植物にも「んぼ(ん坊)」が次のように使われる。

うり坊

さくらんぼ

つくしんぼ

「うり坊」はイノシシの子供。シマウリ(縞瓜)のような背中の縞模様からこう呼ばれる。ウリン坊、うりんこ、うりっこ。

「さくらんぼ」については、別名「桜桃(おうとう)」の訓読み「さくらもも」を語源と考える説もあるようだ。

その他

典型的な「んぼ(ん坊)」と関連性があるのか無いのか微妙なラインの単語の意味等について、簡単に列挙してみたい。

朝寝坊(あさねぼう)

デジタル大辞泉(小学館)における「坊(ぼう)」の解説を見ると、「暴れん坊」や「けちん坊」と同じ項目で、この「朝寝坊」が例示されている。

美味しんぼ(おいしんぼ)

グルメ漫画「美味しんぼ(おいしんぼ)」は作者の造語だが、この言葉からは「美味しいものを探求する人」といった意味合いが読み取れる。

がんぼ

『ナニワ金融道』や『カバチタレ!』で知られる漫画原作者・田島 隆の作品『極悪がんぼ』の「がんぼ」。広島の方言で「乱暴者」「やんちゃ」「悪いやつ」という意味がある。

でくの坊(木偶の坊)

役に立たない人。気のきかない人。人のいいなりになっている人。また、そのような人をののしる言葉。

のっぺらぼう

顔に目・鼻・口の無い日本の妖怪。漢字では「野箆坊」。「ずんべら坊」とも呼ばれる。「坊主」との関連も。

風来坊(ふうらいぼう)

どこからともなくやって来る人。また、身元が知れず、一つ所にとどまらない人。風来人。風来者。

語源の異なる「んぼ」

最後に、上述の「んぼう(ん坊)」と見た目は似ているが語源が異なる単語について、参考までに次のとおりいくつか列挙しておく。

アメンボ

語源は「飴棒(あめぼう)」。臭腺から発するアメのような臭いと、棒のような細長い体から。漢字では水馬、飴坊、水黽など。

たんぼ

田のおもて・表面を意味する「たのも(田面)」や「たおも(田面)」が語源。

とんぼ

トンボの語源は諸説あり定かではない。一説には、稲穂が飛んでいるように見えるから「飛ぶ穂(とぶほ)」であり、それが音変化したものと説明される。

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