ホトトギスの別名 異名 漢字 意味・由来

時鳥、郭公、不如帰など、ホトトギスを表す様々な別名の由来まとめ

ホトトギスは、日本では古来から万葉集などの和歌に数多く読まれ、夏を告げる鳥として特に親しまれてきた。

特に和歌では、時鳥、郭公、不如帰など様々な漢字・当て字で表現され、田長鳥、菖蒲鳥、沓手鳥などの様々な別名・異名が存在する。

このページでは、こうしたホトトギスの別名・異名、漢字・当て字について、その意味や理由、元になった中国の故事や由来・語源、漢字の読み方などについて、簡単に解説をまとめてみたい。

ホトトギスの別名 意味 由来

なお、「テッペンカケタカ」や「トッキョキョカキョク(特許許可局)」など、ホトトギスの鳴き声に日本語を当てはめる「聞きなし」の意味や由来についてはこちらでまとめている

時鳥

ホトトギスと読む漢字でよく目にするのがこの「時鳥」。時つ鳥(ときつどり)、時の鳥(ときのとり)とも表記される。

同志社女子大学の日本語日本文学科・吉海直人教授は、「時鳥」がホトトギスを表す漢字として用いられた由来・理由を次のように解説している。

これは毎年初夏になると几帳面に到来するので、それが農耕の合図にされたことによります。つまり「ほととぎす」の声が田植えを始める時期を告げるということで、「時鳥」(時を告げる鳥)と命名されたのです。

<引用:同志社女子大学Webサイトより>

この解説によれば、ホトトギスは、「農耕の合図」「田植えを始める時期を告げる」鳥の意味で、「時を告げる鳥」すなわち「時鳥」の漢字が当てはめられたということが分かる。

農耕・田植えに関連したホトトギスの別名・異名、別の漢字表記としては、「田長鳥(たおさどり)」、「早苗鳥(さなえどり)」、「勧農鳥(かんのうちょう)」、「田鵑(ほととぎす)」などがある。

郭公

「郭公」を音読みすると「かっこう」となり、カッコウ科の鳥全般を表す。中国ではこの意味で使われている。ホトトギスもカッコウ科。

日本では、すでに平安時代の和歌において、ホトトギスを表す漢字として「郭公鳥」「郭公」などの字をあてていた。

日本では平安初期の「新撰万葉」「新撰字鏡」などが、「ほととぎす」に「郭公鳥」「郭公」などの字をあてており、長く「ほととぎす」を表記する語として用いられてきた。「かっこう」を「郭公」と表記するようになるのは近代に入ってからである。

<引用:小学館「精選版 日本国語大辞典」より>

「かっこう」と音読みできる漢字「郭公」が「ほととぎす」として使われているのを見ると、「かっこう」と「ほととぎす」は混同されていたのかと考える人もいるかもしれないが、同志社女子大学・吉海直人教授はこれを次のように明確に否定している。

ただし古典の世界では、「かっこう」と「ほととぎす」の混同など生じていません。少なくとも平安時代において、「かっこう」は文学に全く登場していないからです。要するに現代では「郭公」に二つの読み(意味)がありますが、古典では「ほととぎす」という読みしかなかったのです。

<引用:同志社女子大学Webサイトより>

なお、「郭公」と同じ音読みでホトトギスを表す漢字としては、「霍公鳥(霍鳥)」も和歌で用いられる。

ちなみに、織田信長の妹(従妹)・お市の方の辞世の句ではホトトギスが登場するが、そこではホトトギスを表す漢字としてこの「郭公」が使われている。

子規

日本の俳人・正岡子規(まさおか しき/1867-1902)の「子規」がホトトギスを表していることは有名。

これは、結核を患って喀血(かっけつ)していた正岡が、啼いて血を吐くというホトトギスの伝説に由来している。

古代中国の伝説では、ある国の王が死後ホトトギスとなり、その国が滅んだ際に、嘆いて血を吐くまで鳴いた(血を吐きながら鳴いた)という。

ホトトギスの口の中が赤いのは、啼いて血を吐いたというこの中国の伝説に関連付けられている。

ちなみに、正岡の本名は「常規(つねのり)」で、「子規」と同じ漢字が一字使われている。

なお、ホトトギスを表す漢字として「子規」という漢字が使われたのは古代中国だが、その意味合いや由来については、はっきりしたことは分かっていない。上述の伝説とも関連があるようだ。

不如帰

「不如帰」をホトトギスと読ませるのは、上述した「啼いて血を吐く」という中国の伝説が関連している。他の漢字にも関連するので、ここでこの中国の伝説の詳細について軽く触れてみたい。

紀元前の中国で蜀(古蜀)という国があった。これは三国志で劉備玄徳が建てた蜀漢(221-263)とは異なる。

そこに杜宇(とう)という男が現れ、農業を発展させ蜀を再興し帝王「望帝」と呼ばれた。

望帝杜宇は死後ホトトギスに化身し、農耕を始める季節が来ると鋭く鳴いて民に告げたという。

紀元前316年、秦の将軍・司馬錯によって蜀は滅ぼされてしまう。これを知った杜宇の化身のホトトギスは嘆き悲しみ、

「不如帰去(帰り去くに如かず)」
(帰る方が良い/帰りたい)

と鳴きながら血を吐いた(血を吐くまで鳴いた)という。ホトトギスの口の中が赤いのはこの伝説に由来するとまで言われる。

なお、「杜宇(とう)」、「杜鵑(とけん)」、「蜀魂(しょっこん)」、「蜀鳥」などもホトトギスを表す漢字だが、これらも上述の伝説に由来している。

死出の田長

ホトトギスは、あの世を意味する冥土・冥途(めいど)・冥府(めいふ)と結び付けられ、「死出の田長(しでのたおさ)」と呼ばれる。

「田長(たおさ)」は上述の「時鳥」と同じ農業関連の由来。

「死出(しで)」とは、人が死後に行く冥途にあるという険しい山「死出の山」(しでのやま)のこと。

冥土の使いとして死出の山から死者を迎えに来るといわれ、魂迎鳥(たまむかえどり)、無常鳥(むじょうちょう)などの名前もある。

織田信長の妹(従妹)・お市の方の辞世の句でホトトギスが用いられたのも、こうしたホトトギスと死のイメージに由来していると考えられる。

ちなみに「死出の田長」は、元々「しての田長」または「しづの田長」などの別の言葉だったようだ。ホトトギスを表す「賤鳥(しづどり)」という言葉もあり、「賤(しづ)」から「死出(しで)」に変化した可能性が考えられる。

妹背鳥(いもせどり)

ホトトギスは相手を恋い慕って鳴くとされ、親しい間柄の男女・恋人・夫婦を意味する「妹背(いもせ)」を用いた「妹背鳥(いもせどり)」とも呼ばれる。セキレイの別名としても使われるので注意。

菖蒲鳥・文目鳥(あやめどり)

ホトトギスが飛来する5月頃に咲く花「アヤメ(菖蒲、文目)」から、「菖蒲鳥」、「文目鳥」の別名・異名がある。

4月(卯月)頃にも見られるので「卯月鳥(うづきどり)」とも呼ばれる。タチバナの木に宿ることから「橘鳥(たちばなどり)」とも。

また、ホトトギスは恋に関する和歌でよく用いられるが、恋にうかれて物事の分別(文目)のつかなくなった状態は「あやめもしらぬ」「文無し(あやなし)」などと表現され、この意味からホトトギスには「文無鳥(あやなしどり)」の名がある。

夕方と夜の異名

ホトトギスが鳴く時間帯(特に夜)によって名付けられた別名・異名としては、夕影鳥(ゆうかげどり)、黄昏鳥(たそがれどり)、夜直鳥(よただどり)、射干玉鳥(ぬばたまどり)などがある。

「夜直(よただ)」とは、夜通し、一晩中の意味。

「黄昏(たそがれ)」は、日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯。

「射干玉(ぬばたま)」とは、アヤメ科アヤメ属の多年草ヒオウギの種子のこと。丸くて黒い。転じて、和歌で「黒、夜、夕、宵、月」などに掛かる枕詞(まくらことば)として使われる。

暗い中で鳴き、姿がたまにしか見えないことから、「偶さか鳥(たまさかどり)」とも呼ばれる。

沓手鳥(くつてどり)

ホトトギスの鳴き声から、「こつて鳥」、「くつてどり(沓手鳥/沓直鳥)」、「くつどり(沓鳥)」、「くつこう(沓乞/沓公)」などの別名・異名がある。

「沓」は「靴」を意味し、靴を買う代金を「沓手・沓直(くつて)」という。ホトトギスが前生に沓を造って売ったという古い俗説もあるようだ。

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