化石 サン=サーンス『動物の謝肉祭』より
古いフランス民謡やロッシーニ作品が織り込まれたパロディ作品
『化石』は、フランスの作曲家サン=サーンスが1886年に作曲した組曲『動物の謝肉祭』第12曲。他の作曲家の作品やいくつかのフランス民謡をメドレーのように引用したパロディ的作品となっている。
『動物の謝肉祭』はプライベートな非公開作品として作曲されたため、第13曲『白鳥』を除き、一切の公開演奏・出版は本人の死まで禁止された。サン=サーンスが亡くなった翌年の1922年にオーケストラ版が初演されている。
【YouTube】 サン・サーンス「化石」
『化石』の内容について
『化石』の冒頭では、サン=サーンス自身の作品『死の舞踏』から「骸骨の踊り」の旋律が引用され、打楽器のシロフォン(木琴の一種)により骨の硬い質感や滑稽な動きが表現される。
次にフランス民謡『良いタバコを持ってる J'ai du bon tabac』のメロディがチラッと足早に登場した後、『きらきら星』(原曲『ああ、話したいの、ママ Ah vous dirais-je maman』)、『月の光に Au clair de la lune』と続く。
再び「骸骨の踊り」を2回挟み、19世紀フランス歌謡『シリアへの出発 En partant pour la Syrie』、そしてロッシーニ『セビリアの理髪師』よりロジーナのアリア『今の歌声は Una voce poco fa』がわずかに現れ、「骸骨の踊り」で『化石』は締めくくられる。
ロッシーニが『化石』に引用された理由とは?
サン=サーンス『動物の謝肉祭』では、オッフェンバックやベルリオーズなど他の作曲家の作品が引用されており、第12曲『化石』のロッシーニもその一人である。
ただ、『化石』という言葉からは「古臭い」、「時代遅れ」、「遠い昔の遺物」といったマイナスイメージが連想される。
その曲名の中で『骸骨の踊り』や古いフランス民謡と共にロッシーニ作品が引用されている状況は、使い回しの多かったロッシーニに対する皮肉にしてもやや露骨な印象を受ける。
サン=サーンスは過去にロッシーニと因縁でもあったのだろうか?調べてみると、遠因の一つではないかと思われるエピソードがあったようだ。
それは『動物の謝肉祭』が作曲される13年前の1867年のこと。とある作曲コンクールが開催され、最晩年(70代半ば)のロッシーニが名誉委員長を務めていた(サン=サーンスの43歳年上)。
サン=サーンスは同コンクールでカンタータ『プロメテの結婚』作品19を作曲し見事優勝。同曲はコンクール主催のコンサートで公式初演されるはずだったが、ロッシーニ大先生が突然作曲した別の曲に差し替えられてしまったという。
当事の詳しい経緯も事実かどうかも分からないが、実際の出来事だとすれば、40歳以上年上のイタリアの作曲家ロッシーニに対して、サン=サーンスが何らかの思いを抱く一つのきっかけになった可能性がありそうだ。
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