千曲川旅情の歌 島崎藤村『落梅集』より

嗚呼古城 なにをか語り 岸の波 なにをか答ふ

『千曲川旅情の歌』(ちくまがわりょじょうのうた)は、島崎藤村の詩文集『落梅集』に収録された作品。

後に昭和2年発行の『藤村詩抄』において、『小諸なる古城のほとり』を吸収合併する形で、一つの詩にまとめられた。

本ページで紹介する詩は、『小諸なる古城のほとり』を吸収合併する前の、『落梅集』に掲載された『千曲川旅情の歌』である。

小諸城址から眺める千曲川

写真:小諸城址から眺める千曲川(出典:ブログ「御城学のお城を学ぼう」)

なお、『小諸なる古城のほとり』と同じく、『落梅集』の『千曲川旅情の歌』にも弘田龍太郎が大正14年(1925年)に曲をつけているが、こちらはほとんど演奏機会がない。

今日において、歌曲『千曲川旅情の歌』と表示した場合、『落梅集』の『小諸なる古城のほとり』の詩による歌曲を意味している場合が多い。

千曲川旅情の歌『落梅集』より

昨日またかくてありけり
今日もまたかくてありなむ
この命なにを齷齪(あくせく)
明日をのみ思ひわづらふ

いくたびか榮枯の夢の
消え殘る谷に下りて
河波のいざよふ見れば
砂まじり水巻き帰る

嗚呼古城なにをか語り
岸の波なにをか答ふ
過(いに)し世を静かに思へ
百年(ももとせ)もきのふのごとし

千曲川(ちくまがわ)柳霞みて
春浅く水流れたり
ただひとり岩をめぐりて
この岸に愁(うれい)を繋(つな)ぐ

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