老犬トレイ Old Dog Tray
見つけられやしない 老犬トレイ以上の友達なんて
『老犬トレイ Old Dog Tray』(オールド・ドッグ・トレイ)は、19世紀アメリカの作曲家スティーブン・フォスターが1853年に作曲した楽曲。
フォスターの黄金期ともいえる1850年代前半に作曲された作品で、同年には『懐かしきケンタッキーの我が家』、『オールド・ブラック・ジョー』などが発表されている。
本作『老犬トレイ Old Dog Tray』では、それまで多かった黒人系のキャラクターは登場せず、初期の頃と比較して楽曲テーマの中立性が高まっている。1851年に長女が誕生し父親となったことで、彼の人生観にも大きな変化が生まれたのだろう。
この傾向は翌年の『金髪のジェニー』にも受け継がれており、以降のピュアな楽曲への流れはこの頃に完成したといえそうだ。
ちなみに『老犬トレイ Old Dog Tray』は、後の『大きな古時計』に少なからず影響を与えていると思われる(詳しくは後述)。
【YouTube】Stephen Foster's OLD DOG TRAY - Tom Roush
歌詞の意味(意訳)
1.
The morn of life is past,
And evening comes at last;
It brings me a dream
of a once happy day,
Of merry forms I've seen
Upon the village green,
Sporting with my old dog Tray.
人生の朝は過ぎ去り 夕暮れ時を迎えた
思い出すのは 幸せな日々 陽気な仲間たち
老犬トレイと遊んだ村の草原
Chorus:
Old dog Tray's ever faithful,
Grief cannot drive him away,
He's gentle, he is kind;
I'll never, never find
A better friend than old dog Tray.
<コーラス>
老犬トレイはいつも忠実
悲しみにも負けず 穏やかで優しい
見つけられやしない
老犬トレイ以上の友達なんて
2.
The forms I call'd my own
Have vanished one by one,
The lov'd ones, the dear ones
have all passed away,
Their happy smiles have flown,
Their gentle voices gone;
I've nothing left
but old but old dog Tray.
Chorus
仲間たちは一人ずつ旅立った
愛した者も 親しい者も みんな
その笑顔も優しい声も消え去った
残っていたのは老犬トレイだけだった
<コーラス>
3.
When thoughts recall the past
His eyes are on me cast;
I know that he feels
what my breaking heart would say;
Although he cannot speak
I'll vainly, vainly seek
A better friend than old dog Tray.
Chorus
過去を思い出していると
彼は私を見つめて
傷ついた心を分かってくれる
たとえ話せなくても
老犬トレイは最高の友達
<コーラス>
北方謙三「老犬シリーズ」の口笛
ハードボイルド小説の旗手・北方 謙三(きたかた けんぞう/1947-)の「老犬シリーズ」では、主人公・高樹刑事が『老犬トレイ Old Dog Tray』のメロディを口笛で口ずさむシーンが登場する。
「老犬シリーズ」とは、1989年から1990年にかけて発表された「傷痕」、「風葬」、「望郷」の三作品。名脇役・高樹刑事をクローズアップしたスピンオフ的作品群。
ネタバレになるのであらすじは割愛するが、なぜ高樹刑事が『老犬トレイ Old Dog Tray』を歌うようになったのか、その経緯については「傷痕」で明らかにされている。
大きな古時計に影響を与えた?
単なる推測で恐縮だが、1853年に作曲された『老犬トレイ Old Dog Tray』は、その20年以上後に発表されたアメリカ歌曲『大きな古時計』に少なからず影響を与えていると考えられる。
メロディ的には、『老犬トレイ Old Dog Tray』の冒頭4小節とコーラス部の最後がほぼ『大きな古時計』に転用されている印象を受ける。
コーラス部の最後については、「Old Dog Tray」と「old man died」のメロディがほぼ一致しており、歌詞の「old」の位置も完全一致している。
『老犬トレイ』と『大きな古時計』という19世紀アメリカの名曲について、こうしたメロディの相似性といった観点から改めて鑑賞してみると、また何か新たな発見に出会えるかもしれない。
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