エニグマ変奏曲 Enigma Variations
エドワード・エルガー(Edward Elgar/1857-1934)
『エニグマ変奏曲 Enigma Variations』は、イギリスの作曲家エドワード・エルガーが1898年に作曲した管弦楽曲。1899年にロンドンで初演された。『謎の変奏曲』とも題される。
主題(アンダンテ、ト短調、二部形式)に続き、第1変奏から第14変奏までの14曲の変奏曲で構成され、全体として30分前後で演奏される。吹奏楽曲にアレンジされた『エニグマ変奏曲』の楽譜も出版されている。
特に有名な第9変奏「ニムロッド Nimrod」についてはこちらの解説ページを参照されたい。
正式なタイトルは『独創主題による変奏曲』(Variations on an Original Theme for orchestra)だが、通称である『エニグマ変奏曲』で一般的には定着しており、エルガー自身もその呼称を認めていたようだ。
エルガーはこの『エニグマ変奏曲』(1898年)の成功によって世界的な名声を獲得した。更にその3年後の1901年には、『威風堂々 第1番』で後世に残る歴史的大成功を収めることになる。
【YouTube】エルガー: エニグマ変奏曲, Op.36-9.ニムロッド
エニグマとは? 隠された謎について
曲名の「エニグマ Enigma」とは、「なぞなぞ」「謎かけ」などを意味するギリシア語。大戦中にドイツが用いたエニグマ暗号機の名で世界的に知られる。
「エニグマ」という名前だけで言えば、日本では、荒木飛呂彦「ジョジョの奇妙な冒険」第4部「ダイヤモンドは砕けない」で登場する敵のスタンド名にも「エニグマ」の文字を見ることができる。
なぜエルガーの変奏曲に「エニグマ」という呼称がつけられたのか?その大きな理由の一つとしては、『エニグマ変奏曲』の楽譜に記された謎めいたサブタイトルの存在が挙げられる。
エルガー『エニグマ変奏曲』の楽譜には、全14曲ある各変奏のサブタイトル的に、3文字のイニシャルや人名・愛称、そして謎に包まれた不可解な記号・顔文字が付記されているのだ。
その多くは、エルガーと親しい友人や交流のあった人物の名前のイニシャルとなっている。各サブタイトルと簡単な解説は次のとおり。
- 第1変奏 L'istesso tempo "C.A.E."
- エルガーは、ピアノの教え子だったキャロライン・アリス・ロバーツと結婚した。婚約の際に贈った『愛の挨拶』は世界的に有名。
- "C.A.E."とは、このエルガーの愛妻キャロライン・アリス・エルガー(Caroline Alice Elgar)のイニシャルを表している。
- 第2変奏 Allegro "H.D.S-P."
- ピアニストの
- エルガーと共に室内楽を演奏したピアニストのHew David Stuart-Powell(ヒュー・デイヴィッド・ステュアート=パウエル)のイニシャル。リズミカルで小気味よいメロディは彼のピアノ演奏の様子が描写されている。
- 第3変奏 Allegretto "R.B.T."
- 俳優リチャード・バクスター・タウンゼンド(Richard Baxter Townsend)のイニシャル。低い声からソプラノ域まで自在に声色を変えることができたという。
- 第4変奏 Allegro di molto "W.M.B."
- William Meath Baker(ウィリアム・ミース・ベイカー)のイニシャル。仕事熱心な地主であったベイカーの気質を表すかのような激しい曲想。
- 第5変奏 Moderato "R.P.A."
- Richard P. Arnold(リチャード・P・アーノルド)のイニシャル。大詩人マシュー・アーノルドの息子でピアニスト。
- 第6変奏 Andantino "Ysobel"
- ヴィオラの愛弟子イザベル・フィットン(Isabel Fitton)の愛称。ヴィオラのソロが印象的。
- 第7変奏 Presto "Troyte"
- Arthur Troyte Griffiths(アーサー・トロイト・グリフィス)のイニシャル。建築家であったがピアノ習得にも熱心だった。ピアノに悪戦苦闘するグリフィスの姿が曲にも反映されているという。
- 第8変奏 Allegretto "W.N."
- エルガーの友人Winifred Norbury(ウィニフレッド・ノーベリー)のイニシャル。親しみが込められたのんびりとした曲想の最後の一音が次の第9変奏へと伸長されている。
- 第9変奏 Adagio "Nimrod"
- エルガーの親友アウグスト・イェーガー(August Jaeger)の愛称「ニムロッド Nimrod」。単独でも演奏機会の多い人気の変奏。
- エルガーのスランプを親友イェーガーが救った。「ニムロッド Nimrod」詳細はこちら。
- 第10変奏「間奏曲」 Allegretto "Dorabella"
- 第4変奏 "W.M.B."で登場したベイカーの義理の姪ドーラ・ペニー(Dora Penny)の愛称「Dorabella ドラベッラ(きれいなドラ)」。第3変奏のタウンゼンドと義理の姉妹の関係にもある。彼女の笑い声や話し方が木管楽器で表現されているという。
- 第11変奏 Allegro di molto "G.R.S."
- George Robertson Sinclair(ジョージ・ロバートソン・シンクレア)は、ウェールズの東に位置するヘレフォード大聖堂のオルガン奏者。彼の愛犬ダン(Dan)の仕草が音楽的に描写されている。
- 第12変奏 Andante "B.G.N."
- 有名なチェリストであったBasil G. Nevinson(ベイジル・G・ネヴィンソン)をリスペクトしたチェロの主旋律が登場。エルガー「チェロ協奏曲」の作曲は彼の存在が大きいという。
- 第13変奏「ロマンツァ」 Moderato "* * *"
- もはや文字ですらない謎の記号「* * *」が一体何を表しているのかについては、今日でも特定されていない。長年謎に包まれたままの、まさに「エニグマ」変奏曲である。
- 一説には、曲中に航海に関連するメンデルスゾーン『静かな海と楽しい航海』からの引用が含まれることから、海外へ渡航した人物が暗示されているとも考えられており、ニュージーランドに移住したかつてのエルガーの婚約者ヘレン・ウィーヴァー(Helen Weaver)が候補の一人に挙げられている。
- 第14変奏「フィナーレ(終曲))」 Allegro Presto "E.D.U."
- 愛妻キャロラインがエドワード・エルガーにつけた愛称「エドゥー Edu」。キャロラインのイニシャルを冠した第1変奏、そして親友「ニムロッド Nimrod」の第9変奏も曲中に織り込まれている。
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