大地讃頌 なぜ卒業式に歌うの?歌詞の意味は?

母なる大地を 讃えよ大地を キリスト教との関係も?

『大地讃頌』(だいちさんしょう)は、1962年に作曲された合唱曲『混声合唱とオーケストラのためのカンタータ「土の歌」』第7楽章(最終曲)。

「土の歌」は、キリスト教徒であり、太平洋戦争を経験した広島出身の作詞者・大木惇夫が、反戦・反原爆の立場から平和を訴える内容。全7曲。

「カンタータ(cantata)」とは、伴奏がついた大規模な声楽曲のこと。

最終曲『大地讃頌』の歌詞では、母なる大地への感謝・讃美が繰り返し繰り返し述べられ、人間が生きる自然環境を称える崇高な内容となっている。

中学校の合唱コンクールや卒業式で歌われる機会が多いが、『大地讃頌』の歌詞には特に卒業式に関連する描写は見当たらない。

そのため、なぜ『大地讃頌』を卒業式で歌わなければならないのか?なぜ卒業シーズンに土を讃えないといけないのか?と疑問に思っている方も少なくないと思われる。筆者もその一人だ。土に感謝するなら収穫の秋だろう。それに太陽や雨にも感謝が必要だ。

このページでは、まず『大地讃頌』の歌詞を引用してその内容を簡単に確認した上で、卒業式に歌われる理由について、筆者の私見・仮説を簡単に述べてみたい。

【YouTube】ひとり大地讃頌ver16

【YouTube】大地讃頌 混声四部

歌詞と意味

まずは、作詞:大木惇夫による『大地讃頌』の歌詞を次のとおり引用して、その内容を簡単に確認してみよう。

母なる大地の ふところに
我ら人の子の 喜びはある
大地を愛せよ 大地に生きる
人の子ら その立つ土に感謝せよ

平和な大地を 静かな大地を
大地を褒めよ 讃えよ土を
恩寵(おんちょう)の豊かな大地
我ら人の子の
大地を褒めよ 讃えよ土を

母なる大地を 母なる大地を
讃えよ 褒めよ 讃えよ土を
母なる大地を ああ
讃えよ大地を ああ

ご覧のとおり、『大地讃頌』の歌詞には、卒業式や卒業シーズンに関連するような要素は見受けられない。

ここで、若干分かりにくい歌詞の意味について簡単に補足してみたい。

母なる大地

生命を産み出し育む大自然を母のような存在として擬人化した表現。「母なる自然」、「母なる地球」などとも言う。

英語では「マザー・アース (Mother Earth)」、または「マザー・ネイチャー(Mother Nature)」。

人の子

人として生まれた者。人間。大きな自然と比較して人間が小さく弱い存在であることや、神が与えた大地の恵みを受ける存在としての「人」を強調しているように感じられる。

ちなみに、キリスト教では、新約聖書の福音書において、人間界に降誕したイエス・キリストが自らを指す表現として使われている。この歌詞では、宗教的な意味合いはない。

恩寵(おんちょう)

神が人間に与える恵み、神の無償の賜物(たまもの)のこと。キリスト教では、人類に対する神の恵みを意味する。

キリスト教との関係は?

『大地讃頌』の歌詞を見ると、「人の子」や「恩寵」といったようにキリスト教との関連性をうかがわせる語句が散見される。

作詞者・大木惇夫はキリスト教の洗礼を受けたキリスト教徒なので、宗教的になじみのある語句を自然と(あるいは意識的に)用いてしまうのかもしれない。

ヨハネの黙示録『御怒りの大いなる日』

挿絵:ヨハネの黙示録『御怒りの大いなる日』画:John Martin 1853

カンタータ「土の歌」第五楽章『天地の怒り』でも、火山の爆発や地震、洪水など、新約聖書「ヨハネの黙示録」を思わせる内容の描写が見られる。「天地の怒り」とはすなわち「神の怒り」である。

そもそも、「土の歌」は全7曲から成るが、この「7」という構成も、七つの教会、七つの封印、七人の天使、七つの災い、七つの鉢のように、新約聖書「ヨハネの黙示録」で繰り返し現れる数字であり、黙示録の記述を強く意識した構成となっているように思われる。

なぜ卒業式なの?理由は?

さて、『大地讃頌』をなぜ卒業式で歌うのか?という疑問について、その理由・背景などを少し考えてみよう。

筆者は『大地讃頌』を卒業式で歌うことについて肯定的ではないのだが、仮に好意的な立場から擁護するとして、若干無理やりにも次のような理屈を考えてみた。あくまでも筆者の想像である。

1.成長できたのは自然のおかげ

学校を卒業できるまでに成長できたのは、野菜や果物、穀物といった自然の恵みがあったからこそであり、無事卒業できた節目に感謝を捧げる意義がある(と考えられる)。

ただ、それならば、作物の成長に欠かせない「太陽」や「雨」にも同様の感謝と称賛があってしかるべきだろう。あまりに「大地」への感謝に偏りすぎているように感じられる。

2.思想を植え付ける絶好の機会

卒業式は一生の思い出であり、卒業式で歌う歌も記憶の奥底に深く刻み込まれる。反戦教育を徹底したい学校側(日教組)としては、卒業式の歌は、卒業生らの記憶に「反戦」を強く刷り込む絶好の機会といえる。

『大地讃頌』を含む全7曲の合唱曲「土の歌」は壮大な反戦歌であり、最終曲『大地讃頌』はそこへの絶好の入口として機能していると考えられる。生徒たちは反戦歌だと意識することなく、卒業式で反戦歌のフィナーレを力強く高らかに歌い上げるのである。

3.歌わせたくない歌がある

卒業式の伝統的な定番ソングに『仰げば尊し』があるが、歌詞の「身を立て 名を上げ」(立身出世)や「わが師の恩」(報恩)などが軍国主義的・旧体制的だとの理由で、戦後教育を担う学校側(日教組)としてはこの歌は都合が悪い。

その代替案として、上述の反戦合唱曲「土の歌」のフィナーレを飾る『大地讃頌』が機能している。『大地讃頌』を卒業式の新定番とすることで、自然と『仰げば尊し』の出番は減っていくからだ。

ただ、依然として『仰げば尊し』は卒業ソングとして根強い人気がある。古い表現の曲だからこそ、人生の節目を飾る厳粛な歌として、若い生徒らにとって逆にその古さが価値を持っているのかもしれない。

カンタータ「土の歌」全曲リスト

最後に、反戦合唱曲『混声合唱とオーケストラのためのカンタータ「土の歌」』全7曲の構成と内容について、簡単に要約・解説してみたい。

第1楽章「農夫と土」

命の糧(かて)を創り出す土に種をまく農夫。種子をはぐくむ土こそ人間の希望。

第2楽章「祖国の土」

たしかな大地、祖国の土を踏みしめる喜び、尊さ。

第3楽章「死の灰」

広島、長崎に落とされた原爆と死の灰

第4楽章「もぐらもち」

「火の槍におびえる者は 死の灰をおそれる者は もぐらの真似をするそうな」「もぐら もぐら 笑ってやれよ 人間を」

第5楽章「天地の怒り」

新約聖書「ヨハネの黙示録」をほうふつとさせる天災、天変地異

第6楽章「地上の祈り」

「戦争の  狂気をば  鎮めたまえ」。「ヨハネの黙示録」では、第七の封印が解かれた後、聖徒らが祈りを捧げる場面がある。

「ああ 栄光よ ああ 地の上に平和あれ」。「栄光」は「神の栄光」を表すことが多い。キリスト教的な表現。

第7楽章「大地讃頌」

最終曲・フィナーレ。

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