およげ!たいやきくん 歌詞と店のモデル

たいやき店・たいやきおじさん・楽曲の元ネタを三つまとめて解説

『およげ!たいやきくん』は、1975年に子供向けテレビ番組「ひらけ!ポンキッキ」で放送され、450万枚を超える売上げを記録した大ヒットシングル。歌:子門真人。

作詞は、「ドラえもん」初代エンディングテーマ『青い空はポケットさ』や、ポンキッキから生まれた名曲『パタパタママ』の歌詞を手がけた高田ひろお。

作曲は、『いっぽんでもにんじん』、『ホネホネロック』、『パッラドンカルメ』、『パタパタママ』、『おふろのかぞえうた』など、数多くのポンキッキ名曲で知られる佐瀬寿一(させ じゅいち)。

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さて、この国民的童謡『およげ!たいやきくん』については、大変興味深い3つの「元ネタ(モデル)」が存在する。具体的には次の3つだ。

1.たいやきのお店のモデル

2.アニメのキャラクター「たいやきおじさん」のモデル

3.楽曲に影響を与えた元ネタの洋楽

このページでは、これら3つの「元ネタ(モデル)」について、一つずつ簡潔に解説してみたい。

【YouTube】およげ!たいやきくん

歌詞

まいにち まいにち ぼくらは てっぱんの
うえで やかれて いやになっちゃうよ
あるあさ ぼくは みせのおじさんと
けんかして うみに にげこんだのさ

はじめて およいだ うみのそこ
とっても きもちが いいもんだ
おなかの アンコが おもいけど
うみは ひろいぜ こころがはずむ
ももいろサンゴが てをふって
ぼくの およぎを ながめていたよ

まいにち まいにち たのしいことばかり
なんぱせんが ぼくの すみかさ
ときどき サメに いじめられるけど
そんなときゃ そうさ にげるのさ

いちにち およげば ハラペコさ
めだまも クルクル まわっちゃう
たまには エビでも くわなけりゃ
しおみず ばかりじゃ ふやけてしまう
いわばの かげから くいつけば
それは ちいさな つりばりだった

どんなに どんなに もがいても
ハリが のどから とれないよ
はまべで みしらぬ おじさんが
ぼくを つりあげ びっくりしてた

やっぱり ぼくは タイヤキさ
すこし こげある タイヤキさ
おじさん つばを のみこんで
ぼくを うまそに たべたのさ

1.たいやきのお店のモデル

『およげ!たいやきくん』の歌詞で描写されるたいやきのお店のモデルとしては、次の二つのたいやき店が候補に挙げられる。一つずつ確認してみよう。

1.明治42年創業「浪花家総本店」

2.練馬駅近くの屋台

明治42年創業「浪花家総本店」

たいやきのお店のモデル候補一つ目は、東京都港区麻布十番にある明治42年創業の老舗和菓子店「浪花家総本店」(なにわやそうほんてん)。

写真:浪花家総本店(東京都港区麻布十番/出典:Wikipedia)

浪花家総本店の創業者・神戸清次郎は、初めて「たいやき」を考案した人物として知られている。

練馬駅近くの屋台

たいやきのお店のモデル候補二つ目は、作詞者の高田ひろおが練馬駅近くで見かけたというたいやき屋台。

ウィキペディアによれば、三浦俊雄「東京歌物語」(東京新聞編集局)を参照して、次のように解説されている。

あるとき、練馬駅の商店街の居酒屋で友人と一杯やったあと路地で立ち小便を始めたのだが、屋台のたい焼き売りからそれを咎められた瞬間、故郷の釧路の思い出がフラッシュバックした。それは凍てつく寒さの中、銭湯の帰り道に湯冷めしないようたい焼きを腹に当てて温めながら帰った記憶だった。

<引用:ウィキペディア「およげ!たいやきくん」より>

作詞者の高田ひろお本人によるエピソードなので、この「練馬駅近くの屋台」説が真のモデルである可能性が高そうだ。

2.「たいやきおじさん」のモデル

『およげ!たいやきくん』ミュージックビデオのアニメに登場するコック帽に丸メガネのキャラクター「たいやきおじさん」のモデルは、上述の「浪花家総本店」三代目店主の神戸守一(かんべ もりかず)の可能性があるようだ。

神戸さんが店に立つ時の姿は、コック帽にストライプのシャツや蝶ネクタイが特徴だったそうです。たい焼き店でコック帽というのはかなり異質なので、この話には信憑性を感じます。また、アニメーションのたい焼き屋さんの顔立ちもどことなく似ている感じがするのですが、気のせいでしょうか。

<引用:「たいやき ともえ庵のブログ」(東京都杉並区阿佐ヶ谷)より>

なお、アニメの「たいやきおじさん」が手に持っているコテは、普通のたい焼き屋では使われることが無い道具。アニメの絵的に料理要素を加えるため、「鉄板」つながりで鉄板焼きやお好み焼きのコテが付け加えられたのだろう。

【追記】

たいやき ともえ庵」様から、コテについて次のような有益な解説をいただいたので、ここでご紹介したい。

当店や浪花家さんのような一丁焼き(天然もの)のたい焼き店の場合、型の周囲にはみ出た皮のバリの部分をこそげ落とすために、コテに似た形状のスクレーパーを使用しています。

また、「羽根つきたいやき」と言われるタイプのたい焼き店では、羽根の部分を切り離すためにコテを使用されている店があります。

また、「たいやきおじさん」のモデルについても、次のような補足説明をいただいた。

浪花家総本店の創業者神戸氏がたい焼きを考案したという話は、三代目の神戸守一氏の証言のみが根拠です。浪花家さんの創業年より以前にたい焼きについて書かれた新聞記事が記録に残っているので、神戸氏考案という説は間違い、という意見が増えています。

3.楽曲に影響を与えた元ネタの洋楽

最後に、『およげ!たいやきくん』(1975年)の楽曲に影響を与えた可能性がある洋楽について簡単に。

その洋楽とは、イギリスのロックバンド「キンクス(The Kinks)」が1966年にリリースした『Sunny Afternoon』(サニー・アフタヌーン)。

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これを元ネタ・原曲と呼ぶべきかはさておき、とりあえず両曲はどの程度似ているのか、YouTube動画で比較しながら確認してみよう。

【YouTube】The Kinks - Sunny Afternoon

『Sunny Afternoon』を聞いてみると、確かに部分的に似ているメロディがあり、全体的なコード進行やアンニュイで物憂げな曲調に『およげ!たいやきくん』との類似性が感じられる。

実は、『およげ!たいやきくん』作曲者の佐瀬 寿一(させ じゅいち/1949-)氏は、学生時代はビートルズのコピーバンドで活躍するなど、若い頃から英国ポップスの影響を強く受けている人物。

その佐瀬氏が、イギリスのヒットチャートで2週間1位を記録したヒット曲『Sunny Afternoon』から音楽的影響を受けていたとしても、何ら不思議なことはない。

歌詞にも共通点が?!

さらに、曲調やメロディだけでなく、歌詞にも部分的に共通性が見られる。具体的には次のようなサビの歌詞の一部。

Help me, help me,
help me sail away
Well give me two good reasons
why I ought to stay

<引用:The Kinks『Sunny Afternoon』より>

意味は、「助けてくれ、船出がしたいんだ、何でここに居続けなきゃいけないんだ」といった内容。金も無くなり、恋人にも逃げられ、夏の晴れた午後に一人残された主人公の嘆きの歌となっている。

『およげ!たいやきくん』も『Sunny Afternoon』も、ままならない現実に嫌気がさし、ここではないどこかへ旅立ちたい、という点に類似性が見い出されるのは大変興味深い。

関連ページ

いっぽんでもにんじん
『およげ!たいやきくん』オリジナル盤シングルのB面に収録された
おふろのかぞえうた
作詞・作曲は『およげ!たいやきくん』コンビの高田ひろお・茅蔵人(佐瀬寿一)。
元ネタ・原曲・似てる曲 そっくりメロディ研究室
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