でんでん太鼓に笙の笛
「江戸の子守唄」お土産の謎に迫る

ねんねんころりよ おころりよ 里のみやげに 何もろうた?

江戸時代から伝わる日本の伝統的な子守歌『江戸の子守唄』。冒頭の「ねんねんころりよ おころりよ ぼうやはよい子だ ねんねしな」の歌詞が特に有名。

今日一般的な『江戸の子守唄』の歌詞では、里帰りした奉公人がお土産(みやげ)として「でんでん太鼓に笙の笛(しょうのふえ)」を持ち帰ったとあるが、「笙の笛」については不自然な点が残る。

「笙の笛」とは実際にどのようなお土産だったのだろうか?このページでは、『江戸の子守唄』で歌われたお土産について、若干詳しく見ていくこととしたい。

写真は伊勢神宮のおかげ横丁。数多くのみやげ物屋が建ち並ぶ。

雅楽と江戸の子守唄 里のみやげに笙の笛?

まず、現代における『江戸の子守唄』の一般的な歌詞を見てみよう。最後の行がお土産品のくだりだ。

ねんねんころりよ おころりよ
ぼうやはよい子だ ねんねしな

ぼうやのお守りは どこへ行った
あの山こえて 里へ行った

里のみやげに 何もろうた
でんでん太鼓に 笙の笛(しょうのふえ)

でんでん太鼓 モデルは雅楽の振鼓

まず「でんでん太鼓」については、子供をあやす小さな太鼓のおもちゃで、横についた紐の先に小さな玉が結ばれており、太鼓を横に回転させると音が鳴る。

雅楽で用いられる「振鼓」(ふりつづみ)がモデルで、実際の雅楽では舞楽などで用いられる。写真:法隆寺編『法隆寺とシルクロード文化』(1989年)より。

神社では、子供の魔除や健康祈願としてでんでん太鼓が売られることがある。

笙の笛 雅楽の管楽器?それとも別物?

笙の笛(しょうのふえ)は、雅楽で用いられる管楽器の一つで、複数の細い竹管が円筒状にくくられている。形は翼を立てて休んでいる鳳凰に見立てられ、鳳笙(ほうしょう)とも呼ばれる。神前結婚式でもおなじみの楽器だ。

ここで大きな疑問が一つ生じる。『江戸の子守唄』の歌詞では、「里のみやげ」として「笙の笛」が挙げられているが、「笙の笛」を雅楽の楽器として文字通り解釈してしまうと、庶民が選ぶ「里のみやげ」としては違和感があると言わざるを得ない。

もう一つのお土産とは何だったのか?

でんでん太鼓は子供をあやすオモチャであり、大きさも値段も手ごろで、子守の奉公人が里帰りのお土産として選ぶのはごく自然だ。

これに加えてもう一つ子供向けのお土産があるとしたら、持ち運びしやすく、値段も手ごろで、子供が喜びそうな何かでなければ、歌詞の流れからして不自然さが際立ってしまう。

「もう一つのお土産」とは、本当は一体何だったのか?この疑問を解くには、江戸時代に大流行していた「お伊勢参り」について若干触れていく必要がある。

お伊勢参りと江戸の子守唄

江戸時代に入って主要な街道の整備が進み、各地の関所も撤廃されると、人々は現世利益を求め、伊勢神宮(現在の三重県伊勢市)にこぞって参詣する「お伊勢参り」が盛んに行われた。

数百万人の人々が参詣する様は「お蔭参り(おかげまいり)」と称され、中には子供や奉公人などが親や主人に無断で参詣することも多かったことから「抜け参り」とも呼ばれた。

伊勢神宮・内宮の主祭神は、商売繁盛の守り神でもある天照大神(あまてらすおおみかみ)。商家の奉公人が抜け参りをしても、証拠の品物(お守りやお札など)を持ち帰れば、おとがめは受けなかったという。

伊勢神宮の周辺では、お蔭参りの人々を目当てに数多くの土産物が売られていたが、中でも当時の伊勢みやげの一つとして小さな笛が人気だったそうだ。この点に関する文献について軽く説明しよう。

伊勢みやげの小さな笛とは?

江戸時代後期の天保元年(1830年)に出版された随筆集「嬉遊笑覧(きゆうしょうらん)」には、伊勢みやげとして人気があった笛について、次のような記述が残されている。

伊勢みやげの笛 「諸艶大鑑」に伊勢みやげの笛を吹て門に遊びし云々、貞享四年の衣服ひな人形をみるに、いせ土産の模様あり、笛は小さき笙の笛なり「永代蔵」に伊勢のみやげをいふ処、笙の笛 貝杓子して世を渡る 海の若和布の数しらずなどいへり

この記述だけでは具体的な形状は不明だが、「小さき笙の笛」とは、雅楽の笙(しょう)のサイズをそのまま小さくしたものではなく、篠笛(しのぶえ)のように単に一本のシンプルな笛であったと想像できる(下写真は篠笛)。

お伊勢参りの一般庶民に売るお土産品なので、値段を抑えるために素材も構造もシンプルな作りが選ばれるであろう。おそらく「小さき笙の笛」は、篠笛のような複数の穴もなく、実際に吹いても単音しか鳴らないような素朴な土産品だったのではないだろうか。

ちなみに、篠笛(しのぶえ)の「篠」は音読みで「ショウ」。これを「笙の笛」と結び付けて考える説もあるようだ。

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