Stand Alone スタンド・アローン 歌詞の意味

サラ・ブライトマンが歌手を務めたNHKドラマ「坂の上の雲」主題歌

『Stand Alone』(スタンド・アローン)は、2009年から2011年まで放送されたNHKドラマ「坂の上の雲」主題歌。

同ドラマは明治維新から日露戦争までの日本を描いた3部構成で、主演は本木雅弘。原作:司馬遼太郎。

そのうち第1部の主題歌について、世界的ソプラノ歌手サラ・ブライトマン(Sarah Brightman/1960-)が歌手を務めた。母音のみによって歌う歌唱法ヴォカリーズ(vocalise)による歌のほか、日本語の歌詞もサラ・ブライトマンの歌声で披露された。

第2部は森 麻季(もり まき)、第3部は久石譲の娘・麻衣。

NHKドラマ「坂の上の雲」

作曲は、スタジオジブリ作品で知られる久石譲(ひさいし じょう)。作詞は、映画「おくりびと」の脚本を手がけた放送作家の小山薫堂(こやま くんどう)。

このページでは、ドラマ「坂の上の雲」主題歌『Stand Alone』の歌詞について、ドラマで描かれた明治維新の日本を重ね合わせながら、その内容・意味合いについて簡単に考察してみたい。

【YouTube】 Stand Alone 歌:森 麻季

歌詞

NHKドラマ「坂の上の雲」主題歌『Stand Alone』(作詞:小山薫堂)の歌詞を次のとおり引用して、その内容を確認してみたい。

ちいさな光が
歩んだ道を照らす
希望のつぼみが
遠くを見つめていた

迷い悩むほどに
人は強さを掴むから
夢をみる

凛として旅立つ
一朶(いちだ)の雲を目指し

あなたと歩んだ
あの日の道を探す
ひとりの祈りが
心をつないでゆく

空に 手を広げ
ふりそそぐ光あつめて
友に 届けと
放てば 夢叶う

はてなき想いを
明日の風に乗せて

わたしは信じる
新たな時がめぐる
凛として旅立つ
一朶の雲を目指し

明治維新と『Stand Alone』

NHKドラマ「坂の上の雲」の舞台は、主に1894年(明治27年)の日清戦争前後から1904年(明治37年)の日露戦争前後までの日本。

富国強兵・殖産興業などのスローガンの下、旧幕府時代に締結された不平等条約の改正を目指し、欧米列強に追いつかんとして様々な欧化・近代化が進められた。

この時代背景を踏まえて『Stand Alone』の歌詞を見ると、「歩んだ道」、「強さを掴む」など、明治政府の欧化政策・富国強兵などによる日本の近代化の歴史を思わせるような表現がいくつか見られる。

しかも、これから「歩む道」ではなく、過去を振り返る形の「歩んだ道」であり、ある程度近代化が完了して力を備えた時点からの描写であることが分かる。

具体的には、近代化の道を歩み、ロシア帝国のバルチック艦隊との決戦を控えた日本における、ドラマの主人公らを取り巻く状況を描写した歌詞のように感じられる。

一朶(いちだ)の雲

歌詞にある「一朶(いちだ)の雲」の「一朶」とは、ここでは「ひとかたまり」の意味。他にも「花の一枝、一輪の花」といった意味があり、「一朶の桜」「一朶の白百合」などのように使われる。

小説 坂の上の雲 司馬遼太郎

ドラマの原作となった小説『坂の上の雲』を執筆した司馬遼太郎は、同著(文春文庫)のあとがきでつぎのように「一朶」という表現を用いている。

楽天家たちは、そのような時代人としての体質で、前をのみ見つめながらあるく。 のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲がかがやいているとすれば、それをのみ見つめて坂をのぼってゆくであろう。

余談だが、「一朶」の漢字「朶」を分解すると「乃」と「木」、つまり「乃木」になる。乃木といえば、日露戦争で旅順攻囲戦を指揮した陸軍大将・乃木希典(のぎ まれすけ/1849-1912)が思い出される。

司馬遼太郎は、小説『坂の上の雲』の中で乃木希典を「無能・愚将」と散々に批判しており、乃木大将を念頭に置いたうえで、この「一朶」という表現を皮肉を込めて用いている可能性も少なからず考えられる。

曲名の意味は?

曲名の英語「Stand Alone」を辞書で調べると、コンピュータや情報機器が、ネットワークや他の機器に接続しないで、単独で動作している環境を意味するとの解説がなされている。

もちろんこの曲における「Stand Alone」はその意味ではなく、近代化を遂げた明治時代の日本(および日本の軍人ら)が「凛として」立つ様を表現した意味合いになっているという。歌詞の中にも「凛として」という表現が用いられている。

筆者の私見としては、当時の東アジア諸国がイギリス・フランス・オランダなどのヨーロッパ諸国に植民地化されていった中で、アジアで日本だけがその植民地化に抵抗(stand)した唯一(Alone)の国である、ということを暗に含めているのではないかと勝手に想像している。

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