もう一人のジョン・ブラウン3等軍曹

リパブリック讃歌の謎 The Battle Hymn of the Republic

リンカーンによって召集された志願兵によって編成された部隊のひとつに「ボストン第2軽歩兵部隊」という部隊がありました。

ボストン湾の島の上にウォーレン砦という軍の施設があり、北部軍によって捕らえた南部軍の捕虜をそこで収容するのに用いられていたようですが、「ボストン第2軽歩兵部隊」は南北戦争が始まって間もない頃はこのウォーレン砦で瓦礫の除去作業などをしていたようです。

リンカーンの呼びかけに北軍の兵士として戦うことを志願してこの「ボストン第2軽歩兵部隊」に所属していた志願兵の一人に、「ジョン・ブラウン」という名前の3等軍曹がいました。このジョン・ブラウンは2年前に絞首刑に処されたあのアボリショニストの彼とは偶然同姓同名ですが、二人は全く血縁関係も人生における接触も一切なかった赤の他人でした。

しかし、いつの時代でも有名人と同じ名前を持った人は周りから妙に気を使われたり話のネタにされたりするのが世の常らしく、この志願兵のジョン・ブラウン3等軍曹も同じ部隊の同僚からよくその名前がらみでからかわれていたようです。

ある日、ジョン・ブラウン等の部隊はウォーレン砦の瓦礫除去作業に従事していたのですが、その作業中にある新入りの兵隊が「Say, brothers, will you meet us」のメロディーを口ずさんでいて、それを耳にしたジョン・ブラウンの同僚がチャンスとばかりに即興(アドリブ)的にある歌詞をつけて歌い、ジョン・ブラウンをからかおうとしたのです。

「John Brown’s body lies a mouldering in the grave~♪」

(ジョンブラウンの身体は墓の下~♪)

2年前に殉死したアボリショニストのジョン・ブラウンは当然お墓の中ですから内容的には史実と合致しているようです。これのどこがジョン・ブラウン3等軍曹の彼をからかっているのかよく分かりませんが、数年前に世間を騒がせた有名人と同じ名前というだけで十分だったのでしょう(ちょっと子供じみてますね)。この替え歌を聞いた他の同僚がさらに「His soul’s marching on!(彼の魂は行進し続ける)」とさらに替え歌の歌詞を続けることで、ここに「John Brown’s body」の1番が完成したのです。

さらに付け加えられる替え歌の数々

同僚の微笑ましい即興の結果ジョン・ブラウン3等軍曹の歌に生まれ変わった「Say, brothers, will you meet us」のメロディーは、もともとメロディーが非常に印象的であったこともあり、さらに同じ部隊の人間に伝え広められて人気を博していきました。

この歌詞が生まれたきっかけは他愛のない同僚の軽い悪ふざけでしたが、そもそもアボリショニストの「ジョン・ブラウン」という人間は、南部奴隷州による黒人奴隷制度撤廃のために南北戦争に先駆けて勇敢に戦って殉死したまさに英雄的存在であったのであり、その南軍とこれから熾烈な戦いを繰り広げようとしている志願兵達にとってはある種の「軍歌・愛国歌」的響きを持つことになっていくのでした。更に南北戦争が進んでいくにつれ、その年の人物や出来事を反映した歌詞が次々とつけられていったようです。

He’s gone to be a soldier in the army of the Lord,
He’s gone to be a soldier in the army of the Lord,
He’s gone to be a soldier in the army of the Lord,
His soul’s marching on!
Chorus

John Brown’s knapsack is strapped upon his back?
John Brown’s knapsack is strapped upon his back?
John Brown’s knapsack is strapped upon his back?
His soul’s marching on!
Chorus.

His pet lambs will meet him on the way?
His pet lambs will meet him on the way?
His pet lambs will meet him on the way?
They go marching on!
Chorus.

They will hang Jeff Davis to a tree!
They will hang Jeff Davis to a tree!
They will hang Jeff Davis to a tree!
As they go marching on!
Chorus.

Now three rousing cheers for the Union!
Now three rousing cheers for the Union!
Now three rousing cheers for the Union!
As we are marching on!
Chorus:

Glory, glory, hallelujah,
Glory, glory, hallelujah,
Glory, glory, hallelujah,
Hip, Hip, Hip, Hip, Hurrah!

マサチューセッツ州政府オフィシャルサイト

http://www.state.ma.us/film/feefree/geoisland.htm

CONFEDERATE PRISONERS held at FORT WARREN

http://www.geocities.com/coh41/FtWarren.html

「エルズワースの亡骸」なんてのもあるんです

どうでしょうか?やっぱりちょっと後付けっぽくて作り話の感じは否めませんが、同姓同名の「ジョン・ブラウン」という兵士が実在したという点はかなり信憑性が高いようです。「ジョン・ブラウンの身体(亡骸)(John Brown’s body)」の元歌である「Say, brothers, will you meet us」についても後述しますが、このメロディーは非常に人々の受けがよくて、「ジョン・ブラウンの身体(John Brown’s body)」以外の様々な形で人々の間に広まっていったようです。

次のページでは、「ジョン・ブラウンの身体(亡骸)(John Brown’s body)」の別バージョンである「エルズワースの身体(亡骸)(Ellsworth's Body)」という曲について見てみたいと思います。

【次のページ】 エルズワースの亡骸

リパブリック讃歌 誕生編 目次

  1. はじめに
  2. 父から受け継いだ血潮
  3. シークレット・シックス
  4. 特殊教育の道を開いたハウ氏
  5. ジュリア・ウォードとの出会い
  6. ハウ夫妻と北軍
  7. 真夜中の突然のひらめき
  8. もう一人のジョン・ブラウン
  9. エルズワースの亡骸
  10. グローリー・ハレルヤ
  11. 本当の作曲者は誰?
  12. メロディーの源流?
  13. ジョン・ブラウンの赤ちゃん
  14. 権兵衛さんの赤ちゃん
  15. ジョン・ブラウンの魂

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