肉の別名・隠語の由来 牡丹・桜・柏・紅葉
なぜ植物・花の名前が使われるの?

江戸時代の肉食文化に由来する肉の隠語・別名まとめ

馬や鹿、猪(いのしし)などの肉は、馬肉・鹿肉・猪肉といった普通の呼び方の他に、それぞれ桜肉・紅葉(もみじ)・ぼたん肉といった、花や植物の名前を使った別名がつけられている。

一体なぜ、これらの肉にだけ別名があるのか?その理由や由来、獣肉食の歴史について簡単にまとめてみた。

写真:桜肉料理(出典:祇園 馬春楼@localplace.jp)

戦国時代の獣肉食

戦国時代には、一般的に牛馬の肉を食べることは禁忌(タブー)とされていた。豊臣秀吉は、ポルトガルの宣教師に対して、獣肉食は「曲事(きょくじ)である」(不正である)と詰問した記録が残されている。

ただ、まったく食べられていなかったわけではなく、キリシタン大名の高山右近は小田原征伐の際に牛肉料理を振舞っているほか、地方では養豚も行われていた。

江戸時代の獣肉食

江戸時代に入っても、獣肉食の禁忌は、上流階級を中心に「建前として」守られていた(薬として食されていた)。

一般庶民の間でも馬や鹿・イノシシなどの獣肉食は抑制的で、それらの肉を提供する料理やなどは、店の看板などに隠語を使って客を呼び込んでいた。

挿絵:歌川広重の浮世絵「名所江戸百景」より(出典:Wikipedia)

獣肉の隠語には植物や花の名前が使われることが多く、馬肉は桜肉(さくらにく)、鹿肉は紅葉(もみじ)、イノシシ肉は牡丹や山鯨(やまくじら)という別名が使われていた。

それぞれの隠語の意味や由来について簡単に見ていこう。

桜肉(さくらにく)

馬肉の隠語・別名「桜肉(さくらにく)」の由来については、次のとおり諸説ある。

・馬肉を切ったときに切り口の赤身部分がわずかに桜色となるから

・馬肉の切り身がサクラの花びらを連想させるから

・幕府直轄の牧場が千葉県佐倉市にあり、「馬といえば佐倉」だった

なお、桜肉をすき焼きのようにして食べる鍋料理は桜鍋(さくらなべ)と呼ばれる。

紅葉(もみじ)

鹿肉の隠語・別名「紅葉(もみじ)」の由来については、一般的に花札(はなふだ)の絵柄がルーツと考えられている。

花札は1月から12月まで各月に4枚ずつ季節の花々が絵柄に用いられているが、10月の絵柄は紅葉(もみじ)であり、その種札(10点札)には紅葉と鹿が一緒に描かれている。

紅葉(鹿肉)を用いた鍋料理は紅葉鍋(もみじなべ)と呼ばれる。

ちなみに、無視することを「シカト」というが、その語源は、この図柄の鹿がそっぽを向いて無視しているように見えることに由来している。10月の鹿の札「鹿の十(しかのとお)」を略して「シカト」というわけだ。

牡丹(ぼたん)・山鯨(やまくじら)

猪肉の隠語・別名である「牡丹(ぼたん)」の由来については、「牡丹に唐獅子(獅子に牡丹)」という成句が大きく関係している。

上の画像は、東本願寺の唐獅子牡丹図。獅子と牡丹の花がセットで描かれている。「獅子(しし)」と「猪(いのしし)」を掛けて、イノシシ肉は隠語で「牡丹肉(ぼたんにく)」と呼ばれていた。

牡丹肉を用いた鍋料理は「ぼたん鍋」と呼ばれる。猪肉を牡丹の花のように盛り付けるのは後付けの演出であり、猪肉を牡丹と呼ぶ由来ではない。

なお、イノシシ肉は江戸時代には「山鯨(やまくじら)」とも呼ばれていた。クジラ肉は食べても問題はない食材だったため、飲食店などが隠語として用いていた。

柏(かしわ)

「柏(かしわ)」は鶏肉(ニワトリの肉)の別名。関西や九州地方を中心にこの呼び名が広まっている。

名前の由来については諸説あり、色づいた柏の葉に似ているから、鶏の羽ばたきが神社で「かしわ手」を打つ姿に似ているから、朝廷に存在した「膳部(かしわべ)」という料理方があったから、など様々な見解があるが、決定的な説は未だ無いようだ。

なお、上述の馬・鹿・猪とは異なり、鶏肉(ニワトリの肉)は江戸時代には一般的に食されていた(主に水炊きで)。

採卵用にも鶏が飼われており、江戸時代の料理書「料理物語」(1643年)には、鶏卵を用いた各種の料理や菓子が記されている。

月夜(げつよ)

ウサギの肉については、武士や庶民は特に食用に関する禁忌はなかったが、仏教徒(僧侶など)だけは別。ウィキペディアには、ウサギ肉について次のように解説されている。

僧侶もひそかに肉食をするようになり、特にウサギは鳥と同様の扱いになって、『嘉元記』の1361年の饗宴記録にもウサギ肉について記載されている。

<引用:ウィキペディアより>

日本ではウサギ類を「1羽、2羽…」と数えるが、これは獣肉食を禁じられていた仏教徒が密かにウサギ肉を食べるためにウサギを鳥として扱っていたことに由来している。

ちなみに、ネットで検索すると、ウサギの肉を「月夜(げつよ)」と呼ぶことがあるようだが、この呼び方の由来や歴史については一切不明。

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